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22話 不審者

 翌朝の模擬戦は、茜さんも相手に加わるものとばかり思っていたけど、外から見物すると言ってくれた。

 とはいえ、来栖さん達が弱体化したわけもなく、まあ呆気なくボコボコにされちゃったんだけどね。


 

「まあ昨日よりはまともになったんじゃないかな〜。うんうん。昨夜の講座をちゃんと活かした良い連携だったと思うわよ〜」


「あ、ありがとうございます……」

 


 息も絶え絶えな私達に来栖さんは満足そうに言ってくれたが、全身傷まみれの状態で褒められても成長の実感が湧かないというものだ。

 


「でも、たしかに今回は来栖さんの言う通り良い動きができたよな?」


「せやな。ゆっきーとアリスが後衛役に徹してくれたおかげで、ウチは相手の攻撃を受けることに集中できたし、良かったんやない?」

 


 お兄ちゃんとアカリの言う通り、アリスがドラグナートの範囲攻撃で相手の行動範囲を限定。お兄ちゃんが正面からフィジカルを活かして来栖さんに対抗し、後続の八重さんと柳先生の攻撃をアカリが庇って守ることで、昨日ほど呆気なく負けたというわけではなかったと思う。


 

「それに鈴の動きも良かったわよね。相手の死角から攻めると思わせては引いてを繰り返して、いつ攻撃するか上手く動揺を誘うこともできてたし」


 アリステラの言葉に実感はないが、そう言ってくれたことに少し自信が湧いた。


「ほ、ほんと? 私、上手くできてた?」


「出来てた出来てた! ね? みんな?」


「ああ!」

 


 アリステラがお兄ちゃんとアカリに聞いて、二人は快活に頷く。どうやら勘違いでもお世辞でもなく、私も上手く連携の一部になれていたらしい。

 これで良かったんだ……。

 そう手を握って自身の成長を噛み締めていると、茜さんが拍手をしながら私たちの前までやって来た。


 

「いや〜、良かったんとちゃう? まだまだ荒削りやけど、学生がプロ相手にここまでやれるだけでも中々なもんやで。この調子で今日の夕方も反復練習や。あとは確実に自分の立ち回りの見直しに、互いの連携について話し合っておくように……んじゃ解散! はよ学校に行き」


「「「「ありがとうございました!」」」」


 

 一礼し、私たちは会議室へ登校の準備に向かった。

 時刻は七時十五分。

 今日は昨日と違って余裕を持って登校できそうで良かった。

 怪我も少ないし、授業もまともに受けられそうだね。


 

 ということで、私たちは学校に到着して二限の授業までを終えた。今日の午前中の授業は座学が多い分、消耗した体力的にはありがたかった。

 けど疲れもあるのか眠気も強い。

 眠気覚ましに、朝アカリさんから言われた通り、みんなと連携について話し合っておこうと思い、教室の窓際にいるお兄ちゃんと、彼にベタベタするアカリの元へ。


 

 アリステラも同じ考えだったのか、後ろの席からお兄ちゃん達の元に向かう様子が見えた。

 アリステラの目もトロンとしていてかなり眠そうだ。

 昨日の夜も朝の模擬戦に備えて長く話し合ってたから、よく眠れなかったのよね。

 


 私とアカリの連携力を高める目的で始まった合宿も明日で終わる。アカリとは多少連携を取れるようにはなったものの、来栖さん達の求める基準まで到達したかといえば、まだだろう。

 これだけ一緒に戦ったんだし、もう少し私の方から心を開いても良いかもしれない……。けど、許しすぎたら許しすぎたで、お兄ちゃんに猛アタックを仕掛けそうだし、複雑な気持ち……。

 


「おっ? 鈴、どうした? 朝の話か?」


 

 お兄ちゃんが私に気づいて声を掛けた。

 うんと頷き、隣に空いた席に目をやる。この座席の持ち主はトイレかどこかに席を外してるのだろうから、遠慮なく借りることにした。帰ってきたら退けば良いよね。


 

「さっすがお鈴ちゃんやな。超勉強熱心やん。でもそうやな、まだ時間はあるし、ここらで話を擦り合わせてもええかもな〜」

 


 アカリも頷き、そう言ってくれた。こいつはなんだかんだで真面目な性格だということは、この二日間で大体わかった。色恋沙汰に目がないのが気に食わないだけで、それ以外は嫌いじゃない。

 むしろクレバーな部分は私も見習うべきだと思うし、この誰とでも仲良くする明るさも尊敬に値する。

 私にはない魅力だ。故にお兄ちゃんからの好感も高まりそうなんだけど……。

 


「みんな考えることは同じみたいね。私も混ぜて混ぜて」


 

 アリステラが手を振ってやって来ては、私の前の空いた席に腰掛けた。

 


「アリスも来たやん! 丁度ええからここで作戦会議しよか」

 


 アカリは机を動かしてくっ付けようとし始める。

 私たちもそれに倣って、座る四つの席をくっつけてはグループワークしやすい形に整える。

 


 お兄ちゃんがカバンからノートを取り出して、短い休み時間を使った作戦会議が始まった。

 内容はどうすれば来栖さん達を倒せるか。

 どうせ戦うなら最後は勝ちたいと思う気持ちは、この場の全員が同じだった。

 


 だからこそ、仲の良し悪し関係なく本音で話し合った。

 タンク役のアカリを中心とした戦闘スタイルの構築。必要なサポートと妨害。攻め手のバリエーション。

 真面目な話だったけど、これが中々楽しくて時間はあっという間に過ぎていく。

 そんな話をしていると、アカリが窓の外に目を向けて眉をひそめた。


 

「なんやあれ?」


 

 彼女の見つめる先が気になって、私たちは窓の外に顔を向ける。

 そこにはスーツ姿の男性と女性の二人が、先生達に止められながらも強引に中へ入ろうとしている様子が見えた。


 

 なんていうか、スーツの人物達は先生達をまくし立てては、先生達も困った顔を浮かべるが断りきれず中に入り込まれている。

 さすがにここからその場の声は聞こえなかったけど、厄介な訪問者ということだけはその様子から簡単に見てとれた。

 


「保護者……にしちゃ先生達困ってんな〜」


 

 お兄ちゃんが目を細めては、感心するようにそう言った。

 


「せやな。なら監査か? でも時期的に中途半端か……」


 

 アカリも怪しいスーツ姿の二人がどんな目的でここにやって来たか考えるが、きっとまともな目的で来た人たちではないことは、この場の四人には理解できた。


 

「まあ私達には関係ないでしょ。それより作戦会議を続けましょ。もう時間もあんまりないんだから」


「アリスの言う通りね。続けよ?」

 


 そうして私たちは再びお兄ちゃんのノートに文字や図形を書き始めた。

 何ページにも渡る作戦記録を作成すること十五分。気付けば本来授業が始まるはずの時間はとっくに過ぎているにもかかわらず、次の授業の教師がこの場に現れることはなかった。

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