23話 盗み聞き
今日も無事に授業を終えて、お兄ちゃんとアリス、アカリと私の四人で帰ろうと校舎の中を歩いていると、何やら職員室の方から先生たちの話し声が漏れて聞こえた。
話し方的に、困っている先生を荘厳そうな声で諭しているようだが、その声が私をこの学校に連れてきてくれた校長の千羽山だと、よくよく聞いて気づくことができた。
明日の授業内容についての相談かと思い、職員室の前を横切ろうとしたが、どうやらそうではなく、今日の昼間に訪れた訪問者について話しているようだった。
訪問者といえば、スーツを着た男女の二人だろう。
並んで歩くみんなの顔を見ると、職員室から漏れ出た話が気になって、立ち止まり耳を傾けることにした。
「校長! 自分たちは一体どうしたらいいのですか? あの二人の要求はめちゃくちゃで、明日の授業にも支障をきたしますよ!」
「う〜む……」
少し隙間の空いた入口から私たちは中の様子をのぞく。そこには数学担当の荒井先生が、千羽山に詰め寄るようにして話していた。
たしか、あの先生が昼間あの二人の対応をしていたはずだから、私の想像に間違いはないみたいだ。
だとしても、「明日の授業に支障をきたす」って一体どういうことなんだろうか。
「本当にその二人が、明日この学校で講義を開きたいと言ったのかね?」
「本当ですよ! しかとこの耳で聞きましたからね。あれがこの前の職員会議で校長が言っていた、ファンタジアでの党員なんですよね!?」
ファンタジア? と首を傾げていると、お兄ちゃんが小声で答えてくれた。
「ファンタジア。確か“魔導至上主義派”って呼ばれてる政党だったはずだ。それがなんでこの学校に?」
「あー、その胡散臭い政党のことやったら、ウチも知っとるで」
なんとアカリも知っていることに驚いた。私はテレビをあんまり見ないもんだから、世の中の事情に疎い。
テレビを見る暇があれば体を鍛えるか、追いつくのに必死な勉強に励むかで忙しく、とても見る余裕などない。
「で? そのあからさまに怪しい党員がなんでここに? ってか、そこって何か問題になるようなことしてるの?」
「おい鈴、マジか……。そこまで世の中のことを知らないってどうかしてるぜ?」
「さすがにドン引きやで、お鈴ちゃん……」
ちょっと聞いただけでこの言われよう。そんなに有名な連中なのか?
二人の冷めた目が胸に突き刺さり、ほんの少しのプライドが傷ついた気がして、味方を増やそうと明らかに知らなさそうなアリステラに顔を向けた。
「アリスはさすがに知らないわよね〜。そんなどうでもいい連中のことなんか」
「え? 何言ってんの鈴。ファンタジアでしょ? あのウィザードを勧誘しては、自分の政党の駒に仕立て上げるって噂の……」
「な、なんであんたも知ってんのよ! あんた仮にも外国人でしょうが!」
外国人のアリステラが知っていて、この場で知らないのが私だけという現実に目を疑った。
しかもアリステラときたら、かなり詳しそうだ。
この話って、世界中で有名な話なの? テレビを見てない程度じゃ話にならない次元で、知ってなきゃいけない話なの!?
『た、大樹は何か知ってるわけ? この世界の外から来たあんたなら知らなくて当然よね?』
『ごめん鈴芽ちゃん。俺も知ってる……』
唯一、外の世界から来た部外者ですらファンタジアについて知っているらしかった。
こうなると認めざるを得ないだろう。私は世の中の事情に超疎い、世間知らずの子どもだってことを……。
はぁ……とため息を吐いていると、部屋の中の先生たちの話がヒートアップしていることに気がついた。
「講義を開くってことはですよ? ここの生徒たちがあんな奴らの話に感化されて、学校を出ていく可能性だってあるわけですよ? そうなると政府からの信頼も落ちるってことなんですよ!? そこのところどうお考えなのですか!」
荒井先生が千羽山に詰め寄る。
千羽山は少し戸惑った様子で荒井先生を諭し、引きつった笑顔で答え始める。
「問題なかろう。彼奴らの言葉は信憑性に欠ける、現実味のない空想論に過ぎん。いかに未熟な生徒であろうと、沈みかけの泥舟に乗っかるような子は一人とておらんだろう」
そこまで言われるファンタジアに、少し同情してしまう。
ってか、逆にその講義を聞いてみたいとすら思う。
“沈みかけの泥舟の現実味のない空想論”って、どんな謳い文句で勧誘してるのよ?
一体どんな話をするのか、知りたくなるのは仕方ないだろう。
『ってあんた、知ってるならファンタジアについてちょっとは教えなさいよ。怪しい政治団体で、空想論が大好きなこと以外で』
『ん〜。これを言ってそのままの事態になるかは分からないよ? 怒るかもしれないけど、怒らない可能性の方が高いし……』
『勿体ぶらないで、さっさと答えなさいよね。どうせ原作に載ってたんでしょ?』
『そうなんだけど……。はぁ。分かった、話半分で聞いてね?』
当たり前じゃない、と心の中で頷いた。
すると大樹は、どう話すか悩んで諦めたようにこう言った。
『あいつら、学校をジャックするはずだったんだよ。今日の夕方に』
『は!?』
『今日の夕方に? 学校をジャック!? これまで一緒に過ごしてきたってのになんでそんな重要な話を今ここでしたの!? なんで前もって言ってくれなかったの!』
『そうガンガン叫ばないで。相談しなかったのは悪かったと思ってるよ? でもジャックする前日、つまり昨日のうちに学校宛に手紙が送りつけられたり、生徒が外で声を掛けられたり、選挙カーで学校の前で演説し始める行動が無かったから、俺はてっきりこのイベントは消失したもんだと思ってたんだよ〜』
つまり、この一件も本来あるべきものだったけど、私が特別強化実習生になったこと、それ以前に茜さんが結由織先生の体を使って本来の流れを変えてしまって、消えたイベント故に警戒する必要がなかったってことだろう。
そう言われれば確かに納得はできる。
とはいえ、少しは教えてほしかったってのも正直な気持ちだ。
大樹はそんなムスッとした気分の私に「ごめんよ〜」と情けなく謝ってくる。
『過ぎたものは仕方ないし、起こらなかったんだから確かにイベントとしては消失してるのよね〜』
と納得していると、荒井先生がこちらに向かって歩いてきた。どうやら千羽山との話がついたらしい。
私たちはそそくさとその場を離れて、下校中の生徒のふりをして廊下を歩く。
気になる話ではあった。
元々のイベントが消失したとはいえ、新たなイベント――講義が追加されたのだから、警戒するに越したことはないだろう。
今ここにいるみんなとも情報を共有したいところだが、さっきまで無知だった私が知ったように大樹の話を出しても、信じてもらうどころか鼻で笑われる始末だろう。
となると、ここで相談できる人はたった一人――茜さんしかいない。
基地に戻ったらすぐに相談しようと思い、私たちは肩を並べて下校した。
複雑な気分だったが、帰りの道中アカリがお兄ちゃんに猛アタックをまだ続けているのを、私は必死でガードした。
そんな私たちに、若干お兄ちゃんが呆れていたのは気のせいだと思いたい。
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