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12話 憂鬱な一限

 はい最悪です。

 初手の一限目が数学だったのに、先生が体調不良で時間割変更になって実技演習になっちゃったんですけど!?

 予定じゃ六限だったのに……。

 元のままだったら傷の痛みもマシになってたはずなのに!

 


 『こういう時に限って不幸が降りかかるんだよね〜。それはこの世界でもあるあるなんだね〜』


 

 黙れ。

 あんたのどうでもいい“あるある知識”なんて今は聞きたくもないわ。

 こうなったらお兄ちゃん成分を補充して乗り越えなきゃ!

 


「お兄ちゃ〜ん!」


 

 グラウンドで戦闘服に着替えたお兄ちゃんの姿を探す。

 昇進の妹を癒してもらおうとしたが、目に入ったのはアカリに言い寄られてる愛しの兄の姿。

 


「なあ〜? ウチと付き合うこと考えてくれた〜?」

 

「いやいや、まだそんな冗談言って……。俺に何求めてんだよ」


 

 泥棒猫め。抜かりのない!

 でもそうやって何回も詰め寄るから、流石のお兄ちゃんも悪戯だと思い始めてる。

 しめしめ、奴が自滅するのも時間の問題ね〜。


 

 『あー、鈴芽ちゃん? あのまま放置してたらまずいよ?』


 

 なにがどう不味いのか、私にはちっとも理解できないわ。

 どこからどう見ても自滅ルートまっしぐら――


 

 『あのままだと原作通り、二人で夜の街に繰り出すことに――』

 


 な、なんですってええええ!!!

 


 『ちょちょちょっと! どういうことよ! あれがどうして……どうやって夜の街に行くことになるのよ!!』


 

 こいつの実態があったら首を絞めながら問いただしたいところだけど、あいにく肉体のない魂体。

 ならばと思い、自分の首を絞めて脳内で問い詰めてやることにした。

 


 『ぐ、ぐぇ……。捨身すぎる鈴芽ちゃん』

 

 『う、うるさい! どういう事か早く話しなさいよ! 今すぐに!』

 


 自分の首を強く締め付けたせいで苦しい!

 だけどこれは今聞かなきゃ、今すぐ聞かなきゃいけない!

 お兄ちゃんの貞操が……。私のお兄ちゃんがぁ!


 

「ちょっとちょっと鈴!? どうしちゃったのよ! いくら一限が実践演習になったからって、そこまで追い詰められることないでしょ!」

 


 慌てて気狂い走る私の腕をアリステラが止めようと掴んできた。

 


 『ナイスだアリス! そのまま鈴芽ちゃんの暴走を止めてくれぇ!』

 

「HA⭐︎NA⭐︎SI⭐︎TE! 私は私に聞きたいことが山ほどあるんだから! この手を放しなさいよアリスぅ!!」

 

「何意味わかんないこと言ってんの! 落ち着いて! 現実から目を背けないで!」


 

 自分の首を絞める私、それを力尽くで阻止しようとするアリステラ。

 二人の様子に周りにいた生徒達が群がる。

 みんな動揺して私達を見てくるが、知ったこっちゃないわよ!

 どうしてもこいつに聞かなきゃいけないんだからぁ!


 

「おいおい! 鈴、どうしたよ! 鈴!」

 

「お、お兄ちゃん!? こ、これはその……」


 

 見兼ねたのか、お兄ちゃんが心配そうに駆け寄ってきてくれた。

 アカリを差し置いて私のことを心配してくれたのね!


 

 『やってる事メンヘラの女っぽいけどね』

 

 『あんたは黙ってて! ちなみにさっきの話あとでみっちり聞かせてもらうから』

 

 『は、はい……』

 


 よろしい。ちょっと首を絞めすぎちゃったわね。

 爪立てちゃって首に爪痕がついちゃったかも……。

 首に手を当てた感じ、少し凹んだところがあるから間違いない。

 


「おい鈴、大丈夫か? アリス、一体何があったってんだ?」

 

「知らないわよ。いきなり鈴、自分の首を絞め始めて……そんなに一限が嫌だったのかしら……」


 

 違います。

 私の中のおっさんを問い詰めようとしただけです。

 と言っても、側から見ればいきなりトチ狂った行動に出た姿なのは間違いないわよね。

 私、やっちゃった?

 


「はいは〜い、み、みなさ〜ん、何してるんですか〜? 授業を始めますよ〜」


 

 そう考えていると、結由織先生が時代遅れな体操服にブルマ、上にジャージを羽織る姿で現れた。

 おっとりした眼鏡の先生、栗色のウェーブがかかった髪の女性。

 そんなあられもない姿に、心の親父が興奮したのが高鳴る鼓動から伝わってくる。

 


 『変態……』

 

 『し、仕方ないじゃん! 男は幾つになってもブルマが好きなんだから!』


 

 そうなの? なら今度ネット通販で探して買っちゃおうかな。

 そして……お兄ちゃんの前で着てみて――。

 きゃぁぁぁ!

 


 『そんな素直な姿をお兄ちゃんに見せるだけで、今より仲は進展するはずなんだけどね』

 

 『なんか言った?』

 

 『だからその素直さをだね……』

 

 『な・ん・か・言っ・た?』

 

 『い、いえ……なんでもございません』


 

 どうやら聞く耳を持つ気はないみたいだ。

 そう大樹は呆れて黙ることにした。


 

「で、では早速ですが、実践演習の授業を開始したいと思いましゅ!」

 


 噛んだ。先生、噛んだわね。

 極度のあがり症なんだろうか。自己紹介の時もそうだったけど、結由織先生っておどおどした印象が強いのよね。

 でも多分だけど――


 

 『そうだね。鈴芽ちゃんの考えてる通り、この授業中は――』

 


 性格が変わるはず!

 大樹と意見が一致した。

 実践演習は言わば戦闘学生向けの訓練だ。

 筋トレに模擬戦、遠泳にトライアスロン。

 はたまた防御訓練と称して先生からの攻撃をひたすら耐える内容などなど……。

 そんな内容を疲れた体に叩き込まなきゃいけないなんて、ほんと嫌になっちゃうわ。

 


 それは朝の訓練を受けていない一般生徒も息を呑むほどで、結由織先生の“これから何をするか”という発表をジッと待っていた。

 


「え〜。今日の内容は、私も皆さんの実力を確かめたいと思うので、か、軽く行きたいと思います」


「「「やったあああああああ!!」」」


 

 これには私を含めて全員が歓喜に震えた!

 当たりも当たり、超大当たりの授業内容よ!

 “実力を確かめる”って言えば、身体能力測定、もしくは持久走って相場が決まってるんだもん!

 これ以上神な授業はないわ!

 


「やったわね鈴!」

 

「うん!」


 

 アリスと拳を突き合わせる。

 どうやら彼女も一限から過酷な訓練は御免だったようで、嬉しさが突きつけた拳の力強さから伝わってくる。


 

「は、は〜い。皆さんが喜んでくれるのはいいのですが、詳しい内容を説明させてくださ〜い」

 

「「「は〜い」」」


 

 みんな心が晴れ渡ったように返事しちゃって。

 まあ私も同じなんだけどね?

 その時、ふっと気になって、結由織先生からキツいシゴキを受けたというアカリの反応が気になった。

 お兄ちゃんと後ろにいるはずでそっちに顔を向けると、なぜか顔が青く染まってガチガチ震え始めている。

 なんでだろ? 風邪?


 

「早速ですが――さっさと戦機を出さんかい! クソボケ共!」

 

「「「えっ……」」」


 

 あまりの豹変ぶりに皆が固まった。

 性格が変わるってことは予想してたけど、こんな急に? しかもめちゃめちゃブチギレなんですけど!


 

「今日はあんたらの実力を見せてもらうって言ったやろ? 測定とか持久走なんてくっそしょうもないことはせえへん。喜び? 今日はウチとあんたら全員で模擬戦や!」


 

 戦機解放と先生が呟き、右手に大きなパイルバンカーを召喚し始めた。

 その黄色に輝く重機のような拳。

 どんな物でも穿つぜ!と言わんばかりに煌々と輝く杭。

 そんな戦機をズガン!と地面に突き立て、彼女は言った。


 

「死にたくなかったら必死こいて抗ってみい!」


 

 終わった。

 終わりました。

 誰が嬉しくて一限目からこんなガチな訓練しなくちゃいけないのよ……。


 

 大樹は完全に魂の奥深くに逃げたようだ。

 チキンめ! こういう時こそ役に立ちなさいよね!

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