20話 講座
食事もそこそこに終えた私たちは今、駐屯地にある演習場に戦闘制服を着て集まっていた。
というのもこれから合宿の目的の一つである連携について学ぶことになったからだ。
本来は私とアカリの二人だけでやるはずだったけど、お兄ちゃんもアリスも朝の模擬戦に参加した以上は一緒に参加するように来栖さんから言われていた。
そんな戦機を手に持つ私たちの前に来栖さんたちが並び、前に茜さんが立った。
「え〜。急遽ではあるけどウチもあんたらの訓練の面倒を見ることになったからよろしゅうな」
「げっ……」
そんな茜さんの挨拶にあからさまに嫌そうな顔をするアカリ。もちろんそんな彼女の様子を茜さんが見逃すはずもなく――
「なんや。文句あるんかいなアカリ。そういや聞いたで? あんた。ここに派遣されてからっちゅうものの九条鈴芽に対していらんちょっかいを掛けて仲悪うしとるみたいやなぁ?」
「い、いえ! そないなことはありません! な、なぁ? お鈴ちゃん?」
バチンバチン! と必死にウィンクを飛ばしてくるアカリからは「頼むから仲良えアピールしてくれぇ!」と魂の訴えが垣間見えた。
ふふ〜ん。どうしよっかな〜。
と思ったけど、ここで正直に答えた場合、来栖さんたちからの証言で私にも飛び火する可能性もある。
なら、ここはこいつに合わせてやるほうがベスト。
それに恩も売れるいい機会だしね。
「はい。先生! 私とアカリはもう仲良しですよ〜。ねぇ? アカリ〜?」
「お、お鈴ちゃん……! そ、そうなんです〜! ウチら大の仲良しでそない仲は悪くないんですぅ!」
助かったぁ。と言ったようにアカリが顔をパッとさせ茜さんに答える。
そんな私たちを見て茜さんは訝しげに首を傾げては来栖さんたちに顔を向けた。
すると来栖さんたちはやれやれと首を振って仕方ないなと笑った。
「そかそか。どうやらウチの聞いてた情報は古いもんやったっちゅうことやな。すまんすまん」
「わ、わかればいいんです〜。はぁ……」
これだけでも二人の関係性は見える。
鬼教官と部下って感じね。
まあこれからそんな鬼教官の指導に私たちも参加するわけだけど。
「よっしゃ軽い挨拶も済んだことやし早速あんたらが来栖ちゃんたちと戦った朝の映像を見させてもらった感想を言ったるわ」
いつ撮影されたのか、そんな記録映像があったことに驚いたが、合宿だから記録されてて当たり前かと思った。
最初の頃から最後の私たちの成長の違いを実感させる意味でも、指導する立場からしても映像を撮って分析・解析するのはウィザード部隊としては当たり前のことだしね。
そんな映像を見たという茜さんは和やかな笑顔から一転し、極めて冷めた目付きになって告げる。
「ゴミや」
たったそれだけ。とても活発な彼女の口からは出ないと思われた言葉を。
ゴ、ゴミ? 確かに私たちの連携は酷かったけど、ゴミってほど壊滅的じゃなかったと思うわよ? 少なくとも考えあって行動したんだし。
「鈴芽ちゃんはなんや言いたいことがあるみたいやけど、まずはウチの話を聞いてくれんか?」
「は、はい……」
茜さんの雰囲気が張り詰めたものへと変わり、まるで説教をされているような空気感だ。
空気が重く、嫌な汗が噴き出る。
「まずなんで鈴芽ちゃんは先行したん? 相手は三人で連携したプロが相手やで? 相手の情報を持った上で何故一人なんや? まぁあんたの能力的に考えたら速度で翻弄して隙を作ろうっちゅう魂胆やったんやろうけど」
「そ、そのとおりです……」
さすが最強だけあって私の考えをこうも簡単に見抜かれた。
相手が来栖さんたちってのは分かってはいたけど、あのまま固まって動いても返り討ちにされるだけと思ったから一人で動いたんだけど、それがダメだったっていうの?
「まあ、せやろな。やけどその考えに至ることを相手が想像してないと思ったんか?」
「あ……」
それは考えていなかった。
指摘されて初めて相手がプロのウィザード部隊であったことを自覚する。
人間が相手であることは分かっていたけど、相手も思考するという当たり前の発想が頭から抜けていた。
「はぁ。そこに思い至らんあたり実戦経験のなさが出たっちゅうわけやな。学校の一限目でもそうや。あんたはその足を活かした掻き乱しをやりたがる傾向にあるなぁ。その発想は間違ってないけどちょいと早計すぎやせんか?」
「もう少し待ってからなら良いってことですか?」
「ん〜。そうやない。まずは相手の立場になって自分がどう見えるか考えた方がええな」
「と、いうと?」
「まず朝。来栖ちゃんが相手になった時、来栖ちゃん側から見たあんたらはどう見えたかを想像するんや。しっかり情報も頭の中に入れられとることを前提にすれば、鈴芽ちゃんが光速で動けることも知られとる。ならそれをまずは警戒するやろな」
なるほどとアリスが真剣な面持ちで手を上げた。
「鈴の妨害を警戒してですね?」
「正解や。さすがドラゴニアのお嬢様やな。戦闘教育も進んどると見える」
やったと小さく喜ぶアリスをよそに話は進む。
「やから鈴芽ちゃんは相手に動きを読まれてることを想定して裏を描く必要があったっちゅう訳や。で? その点を踏まえてウチが鈴芽ちゃんの立場やとしたら――」
茜さんは八重さんにホワイトボードを持ってくるように指で指示を出し持って来させた。
ホワイトボードにあった黒のマジックペンを取り○を朝の模擬戦での私たちの配置を記し、鈴と書かれた○に矢印を伸ばし始める。
「まずは目にも止まらん速さで動いて相手の視界から姿を消すだけに集中するなぁ。でもって次にドラゴニアのお嬢様。あんたが左右どっちかから範囲攻撃をブッパして相手の進行方向を限定させる。それも真っ直ぐ直撃させるようにさりげなくや」
「さりげ……なく……」
アリスはメモを取って茜さんの話を聞いている。
こういう真面目なところはさすが留学生ということだろう。学ぶべきところは学ぶ、自分の力を過信しすぎず、常に格上の話には耳を傾けるところは見習うべきところだろうね。
「派手な攻撃や。多分視界はそんな範囲攻撃に目を奪われることやろ。その隙に兄貴のあんたが氷の刀で足場を凍らせて妨害や。できるやろ? 九条家なんやから」
「ま、まあ出来ないこともありませんが……」
お兄ちゃんは九条家の名前を出されてあからさまに嫌そうな顔を浮かべた。
家族のしがらみから解放されたとはいえ、未だあの家族と同じ扱いをされて迷惑だと言った感じだろう。
そんなお兄ちゃんの様子に眉を動かしはするが、茜さんは話を続ける。
「ならやるべきやな。足場を凍らせたら踏ん張りもきかんし、ある程度妨害できるはず。そこでアカリがウチが叩き込んだ格闘技で応戦して、初めてそのタイミングで鈴芽ちゃんが足を活かした背後からの攻撃を仕掛けるんや。そうすれば前からの脅威、背後の脅威、さらには足場の悪さにいつ飛んでくるか分からん範囲攻撃に思考が分断されるやろ?」
「な、なるほど……」
そう説明されると納得はできる。
だけどそれが来栖さんたちに通用したかどうかは疑問だった。だとしても今の話は朝の連携と比べると理に適っていて流れも綺麗だ。
茜さん。大雑把な人だと思ってたけど、こんなに知的で聡明な部分があっただなんて。
『ちょっとなにが山賊よ? 茜さんめっちゃ頭いいじゃないの!』
『お、俺も驚いたよ……。まさかあいつ、この世界に来てから隠された才能が開花したってのか?』
どうやら兄である大樹も知らない側面だったらしい。
いいじゃない! 合宿っていうならこうでなくっちゃ!
そこからも茜さんの独自の見解を交えた朝の反省会は続き、アリスと私は必死にメモを取った。
アカリとお兄ちゃんは朝の不甲斐なさに反省したのか深く、とても深くため息をついて話を聞いていた。
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