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19話 なんで着いて来るんだよ!?

 私は結由織先生と交代した茜さんから、大樹について何か困ったことはないか聞かれたり、自分の生い立ちについて少し話した。

 すると茜さんったら驚くほど親身になって聞いてくれて、しまいには泣き出しちゃってた。


 

 情が深い人なんだろうか。

 大樹に聞いたら、茜さんは昔っからお涙頂戴のハートフルストーリーに弱いみたい。

 そんな人が私の家族からの扱いを聞いたら――


 

「辛かったなぁ! しんどかったなぁ! でももう安心しぃな? これからはウチもそばにおるし、そいつのことバンバン使ってもらったらええから!」


 

 と言い出す始末。

 これからついてくれるって言うけど、茜さん、今は学校の先生だよ? 家族じゃないんだよ?


 

 そんな世間話を終えた私たちは今、自衛隊駐屯地に向かって帰路についていた。

 “たち”って言うのは理由があって……。

 


「な、なんでお前もついてくんだよ!」


「はぁ!? ええやんけ! ウチも教師である前に現役ウィザードやねんで? 合宿やったらウチも参加したほうが何かと都合ええやろ!」


 

 大樹が吠えて、茜さんが反論する。

 そう、世間話の後この人、まさかまさかの「合宿? ならウチも行く〜!」っと、速攻で決断したのだ。

 大樹が言うには“楽しそうだから参加した”って理由らしいけど、茜さんが補足するもう一つの理由が、「ウチの教え子も参加しとるんやったら、ちょうどええし鍛え直したらな!」と息巻いていた。


 

 これには私的には大賛成で、アカリの魔の手からお兄ちゃんを守りやすくなるし、私たちも鍛えてくれそうだし、何より楽しくなりそうだもんね。

 


「鈴芽ちゃんが良いって言うから許したけど、もし変なことしてみろ? その能天気な脳みそを引きずり出してやるからな!」

 


 大樹がクドクド文句を言っていると、茜さんの様子がおかしい。さっきまでのドッシリとした態度から、ビクビク震え始めている。

 


「ひ、ひひひ酷いです……大樹さん」

 


 どうやらこの場を面倒と見た茜さんは、結由織先生とチェンジしちゃったみたい。

 


「あっ! あいつぅ! ご、ごめん! 沙織さん! 今のは茜に言ったもので!」


「ヒ、ヒィッ!?」


 

 怯える結由織先生に慌てて弁明を図る大樹だが、彼女は完全に震え上がってしまっている。

 さすが茜さん、大樹がめんどくさくなるタイミングを熟知してるみたい。

 だけど、これはさすがに結由織先生が可哀想じゃないかな。


 

 そんな大樹を見かねて肉体を交代し、結由織先生を励ました。

 そうこうしていると駐屯地の敷地内まで戻って来れたみたいで、周りを歩く隊員たちがこちらに気付くや否や、緊張したように敬礼してくる。

 私だけだと軽い挨拶と世間話をしてくれるのに、今日はしてくれない。

 それはきっと隣を歩く結由織先生がいるせいよね。

 だって英雄なんだもん。この世界でこの人を知らない人はいないものね。

 


 受付で帰投したことを伝え、部隊員のいる2階の第七会議室へ。

 階段を上がり廊下を進んで扉の前までやって来る。

 隣の結由織先生は、今は堂々としている様子からまた茜さんに切り替わってるみたい。

 ニコニコと笑ってなんだか楽しそうだ。

 いいよね。いい大人がこんなに楽しそうにしてるのって。

 


 私は扉をノックした。すると中から「あっ帰ってきたみたいよ〜」と来栖さんの声が聞こえる。

 中でみんなが集まっているのかもしれない。

 私は名乗りを上げて扉を開けて中へ入る。


 

「おかえりなさ〜い。鈴芽……ちゃん」


 

 来栖さんの優しげな顔がピシッと固まった。

 一体どうしたのかと思っていると、後ろから続いた茜さんが私の前に躍り出て、来栖さんの対面に立った。


 

「よ〜よ〜。久しぶりやなぁ来栖ちゃん。この基地におるって聞いとったけど、まさかこの子の部隊長やったんやな! こら傑作やで!」


 

 はっはっはと笑う茜さんに対して、来栖さんがビシッと立ち直り敬礼をした。

 


「お、お久しぶりです! 先生!」


「せ、先生〜!?」


 

 驚いて声を上げたのは私だけじゃなく、同じ部屋にいたお兄ちゃんとアリス、アカリだ。

 遅れて八重さんと柳先生が茜さんに敬礼する。


 

「ご無沙汰してます! 結由織隊長!」


「お〜八重ちゃん! またベッピンになって〜。え〜? 身長もまた伸びたか?」


「い、いえ。身長は学生の頃から変わってませんが……」


 

 まるで親戚のおじさんが従姉妹の子供に対する挨拶のように八重さんに言葉を掛けている。

 来栖さんだけじゃなく、八重さんとも面識があったみたい。

 柳先生は何も話さず敬礼を続けているあたり、面識はないみたいで、あくまで学校の教師同士の関係らしい。

 そんな茜さんは二人と笑顔で挨拶を済ませては、奥のカーテンに隠れようとしているアカリを見つけた。


 

「おったおった。おいアカリ!」


「ひゃいっ!」


 

 そろりそろり移動していたアカリがびくりと反応した。

 まるで悪いことをした子供のような反応だけど、まだこいつ悪いことしてないよね?

 よっぽど茜さんのことが怖いみたい。

 学校の演習場の様子から大体の関係性は想像できるが……。

 


「な〜に隠れようとしてんねん。あんたの大好きな大好きな先生が来たっちゅうのに」


「な、ななななんで先生がこないなとこに? ここにはウチだけが来る予定やったんやないんか?」


「気が変わった。今日からウチも合宿であんたらの面倒見ることにした!」


「ちょっ! そんないきなり……。来栖さん! 八重さん! ええんですか!? この人が参加して? 来栖さんの方針が狂うんじゃありませんのん?」


 

 相当嫌なようで、必死に来栖さんと八重さんにアカリは訴えかける。

 だが返ってきた答えは――


 

「え〜。私は問題ないですよ〜。むしろ先生が参加してくれるなら、この合宿もより捗るってものだわ〜。ね? 八重さん?」


「はい! また先生のご指導を受けることができるなんて光栄です! 私からもよろしくお願いします!」


 

 二人はそれはそれはとても嬉しそうに茜さんを出迎え、歓迎した。

 お兄ちゃんとアリスは状況が理解できず二人でヒソヒソと話し合って、アカリはこの世の終わりと言わんばかりに顔面が蒼白になっていた。


 

 そんな基地に戻った夕方18時。

 夕食を食べるためにこの場にいた私たちは食堂へ向かうことになる。

 皆茜さんと話を弾ませる中、私は石像のように固まるアカリを押して歩いた。

 


 仕方ないわよね? この合宿の目的は私とこいつの仲を深めることなんだから。置いていけないもん。

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