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26話 最終日

 翌朝。合宿最終日となった今日は、恒例の模擬戦に臨んでいた。

 ファンタジアの懸念もあり体力の温存も考えたが、ここまで特訓と作戦会議をしておいておしまい、なんて中途半端なことは私たちは嫌だった。

 だから「最後までやらせてほしい」と来栖さんたちにお願いしたのだ。

 


 彼女たちは少し驚いた反応を見せたが、快く了承してくれて、今こうして刃を交えることができていた。

 来栖さんを先頭にした一列陣形は変わらず、中央に柳先生、後部に八重さんが控えた――来栖さんを主体にした布陣だ。

 


 対する私たちは、アカリとお兄ちゃんを先頭に、中央にアリステラ。最後尾に私がついている。

 もっとも、最後尾と言ってもここからすぐに離れることになるんだけどね。


 

 アカリと来栖さんが接触し、戦闘が開始された。

 お兄ちゃんが柳先生に攻撃を仕掛けるが、八重さんが後方からお兄ちゃんを射抜こうと弓を引き絞る。

 それを見た私は後方から移動し、瞬く間に八重さんの背後を取る。

 だが、やはり柳先生はその動きを想定していて、糸を八重さんの後方に壁のように張り巡らせていた。

 私の体が糸に絡め取られ、八重さんが振り返り弓を射るが――

 そこにあった私の体が薄れて消える。


 

「ざ、残像!?」


 

 そう。私は柳先生なら後方に何か罠を仕掛けていると想定して、とっくにその場から走り去っていた。

 狙いは――

 


「覚悟してください、柳先生!」


 

 お兄ちゃんと肉薄する柳先生だ。

 八重さんの援護射撃を妨害して、無駄に後方へ攻撃を誘導した甲斐あって、お兄ちゃんと柳先生が膠着状態に持ち込まれていた。

 私は柳先生の腕を狙って、ライトニングスパローの刃を振るった。

 


「くっ!」


 

 柳先生は咄嗟に腕を動かし、私の攻撃を回避してみせたが、その無理矢理な動きによって、お兄ちゃんの刀を受け止めていた糸が緩んだ。

 


「でかした! 鈴!」

 


 この隙にお兄ちゃんが一閃、柳先生の腕を斬り裂く。


 

「やられたっ!」

 


 柳先生が余裕を崩した言葉を吐いた。

 彼女らしくない発言に、私は作戦通りうまくいったと捉える。

 予定通りならこのまま柳先生をお兄ちゃんが切り崩し、私は八重さんの動きを止めつつ撃破。

 後方に控えたアリスが隙を見て一点突破のドラゴンブレスで一網打尽――という算段だ。

 私は柳先生の傍を通り抜け、弓を引き絞る八重さんに距離を詰める。


 

「やる!」


 

 八重さんが引き攣った顔を浮かべながら弓を射るが、光速で動ける私に弓は相性が悪い。

 放たれた矢を容易に躱して、彼女の体に剣術をお見舞いする。


 

 一撃、二撃、三撃――と連続で刃を振るうが、弓で全て防がれてしまう。

 さすが特殊部隊の一員。射手であっても私の攻撃に感覚で対応してくるあたり、この人も漏れなく化け物の一員といえる。

 だけど、予定通り八重さんを来栖さんたちから遠ざけることはできた。

 


 来栖さんといえば、アカリがグローブを振るって連続で殴りつけては、棒術で往なされている。

 ほぼ素手の状態から放たれるアカリの格闘術は、来栖さんの棒術より自由度が高く、何発か体に打ち込むことができていた。

 


「やるわね〜。たった三日でここまで連携が取れるなんて」


「褒めてくれておおきに! やけど、その余裕もどこまで保つかな!」


 

 アカリが来栖さんを殴りつけようと拳を振るう。

 来栖さんはバク転で回避し、距離を空けた。


 

「少し距離を取れば、あなたの間合いからは簡単に外れることができるわ〜。こうなるともうあなたには――」


「いつウチが来栖さんを倒すって言った?」


「え――しまった!」


 

 アカリが意味ありげに笑みを浮かべた姿から、来栖さんは罠だと気づいたようで、後方に控えるアリスに目をやった。

 そこにはすでにチャージを終えて、ドラゴンブレスをいつでも放てるように待機していた。

 そう……彼女は静かにチャージしていたのだ。

 派手さを捨ててでも、確実に勝ちに行けるように静かにその時を待っていた。


 

「今! ドラゴンブレスッ!!」


 

 アカリが来栖さんの目の前から退き、頭上からアリスの範囲攻撃――ドラゴンブレスが襲いかかった。

 来栖さんは棒を下ろして小さく笑う。


 

「おめでとう。ここまで連携できるようになったのなら、合宿の成果はあったわ。でも――」


 

 来栖さんはアリスの攻撃にチラリと目をやり、前に飛び出した。そして一点、魔力の薄い層を素手で殴りつけて弾いた!

 


「なっ、なぁっ!!」


「大きな攻撃を打つときは、もっと集中して魔力を纏わせた方がいいわよ? アリスちゃん」


 

 パリィポイントだ。

 来栖さんはアリスの攻撃がトドメで来ると最初から読んでいたんだ。

 彼女のパリィポイントを素早く見抜き、簡単に弾いてみせた。

 そしてアカリを回し蹴りで蹴り飛ばし、棒術での連続突きをアリスに叩き込み、あっという間に二人を戦闘不能にしてみせた。

 さすが来栖さん。化け物の中でも別格だ。


 

「よそ見とはずいぶんと余裕ね、鈴芽ちゃん」


「しまっ――!」


 

 八重さんからの体当たりを受け、少し体勢を崩してしまう。

 だけど、すぐに動き出せば八重さんなんて――


 

「残念だけど、鈴芽ちゃんもおしまいよ」


「え――」


 

 瞬間、頭上から弓の雨が降りかかり、私の服が矢で射抜かれ、地面に打ち付けられてしまった。

 いつ放ったのか。私はその瞬間を見ることができていなかった。

 


「い、いつ放ったっていうの?」


「ふっふ〜ん」


 

 八重さんは不敵に笑ってこう言った。


 

「この戦いが始まる前からよ」


「ず、ずるい!!」


 

 つまり、私たちがここに来る前から空に矢を放って、魔力で待機させていたんだ!

 “ズル”と言った私に、八重さんは勝ち誇った様子で話す。

 


「戦いにズルはないの。やるかやられるだけ。言ったでしょ? 戦いは相手の情報を知るところからだって。なら、その次のステップ――戦う場所への小細工も想定しておかなきゃね」


「ぐ、ぐぅぅ!」


 

 悔しいけど、その通りだ。

 これは決闘ではなく模擬戦。つまり実戦に近い形式での戦闘だ。罠への警戒を怠った私のミス。

 完敗ね……。

 


 顔を動かして来栖さんたちの方を見ると、柳先生と来栖さんの二人に囲まれたお兄ちゃんが、ある程度抵抗して見せたが、あえなく二人の連携攻撃に敗れてしまっていた。

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