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13話 実戦演習

「「「きゃあああああ!!!」」」


「無理です! 無理ですぅぅ!」


「アハハハ!! オラオラァ! なにしてんねん。はよ動かんと全員ど玉かち割ったんぞ!」



 結由織先生はめちゃくちゃだった。

 どれぐらいめちゃくちゃかっていうと、そうね〜。

 大人数で挑んでる私たちのほうがドカンドカン空に打ち上げられて、こんな悲鳴をあげちゃうくらいにめちゃくちゃってやつよ。



 『どこの無双ゲーだよ』



 無双ゲーってのは私にはよくわからないけど、無双……。

 確かにその言葉通り、結由織先生は学生相手に無双していた。

 こんなのが演習でいいんだろうか。

 実戦演習っていうより、耐久演習もしくは受け身演習って言い換えたほうがいいんじゃない?

 そんな無双モードに突入した結由織先生が人混みを打ち上げ、どんどんこっちに向かってくる。

 このままじゃ私も先生にぶっ飛ばされちゃう!

 そう考えてアカリに振り返って叫ぶ。



「ちょっと! あんたの先生なんでしょ? なにか弱点とかないの?」


「じゃ、弱点なんてあったらこんな震えるかいな!」



 ガクガク震えるアカリ。

 あれほど楽観的だったこいつがここまで震えてるなんて……。

 弱点がないって、どうしたらいいのよ!?



 『とりあえずやれることは全部やればワンチャンあるはず! 俺たちはあの桜場アビスを解放した力があるんだから!』


 『そうね。そうよね!』



 そうだ。私は以前の自分の無力を嘆いていた頃とは違う!

 この力の正しい使い方も知った今なら、一方的にやられることなんてない!……はず。



 そう考えて意気込んでみたけど、今朝方来栖さんたちにフルボッコされたのを思い出す。

 果たして本当にやれる? この人、確か現役ウィザードの中でもトップなんでしょ?



 ブンブン! と顔を振って頬を叩く。

 なに弱気になってんの!? やれるやれないじゃない。

 やるしかないの! じゃないと私も前のみんなみたいに吹っ飛ばされるだけなんだから!



「アリス! アカリ! いくわよ……。私について来なさい!」


「鈴?」


「お鈴ちゃん!?」



 二人は懸念した顔をこちらに向けた。



「無茶や! 先生に真正面から挑んでタダで済むなんて――」


「真正面から挑む必要なんてない! 先生の戦機は片手のパイルバンカーだけ……。なら視覚に回り込めば勝機はあるはず! 私がそこをついて意識を逸らすから、その間に攻めて!」



 そう言うと、アリステラが親指を上げてニッコリ頷いた。



「おっけー。そういうことなら……。アカリ、やるわよ? 根性見せなさい!」


「ちょいちょい無理やって! なんでそこまでやる気になれるんや? 相手はあのウィザード最強って呼ばれとる由々しき先生やねんで?」



 だからここで大人しくぶっ飛ばされろって?

 そんなのはごめんよ。どうせやられるぐらいなら、全力で抗って抵抗してからのほうがマシってものよ!



「腹を括ろう。そうやって嘆いてるだけじゃなにも解決はしない。なら鈴の言う通り、根性を見せる時じゃないか?」



 アカリの肩にお兄ちゃんが手を置いた。



「ゆっきー……」



 お、おおおお兄ちゃん!?

 なにアカリにカッコつけちゃってるのよ! そんなことしたらこいつの好感度が上昇――



 『来るよ!』



 ハッと目の前に顔を向ける。

 そこにはまるで熊のように腕を薙ぎ払い、クラスメイトを殴り飛ばした結由織先生の姿があった。



 なんて顔よ。

 私は見た。結由織先生の形相を。

 まるで鬼、魔神、悪魔、もしくは野生といった風貌で、元のおっとりした姿とはかけ離れた様子だ。

 戦いを楽しんでる?

 そう思えるほど口角が吊り上がり、ぎょろぎょろと次のターゲットを見定めている。



「次はあんたや……。桜場解放者……」



 こっちを見た!

 私に次の狙いを定めたようで、距離を詰めてくる。

 前にいたクラスメイトたちは恐怖で道を開けてしまう。

 仕方ないだろう。これほど圧倒的な実力を見せつけられたら、誰でも距離を取りたくなるものだ。

 


 だけど、狙いを定められた今、私に逃げ場はない。

 やるわよ、大樹!



 『サポートは任せて!』



 足に力を込めて走り出す。

 肉薄すると、結由織先生が大振りでパイルバンカーを振るった。

 普通の人間ならその攻撃で簡単に吹っ飛ばされることだろう。

 だけど!



 その攻撃の初動を見た瞬間、方向を変えて側面から背後へ回り込む。

 後ろを取ったッ!

 無防備な背中。ウィーブがかった長い髪で細かい様子は見えないけど、振り上げられた戦機を見るに反応しきれてない!

 そう思い、ライトニングスパローの刃を背中に切り付けようと試みた!

 だが――



「なんやその腰抜けな動きは……」


「は……?」



 結由織先生のそんな声が聞こえた。

 私の動きが……見えてるの?

いや、そんなはずない! 私は光の速さで――



 『攻撃の手を緩めちゃダメだ!』



 そ、そうだわ! ここでなにを言われても、私にはこの剣を振るうしかない!



「やああああああ!!!」


「やからなんやっちゅうねん! そのへたれ込んだ動きはぁぁぁぁ!!!!」



 ガキン! と杭が打ち付けられ、結由織先生が振り上げた戦機が加速し、地上へ向かって殴り付けた。

 砕ける地面。私の攻撃は足場が崩れると同時に剣先が鈍る。



「なんてめちゃくちゃな――」


 『鈴芽ちゃん、前!?』


「え……」



 迫る結由織先生の戦機。

 重厚な黄色い銃器のような鋼鉄の拳が眼前に迫る。



「やば――」



 当たる!

 そう思われた瞬間!



「させへんでえええええ!!!」



 アカリが間に入り、グローブで結由織先生の戦機を掴んで動きを止めた!



「アカリ!?」


「なにボーっとしとんねん! さっきの威勢はどこいったんや、さっさと動け!」


「ナイスよアカリ!」



 結由織先生の後方にいるアリステラが大剣――ドラグナートを掲げる。



「いくわよドラグナート! ドラゴンブレスッ!」



 ジャコッ!

 大剣の刃が上下に裂け、高出力の魔力の輝きが刃となって空に解放される。

 アリステラはやる気だ。この場にいるアカリごと、結由織先生を攻撃するつもりだ!



 その魔力の刃が振り下ろされる。

 アリステラの魔力の熱に肌がジリジリ焼かれ、光が迫る。



「ええ連携や。やけど!」



 結由織先生が戦機をアカリごと振り上げた。



「ううぇ!? ちょい、ちょいちょいちょい!!」


「この程度でてっぺんが取れるわけないやろ! クソボケカス共!」


「きゃあああああ!!!」



 アカリがアリステラに向かって投げ飛ばされた。

 その体がアリステラとぶつかり、ドラグナートは持ち主の手から離れ、魔力は霧散してしまう。

 体がぶつかり合い、尻もちをつく二人に結由織先生が距離を詰める。



 そうはさせまいと私が後を追い、背中を斬ろうとしたが、なにも持っていない左手で顔面を掴まれた。



「なんで!?」


「気迫がダダ漏れや! そんなんじゃどこから攻撃してくるか、相手からしたらバレバレやで?」



 そのまま私の体も二人のもとに投げ飛ばされる。

 そんな私の体を駆けつけたお兄ちゃんが受け止め、下ろした。

 お礼も言う間もなく、お兄ちゃんは刀を由々しき先生に向けて駆け出す。

 その刃が振り下ろされ、結由織先生は真っ向から迎え撃つ。



 刀とパイルバンカーが激突する。

 一見お兄ちゃんのほうが不利だと思えるこの状況。

 だけどさすがは刀型と言ったところだろう。

 全能力が跳ね上がったお兄ちゃんの力が、結由織先生の攻撃を完全に受け止めている。



「ほぉ。なかなか見どころのあるガキやないかい」


「先生が生徒をガキって呼ぶのはどうかと思いますけどね!」



 お兄ちゃんが競り勝った!

 刀がパイルバンカーを斬り上げる。



「トドメです!」



 お兄ちゃんの刀が彼女を捉える!

 決定的な一撃!

 その様子を見ていた誰もがそう思った。

 アカリでさえも……。



「せやな……。これで終いや。 あんたらのな!」


「なにを!」



 刀の切っ先が結由織先生の首を穿とうとする。

 ハッタリだ。

 そう思ったが、彼女はその刀の切っ先をなにもない左手で掴み取り……腕を振るうだけでへし折った。



 そう……へし折ったのだ。

 戦機は魔力で生成された頑丈なものゆえ、相当な力量差がなければ砕けることはないはず。

 それをなにもない左手で最も簡単にへし折った。



「お兄ちゃん!?」


「ぐっ!」



 体勢を立て直そうとしたお兄ちゃんの額に、結由織先生が頭突きを見舞った。



「がッ!?」



 お兄ちゃんが白目を剥いて背中から倒れ込む。

 額から血を出した結由織先生が「こんどこそ」とこちらを睨む。

 その捕食者のような形相に、私たちは身震いした。

 早く立ち上がらないと、武器を握らないと!

 そう思ったが、体は恐怖で竦み、思うように動かない。



 『鈴芽ちゃん! ちょっと貸して!』



 その時、私たちを救ったのは――



「うらあああああ!!!」



 魂の中にいた大樹だった!

 彼が私の体の主導権を強引に奪い取り、意識は切り替わった。



 俺は結由織先生の体に向かって体当たりを仕掛け、攻撃が向けられる前に虚を突いた。



「なっ!?」



 これには彼女も驚いたようで、反応が鈍っていた。

 まだまだ。ここからは俺のターンだ、先生!


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