28話 慌ただしい学校
校舎に入ると、何やら慌ただしく先生達が廊下を行ったり来たりと行き交う様子が見えた。
恐らくファンタジア来校に備えて色々準備しているのだろうけど、いつも冷静な先生達がこうも余裕のない姿を見せられると、不安になると言うものだ。
『いつ来るか分からないって言ってたし、一限目から来ることを警戒してるのかも知れないね』
そうだとしたらファンタジアって組織、相当礼儀が悪いと思うんだけど、私だけ?
普通大人なら今日のいついつに伺いますって約束して来るものじゃないの?
そういう所からすでに胡散臭い政治団体ということが伺えてしまう。
そんな先生達を尻目に教室へ入り、各自自分の席に向かう。アカリに質問役を任せるのは不安だけど最低限の備えはしておいた。最悪大樹が原作知識を活かして立ち回ってくれるし問題はないだろう。
『そこまで期待されてもねぇ……。ファンタジアって組織自体不明な部分が多いから』
『だとしてももうあんたしか頼れる人がいないの。柳先生も茜さんも、結由織先生も講義には来てくれないんだから』
机に頬杖をつきながら脳内で大樹と会話する。
窓の外を見るとこうも不安な状況だというのに空は晴れ渡っていた。
窓から入って来る風が心地良い。
このまま授業が始まるまで眠ってしまえばさぞ気持ちのいいことね。
とは思うが、そんなに悠長に構えていられない。
アカリの方を見ると珍しく真剣な顔をして考え込んでいるようだ。
『やっぱ朝の事を気にしてるのかな?』
朝の模擬戦。反省会では明るくお兄ちゃんを励ましていたけどアカリ自身が一番凹んでいたのかも知れない。
でもあれは相手が悪いから仕方のない事だと思うけど……。
『まあ……彼女の性格的にそうだろうね』
『設定言うな』
私達の世界に生きてる人のことを設定って言葉で片付けられるとなんかすごい嫌だ。
誰かの都合で生まれたとか、そんな風に考えたくないから……。
そんな私の言葉に大樹は「ごめん……」と呟いた。
『アカリの性格的にって意味なら気にはなるわね。 なんでそう言えるの?』
『俺が知ってる品川アカリは、性格的に明るく振る舞おうとして余裕を誇示する事が多いんだけど、その裏ではかなり繊細な性格でね。ちょっとしたミスでも後を引いて考え込んでしまうぐらいだったよ』
『なるほどね〜。そう言われると確かに今のアカリと一致してる部分があるわね』
窓の外を見ながら「はぁ」と息を吐くアカリ。気が滅入っているだけじゃなく、緊張もあるかも知れない。
そうなるとアカリの提案は何が何でも断っておいた方が良かったのかな?
いやいや。アカリの性格を考えるならあの場で強く拒否してたら猛反発して何しでかすか分かったもんじゃないわよね……。
だったらあれで正解……。そう自身を納得させた。
『明るく真面目で繊細。そのせいで原作だといきなり学校に攻め込んできたテロリストを挑発して反撃されたんだよね。その時はお兄ちゃんが体を張って守ったんだけど、そのせいで闇落ちして単身テロ組織に突っ込んで人質にされたんだけど……』
『やりかねないわね……。なんて無謀で危なっかしいのよ……』
『責任感が強いんだよ……。まあこの世界のアカリは実力も原作以上に兼ね備えてるみたいだからそう簡単に捕まったりしないだろうけど』
『何げに流されたけど、そのテロ組織の名前って?』
『確か……人類解放戦線だったかな? アビスは政府がでっち上げた人々をゲートで縛る口実だ〜って陰謀論をでっち上げてはいろんな迷惑をかけるイカれた集団だよ』
『そ。なら今回とは無関係ね』
もしかするとそのテロリストがファンタジアだったりって考えたけど杞憂だったみたいね。
鞄から荷物を出し終えて暫くボーッと過ごしていると校内放送が流れた。
『全校生徒の皆さんおはようございます。本日の一限目は各学年別の特別講師による特別授業になります。その為生徒の皆さんは各担任の指示に従って指定の教室へ向かってください』
なんとなく分かってはいたけど、やっぱり最初に来たわね。いつ来るか伝えてなかったあたりそうだとは思ったけど。
『ファンタジアって相当社会性のない奴らみたいだね』
違いない。アポイントメントって言葉の意味を知らないのかもね。
そんな礼儀知らずの講義なんて聞きたくもないけど、これも作戦の為。
頬を叩き気合を入れる。
机の近くにアリス、お兄ちゃん、そしてアカリがやって来ては静かに頷いた。
「いよいよね。アカリ、あなた緊張してたみたいだけど本当にやれる?」
「当たり前や! ウチに任しとき! アビス解放者のこのウチにな!」
アリスの言葉にアカリが胸を叩いて強くそう言った。
虚勢かも知れない。この場の私達に迷惑をかけまいと。
そんな彼女にお兄ちゃんが頭を撫でながら話す。
「アカリ。あまり背負い込むなよ? ここには俺たちもいるんだからさ」
「ゆっきー?」
アカリはキョトンとした顔でお兄ちゃんを見つめる。
お兄ちゃんはひとしきり雑に頭を撫でた後にニッとアカリに笑いかけた。
「俺たちはたった三日とはいえ一緒に合宿を乗り越えた仲間だろ? もし何かあれば遠慮なく頼ってくれよな!」
「あ、ありがとう。ならウチが困ったときは遠慮なく頼らせてもらうわ! 覚悟せえや?」
「おう!」
そうして柳先生が教室に入ってきて指定の教室へ向かうように言ってきた。
先生はチラッとだけだが私達に目を向けて頷いた。
「頼みましたよ」と言ったように。
そんな先生にこくりと頷き返し、私たちは教室を出る。
作戦開始だ。
失敗することは許されない学生の私たちだけの……。
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