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21話 ウチが来た理由

 食後の戦闘講座は二時間で終えて、軽いトレーニングと翌朝の模擬戦の作戦会議を鈴芽達本人で話し合わせて就寝することになった。


 

 今回は結由織沙織が来たというサプライズもあったため、元々立てていた来栖のプランを急遽変更したとのことだ。

 そんな鈴芽達が部屋に戻った後の会議室に残った隊員は神妙な面持ちで仕事に取り組み、茜の状態の結由織は椅子の上で退屈そうに座っていた。

 そんな書類仕事をしながら、来栖が茜にチラリと目を向けた。

 


「で? 先生がこちらに派遣されたのはただ学生の教師をするためだけじゃないですよね〜?」


「さっすが来栖ちゃんや。表の名目上アカリの同伴者としてこっちに赴任にたっちゅうことになっとるけど、あんたらになら教えてもええやろ」

 


 そう言って茜は柳に目を向ける。柳は「仕方ないですね……」と頷いてくれた。


 

「柳先生ら戦闘学校関係者は知っとる話やけど、ここ最近学生ウィザードを勧誘するヘンテコな連中が世界中で出没し始めてな〜」


「へ〜。それは初耳ですね〜。八重さんは何か知ってたりするのかしら〜」


「いいえ。私も存じてません。その話、詳しく聞かせてもらっても?」

 


 八重に聞かれて茜は頷く。柳からの許可も降りたことだし、話して問題はないだろう。

 


「ええで。せやな〜。事の発端は北海道の戦闘学校――ランサーで起こった立てこもり事件や」


「立てこもり事件?」


 

 八重が首を傾げ、来栖は目を光らせた。


 

「あんたらが知らんのもしょうがない。あの事件は学校側が生徒を守るために全国報道を拒否して隠蔽したからなぁ」


「それは何故です? 立てこもり事件ともなればかなり大きな事件のはずでは?」


「まあそうなんやけど。その犯人が金持ちの生徒を狙ったわけでも、気が狂った愉快犯でもなく、生徒何人かに着いて来るように勧誘したっちゅう話やねん」


「へ〜。それは興味深いですね〜」


 

 来栖が書類仕事から手を離し、興味深そうに茜に顔を向ける。


 

「で? どこに勧誘しようとしたんですか〜? 隠すってなると表沙汰にしたくない組織のはずですけど〜」


「来栖ちゃんの言う通りや。そいつが勧誘した組織はファンタジア。この国では魔導至上主義派って呼ばれとるな」


「へ〜。あの怪しい政治団体がね〜」


 

 ファンタジア――日本では魔導至上主義派と呼ばれる政治団体。

 この国での政界は人類保守党、アビス解放党の二派閥に分かれとる。

 他にも小さい党があるけど、その中でも一際胡散臭いのがその団体や。

 なんでもウィザードを神と崇めて、それ以外の魔力を持たへん人間を有象無象と切り捨てるような奴らが属しとる。


 

「今までもちょっとした問題は起こしては警察と自衛隊で鎮圧されとったけど、その立てこもり事件の犯人がそこの党員やったみたいでな? 流石にこれを全国に流すわけにはいかんって上が判断したみたいや」


「もともと頭のぶっ飛んだ人たちの集まりですものね〜。ここで公にすればどんな手に出るかわからないですし。その人が自分の身を明かしてもいろんな手を使ってはぐらかしそうですしね〜」


「やから確実な証拠を掴むためにウチが全国を回ってたっちゅうわけや」


「なるほど。だから先生はここ最近アビス解放作戦に参加していなかったのですね?」

 


 八重がポンと手を叩いて納得していた。

 そうやねん。未来のある学生が怪しい大人に誑かされて間違った道に進まんようにするために、ウチが派遣された戦闘学校連盟から直々の指名を受けた極秘任務。

 って聞こえはええけど、元々沙織も教師がしたいって言っとたし、これは渡りに船やったんやけどな。


 

 『わ、私のわがままで面倒ごとを引き受けさせてごめんね……』


 『ええって。沙織には体を貸して貰っとるし、あんたのやりたいようにするためにウチは動くだけや? それに子供が騙されるっちゅうのは我慢ならんしな』


「となるとここに来たのは、次の奴らの目的がアルケミーになる可能性が高いってことなのね〜?」


 

 沙織と脳内会話をしていると、来栖が確信めいたように聞いてきたが、それに答えたのは柳だった。


 

「ええ、そうです。アルケミーには世界でたった一人の男性ウィザードの雪也さん。ドラゴニアからの留学生のアリステラさん。結由織さんと同じ特別強化実習生であり、桜場アビス解放者の鈴芽さんの三名が在学されています。次のターゲットになる理由は十分と連盟は考えました」


「ふ〜ん。なるほどね〜。政治的にも介入しづらい私たちは今回どうすることも出来ないわね〜。【エリミネーター】相手なら問答無用なのだけれど……。同じ人間相手じゃそう簡単に踏み込めないのが厄介なところよね〜」


 

 やれやれ、と首を振る来栖。その呆れようは痛いほど理解できる。ウチやってそんな面倒ごとは見たくもないけど、警戒するに越したことはないしな。

 


「ですが先生? あなたがアルケミーに赴任したことが奴らにも知られているのでは? そうなると流石に手を出して来るとは思えないのですが……」


「するどいな〜。さっすが八重ちゃんや〜」


 

 指で銃の形を作り、バンバンと撃つフリをして答えた。


 

「そうや。やけどウチがここに赴任したことは伏せてあんねん。生徒達は知っとるけど、連盟が流したダミー情報やとウチは今アメリカに飛んどることになっとる。奴さん的にはもう赴任したと思うとるやろうな」


「は〜。そこまでして望む作戦ですか……相当ですね」


「せやろ〜? まぁ、そこまで警戒する作戦であることは確かや。やけど来るか来んかは奴ら次第や。それまでウチはここでのんびり学生達を鍛えることとするけどな〜」


「はは。それは在校生にとって最高のひと時になりそうですね」


 

 八重のお世辞に嬉しくなるが、ウチの特訓がそない喜ばれるようなもんじゃないことは自分で知っとる。

 やけど厳し目の方が何かと将来の役に立つことも知っとる。

 それは沙織の記憶にある、故郷を失った時の無力感から学んだ。

 あんな気持ちを子供達に味合わせるわけにはいかんのや。

 


「ま、仮にそんなアホな奴らが来たら、ウチが育てた生徒達が糧に迎え撃ってくれるっちゅう事にも期待しとるんやけどな」


「なるほど〜。なら明日の早朝模擬戦は相当厳し目にしなきゃね〜」


 

 明日の模擬戦。今ここで寝とる大樹達のことやな。

 せやな……。大樹達を鍛えて、勝手に解決してくれたらええなぁ。

 そう思いを馳せながら、三人は残りの書類仕事に取り組み、遅くなりそうやったからウチも手伝うことにした。

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