11話 痛みに堪えながらの登校
「痛ぇ……。マジ痛ぇよ」
「しっかりしなさいよ雪也! そうやって“痛い痛い”言ってると、私までなんだか痛みが強くなったような気がしちゃうじゃない」
「って言ってもよ〜」
そんな愚痴をこぼすお兄ちゃんとアリステラ。
はい。私たちはなんやかんや模擬戦で敗北して、目を覚ますともう登校時間が迫ってたから、早歩きで学校に向かってる最中よ。
『合宿なのに学校は行くの、やっぱツレぇわ』
同じ体を共有するおっさんが愚痴をこぼした。
仕方ないわよ。
来栖さんが「学業を疎かにするのは許しません」って、糸のように細い目を開眼させたんだから……。
あの目を思い出すと……うぅ。体が思わず震え上がっちゃう!
震えると同時に、来栖さんたちに痛めつけられた場所が痛んだ。
「なんやなんや! 三人ともだらしないなぁ! もっとシャキッとしぃ! シャキッと!」
お尻の痣を摩っていると、私たち三人に対してアカリが後ろからバシッと叩いて先頭に出た。
「うっ!」
「痛っ!」
「あぎゃ!」
触るだけでも痛いってのに、こいつ何すんのよ!
私だけじゃなくアリスにお兄ちゃんも、先を歩くアカリを恨めしそうに睨んでいる。
当然の事よ。少しは気を使いなさいってのよ!
「なんや三人とも、そんな睨まんどいてぇな……」
「いやいやアカリ、さすがに傷まみれの俺たちを叩くのは違うって……」
そうよそうよ! もっと言ってやってお兄ちゃん!
にしても、これはラッキー。今のでお兄ちゃんポイントが下がったわね。
『鈴芽ちゃん……さすがにそれは小物が過ぎるんじゃ』
『うっさいわね! あんたは誰の味方なのよ!』
『鈴芽女王陛下の味方にございます! はい!』
よろしい。
なんにせよ、一番の目的はアカリの魔の手からお兄ちゃんを守ることよ。
そしてあわよくば、私がお兄ちゃんの一番に……。
「なんやお鈴ちゃん、涎垂らして……。腹でも減ったんか?」
「なっ!? 違うわよ!」
いけないいけない! 妄想が捗りすぎて涎が垂れちゃってたみたい。
私としたことが迂闊だったわ……。
涎を拭い、アカリを睨む。彼女はニシシと笑いながら私たちの先を歩いている。
アカリも多かれ少なかれ怪我したはずなのに、なんであんなに元気なのよ……。
「ねえアカリ? あなた、怪我は痛まないの?」
「怪我?」
アリスも同じ疑問を持ったみたい。
聞かれたアカリは自分の体を見渡して、アリスに向かって言った。
「痛いで? 腕とお腹と太ももがめっちゃな?」
「ならなんでそんな元気なのよ……。私、痛くて痛くてあなたみたいに元気出せないわ」
アリスの言う通り、私も痛くてアカリみたいにはしゃぐ余裕はないわ。
これからの授業もまともに受けられるか怪しいくらいにね。
「俺も同じくだな……」
「なんや。こっちの学校はだらしないな〜」
あんたがタフすぎるだけよ。
もう口を開く元気もないわ……。無駄な労力を割くのは控えとこ。
『まだ若いのに……』
うるさいわねぇ……。
なら変わってくれないかしら?
なんだったら今、私の体を自由に扱ってくれてもいいのよ?
そう大樹にも聞こえるように脳内で考えてみたが、変わってもらえる気配がない。
そうよね。
こいつにも多少の痛みはフィードバックされてるみたいだもん。
体を切り替わってこの苦痛を味わいたくないのよね〜。
『ピュ〜♩』
下手な口笛が、答えを言ってるようなもんよ。
フンと大樹のチキンさ加減を鼻で笑ってやった。
「アカリが凄すぎるんだよ……。あれか? 戦機の能力で痛みを軽減したとか?」
項垂れたお兄ちゃんがアカリに言った。
すると彼女は頭の後ろで腕を組み、空を眺める。
半袖のセーラー服からチラリと脇を見せるのは、わざとなの?
幸い、お兄ちゃんは気にしてないみたいだけど。
「いいや。ウチの戦機にそないな能力はあらへんで」
「ならなんで?」
「いや、単純にこれより痛いの知っとるからやな」
「はい?」
どんな痛みよ。いや待って……。
こいつ、結由織先生と二人きりでアビス解放したんだったわよね。
だとしたら、その時の怪我で?
だったら“これ以上の痛み”ってやつがあっても理解できるわ。
それほどまでにキツい攻略戦だったのかも……。
「結由織先生のしごきがな? これよりキツかった……。やから比べたら大したことあらへんって思えるねん」
違ったわ。まさかの特訓での痛みだったわ。
てか、どんな訓練したのよ。
私たちの新しい担任がその結由織先生なんだけど……。
って待って? 今日の時間割に実技演習、無かったっけ?
『残念ながらあるんだよね〜……実技演習……』
終わったー! 私の命の灯火、燃え尽きたー!
『ね、ねえ、大樹? あんたの好きな食べ物作ってあげるから授業を代わりに――』
『ごめん。いくら女王陛下の頼みとはいえ、それだけはお聞きできません』
『なんでよ! この役立たず! 間抜け! ハゲ!』
『ハゲてないよ! 間抜けでもないからね! フサフサだから! モッサモサだから!』
知らないわよ! 誰もあんたの毛根事情に興味ないわ!
はぁ……。これから今朝以上のしごきがあると思うと憂鬱ねぇ。
隣を歩くアリスも深いため息を吐いていた。
昨日の夜はあんなにウキウキだったのに……。
思ってたのと違ったよね? 私もそうよ。
まさかこんなガチな合宿だとは思わなかったんだから。
「そ、そのしごきってどんなことしたんだ?」
馬鹿お兄ちゃん! それを今聞く?
アリスもこれにはさすがにお兄ちゃんを強く睨みつけていた。
先の地獄なんて、誰が聞きたがるっていうのよ!
あ、それがお兄ちゃんか……。
うぅぅ……。なんでこんなお兄ちゃんを私は好きになっちゃったかなぁ!
そんなお兄ちゃんの言葉を受けたアカリは私たちに向かってウインクを飛ばした。
「言ってもええけど、後ろの二人は聞きたくなさそうやで?」
「え?」
ナイスアカリ! 今この時ほど、あんたに感謝したことはないわ!
『いやいや、冷静に考えてみなよ。アカリが気を使うほどキツい内容だってことにさ』
なんで考えないようにしてたこと言うかな〜。
やっぱこいつ、私のファンじゃないでしょ!
絶対そうだ!
そんなこれからの授業を憂鬱に感じながら、私たちは学校に到着するのだった……。
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