31話 洗脳そして敵対
まずいまずいと思い続けてもう30分も経過した。
教室内はケリーへの質問の嵐で大賑わいというか混沌とした状況だ。
その中にはアカリはもちろんアリスも含まれている。
どうやら彼女も洗脳を受けているみたいで、ファンタジアのメンバーになる気でいっぱいな様子だ。
『こんな事なら先生達を待機させるべきじゃなかったわね』
後の祭りとはこの事だろう。あの時はこれが最善だと考えてた。だけど、いざ挑んでみるとここまで危険な連中だとは思わなかったし、想定もできなかった。
きっとこれまでは個人単位で洗脳していたんだろう。
教師にバレないように密かに……。
それが今回教師陣は全て別室で待機して俺たちの帰りを待つ状態にしてしまった。
奴らからすれば入れ食いの状況。
これが非常にまずい。まずいと思いつつもこの状況を打破するいい案が浮かばない。
だとしてもこのままや裏の好き勝手にさせるわけにはいかない!
催眠の種はなんだ? 声か? それとも目? 匂いってのもあるな。
俺とお兄ちゃんが催眠の効果がなくて獅子にだけ効果がある違いは? 女の体である俺の魂に影響はなくて裏で控えてる鈴芽ちゃんに影響した要因はなんだ?
考えろ……。考えろ!!
そう考えている間も刻一刻と講義終了の時間は迫る。生徒はもはやケリーとイズナをアイドル化なんだと思い込んでいるようにスタンディングオベーション状態にまで発展してしまった。
『こうなったらあの手しかない!』
『な、何するつもりなのよ!?』
あの手とはもうこれしかないだろう。
そう考えて腕に魔力を纏わせる。
鈴芽ちゃんはその体の感覚と魔力の流れからハッと気づく。
『あんたまさか!』
『そのまさかだよ。戦機を出して魔力をここ一体に放出する。それで多少はこのお祭り騒ぎも収まるはず』
『ばか! そんなことしたら私たちが悪目立ちしてしまうじゃない!?』
『だとしても今のこの状況よりは何倍もマシだよ!』
『効果が無いかもしれないのに?』
それはあるかもしれない。だけど今この場でそれ以上にいい案が思い浮かばない。
シャーペンを突き刺した痛みで鈴芽ちゃんの意識が戻ったのなら魔力の波動をみんなに当てることができれば同じように意識を取り戻す可能性もあるはず。
だったらやるべきだろう。
そう考えると、鈴芽ちゃんも諦めたように『わかった……あんたの考えに賭けるわ』と許可を出してくれた。
サンキュー鈴芽ちゃん! 君はやっぱ最高の女性だぜ!
「戦機解放ッ!!」
歯車型の魔法陣が展開されて魔力の波動が拡散する。
それは風のように辺りへ行き渡り、生徒達の動きが止まり、自分が今まで何をしていたのか疑問を感じ始めている。
どうやら俺の考えは上手くいったみたいだ。
だけどその行動はやはりファンタジア二人にも目立ってしまい、ケリーは驚きの顔を浮かべてこっちを見て、イズナは目を細め明らかに敵意を剥き出しにしている。
だけどやってしまったからにはもう後には引けない!
俺は解放した魔力の渦からライトニングスパローを抜き取り机の上に立って切先を二人に向けた。
その授業崩壊先導者のような立ち振る舞いに正気を取り戻したアカリとアリス。一部始終を冷静に見ていたお兄ちゃんが目を剥いた。
「ちょっとあんた達! さっきから何怪しいことしてんのよ!」
怪しいことと言ったのは催眠という言葉が妥当でない可能性。もしかするとイズナの方が戦機を使って何かをしたってのも考えられた。
となると魔法だ。それ以外にも考えられることはあるが今この場で突きつけるのはこれで十分だろう。
「おやおやこれは驚きましたね。私のありがたい話を聞いておいてそんな敵意を向けてこられるなんて……これは前代未聞、初めてのことですよ? ねえイズナっち?」
ケリーが興味深そうに俺を見てはイズナに投げ掛けた。
イズナはちっと舌打ちをして小さく唱えた。
「戦機解放」と――
イズナの足元に歯車型魔法陣が展開される。
床から柄のような棒が生えてきては彼女はそれを抜き取る。
ブンブンと振り回し構えられたその形状は鎌だった。
しかも大鎌だ。
アニメとか漫画でよく映える女性に持って欲しい武器トップに入るあの大鎌だ!
昂るテンションを堪え俺は手に握るライトニング酢アローの鋒をケリーからイズナに向き直した。
ここで戦機を抜いたということは、生徒達に何かをしたという答え合わせだろう。
しかも正解ときた。
となれば今から起きることはもちろん――
「あなたがどのようにして私たちの術から突破したかは分かりませんが、その力は厄介です。教師を呼びに行かれるのも面倒なので今この場で始末します」
「やっぱそうくるよね……」
だけどここには俺たちの仲間の戦闘学生がいる! それも大量にだ!
「みんな敵襲よ! 戦機を解放して――」
「無駄ですよ?」
ケリーがニヤリと微笑みそう言った。
俺は周りの生徒達をみるとみんな目がトロンとして眠りにつく寸前の状態になっている。
どうやら催眠をかけてたのはイズナではなくケリーの方だったみたいだ。
「あんた男のくせに魔法みたいな事できるのね?」
「はっはっは。これも我が政党の成果の一部ですよ。本当はこのような使い方はしたくないのですが、あなたが戦機を抜いた以上、こちらもそれなりに本気を出さなければ礼儀に反するでしょう?」
礼儀どころか仁義に反してるけどね!
ってかあんたたちはもはや反社だよ!
そう心にツッコミを入れつつも今が不利な状況である事に汗が流れる。
男なのに謎の魔法が使えるケリー。戦機を解放したウィザードのイズナ。
この二人と戦いながら生徒達を守って先生達にこのことを伝える。
到底一人じゃ無理そうだ。
そう思ったが――
「鈴! 俺も手伝う!」
「お兄ちゃん!?」
遅れてやってきたお兄ちゃんの手には氷鬼が握られていた。今のどさくさに紛れて戦機を取り出していたらしい。
この状況ではお兄ちゃんほど心強い味方もいない。片方がケリーでもう片方がイズナを相手すればこの場はなんとかなる!
お兄ちゃんはファンタジア二人を睨みながら正眼の構えを取った。
「話はよくわかんないけど、こいつらがみんなに何かしたって事だよな?」
「多分ね。って言ってもほぼ確実にそうだと思うけど。どういう理屈でみんなを洗脳したかはわからないからケリーの動きには注意して」
「了解。なら俺が同じ男の吉見としてあの金髪野郎をやる」
「おーけー。なら私はイズナね。任せるわよお兄ちゃん」
「少しぐらい兄として良いところ見せないとな!」
『きゃぁぁぁぁ!!』と心の中で鈴芽ちゃんがお兄ちゃんに熱烈な黄色い歓声をあげていた。
気持ちは分かるよ? 好きな人のかっこいい姿を見ればそうなるのはね?
でもさ、俺も戦うんだよ? すこしぐらい俺の事も応援してくれたって良くない?
そう思いながらも俺とお兄ちゃんは胡散臭い政治団体ファンタジアの二人と戦う事になった。
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