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33話 苦戦

 『こいつ! 男のくせに戦い慣れてるじゃない!?』


 

 この世界では男性より女性の方が戦地に立つ機会が多い分、戦闘慣れしてるはずがない。

 にも関わらず、素手で黒い魔力を纏わせ周囲に振り撒くケリーの攻撃は付け焼き刃ではなく、数多の実戦で身についたものだと感じさせるほど激しいもので、中にいる鈴芽ちゃんも苦言を溢した。

 


 黒い魔力――一見ただの霧のようなモヤだが、それに触れると身が削れるような痛みを伴う。

 粒子一粒一粒がチェーンソーの刃のようだ。

 そんな霧を自在に操り縦横無尽に攻めるケリーに、俺とお兄ちゃんは苦戦を強いられていた。


 

 「ただの学生にしてはやる! 流石世界唯一の男ウィザードですね。解放者といい、なかなか楽しませてくれますね」

 


 もちろんイズナにも手を焼かされる。

 互いに緻密な連携を取っては庇い攻撃し、本当に現役ウィザードではないのかと思わせるほどの卓越した技術。

 だけど俺たちも三日間、来栖さん達の元で合宿をしたんだ。そうそう簡単に負けてられない。

 


 お兄ちゃんの大きな体の裏から飛び出しては奇襲攻撃を仕掛ける。広い教室だが、机に椅子、気を失った生徒達の体で動ける場所が限られているせいで鈴芽ちゃんの能力を活かしきれない。

 故に俺の攻撃なんて予想通りと、余裕でイズナに受け止められてしまう。


 

 『アリスとアカリが居ればこんな奴らすぐなのに!』


 

 鈴芽ちゃんの言う通り、数的有利を取れたらこの二人なんて敵じゃないだろう。だけど頼みの二人は気を失って机に突っ伏してしまっている。

 起こしても良いが、ケリーの催眠のカラクリが分からない。女性に効果があるとはいえ、細かい条件を知らなければ起こしたところでまた気を失うだろう。

 最悪、催眠で敵に回るかもしれない。

 だからおいそれと起こすわけにはいかなかった。


 

 「鈴! そっち行ったぞ!」

 


 お兄ちゃんが相手をしていたケリーが俺に腕を向けて魔力を放った。

 黒い霧が目の前に広がる。

 咄嗟に机を蹴り教室中を駆けては、壁を蹴り跳ねるようにして攻撃を躱す。

 


 「不思議ですね〜。なぜ私の姿を見ても理性を保っていられるのでしょう……。あなたの体がどういった構造か気になりますね〜」

 


 ケリーが首を傾げて言う。

 その言葉を受けて俺は背筋が凍った。

 まるで興味があるから解剖したい、というワクワクに満ちた顔を浮かべられたからだ。


 

 「キモい!」

 


 霧を掻い潜り、ケリーに剣術を見舞う。

 流石に教室中を不規則に跳ねる俺の軌道は読み切れなかったのか、ケリーの体に傷を刻み込むことが出来た。

 


 「ぐっ!」


 

 これには流石の余裕も崩れたようで顔が痛みに歪んだ。

 だがここで深追いをしないのが俺だ。

 すぐに飛んでその場から離れると、霧が俺のいた場所を抉り取る。

 傷口を抑えるケリーの元にイズナが駆け寄る。


 

 「傷を負うなんて情けない。これだから男は……」


 「仕方ないじゃないですか。これが私の初戦闘なんですよ? 少しぐらい多めに見てもらっても良いのでは?」


 

 イズナの嫌味にケリーが悪態で返す。

 一見、普通にある光景。

 だが俺にはそれがなんだか歪に見えた。


 

 イズナが一切ケリーの方を……顔を見ないからだ。

 今思い返すと講義が始まる前から、イズナはケリーの顔を見ていなかったように思う。

 


 それにイズナも女性だ。

 他の生徒と同じようにケリーの催眠にかかっていてもおかしくないはずなのに、平静を保っている。

 この二つをきっかけに俺は一つの仮説を立てた。



 ケリーの催眠は顔を――いや、目を見ることで作用するのでは?……と。

 


 そう考えて俺はお兄ちゃんの元に駆け寄り「ちょっと」と耳元に口を近づける。お兄ちゃんは俺の意図を汲んで耳を傾けてくれた。

 


 「あいつらの催眠のカラクリが分かったわ」


 「本当か!?」

 


 お兄ちゃんが驚き声を上げて俺の方に振り向く。

 声が大きいと俺は静かにするよう促す。

 これにはお兄ちゃんも「しまった」と焦り口を閉じた。


 

 「黙って聞いて。多分だけどケリーの催眠は相手が女性で、目を合わせると発動する。確証はないけど、イズナがケリーと目を一切合わせない様子から私はそう考えたわ」


 「マジか……。ん? だとしたらなんで鈴は効果が無いんだ? お前もあいつの目を何度か見てるだろ?」


 

 言われて焦る。失言だ。

 今の自分の体が女性である事を失念していた。

 鈴芽ちゃんである事は分かっていたのだが、いかんせん 

 女って意識が頭から抜け落ちている。

 


 「そ、それは……。あれよ! 私の魔力があまりにも強くて効果がなかったのよ!」

 


 流石に無理があるか?

 そう思いながらお兄ちゃんを見ると、やはり疑いの眼差しを向けられてしまう。

 


 「話し合いとは随分と余裕ですね!」


 

 イズナが俺達に鎌をぶつけてきた。

 お兄ちゃんが俺を押し退け、刀で撃ち合う。

 これにはナイスとイズナに感謝した。

 とはいえ肝心な話が出来なかったのは辛い……。お兄ちゃんが今の話から俺がこれからする事の意味を汲んでくれる事を信じるしかないか。

 


 そう考え、俺はケリーに向かいできる限り全力で走る。

 そう……残像が残る程度の速度さえ出れば良い。

 今必要なのは少しの時間。

 俺がアリスとアカリを起こす、そのための時間。


 ケリーが言った奴の初戦闘という言葉を信じて、騙される方に賭けるしかない!

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