9話 合宿スタート
これからも上手くいきそう。
そう思ったこともありましたよ。
今この瞬間まではね――!?
仲を深めたと思った昨日から一夜明け、早朝六時の駐屯地外部演習場。
そこで私たちは来栖さんからの集合を受け、制服に着替えてやって来た。
そう。やって来たんだけど……。
「ゆっき〜? ウチな〜? 初めてあんたを見た時から乙女心がズッキュン来てもて〜ん」
「は、はあ……」
「やから〜、この責任とってほしいかな〜なんて思っとるんやけど〜」
そう、今私の目の前でアカリがお兄ちゃんを誘惑しているのだ!
しかもなに!? あのくねくねした動き! ワカメか!? ワカメよね? ワカメなんでしょ?
『鈴芽ちゃん! どうどう……』
『私は馬か!? って、なんであんたそんなに落ち着いてんのよ! お兄ちゃんが! お兄ちゃんが!』
取られちゃう。
そう言おうと思った瞬間、パンパンと手を叩きながら来栖さんと柳先生、それに八重さんが隊員服に身を包んでやって来た。
「はいは〜い。仲が良いのは結構だけど〜、今からチーム戦の演習を始めるわよ〜」
その指示を受け、アカリは「ちぇ〜」っとつまらなそうに姿勢を正した。
助かった。ナイスタイミング!
ふふん♩ ざまあみなさい泥棒猫。
そんな勝ち誇った目をアカリに向けるも、気づいてはくれなかった。
「鈴芽さん。私が話をしてる時は集中して聞いてね〜」
「うっ……ごめんなさい」
代わりに気づいたのは来栖さんだった。
目をチラリとアカリに向けると、ニシシと笑っている。
要領のいい奴〜!
そう思い腹は立つが、今ではないと来栖さんに視線を向ける。
「チーム戦って何するの?」
アリステラが手を挙げて聞いた。
この場で一番真面目なのは彼女だろう。
ここに来てからというもの、アリステラは新鮮そうに来栖さんからの指示や話を聞いて楽しそうだ。
昨日の夕食の時も何を話しているのかわからなかったけど、来栖さん達と話しているのが楽しそうだったしね。
「アリステラさんはやる気ね〜。そうね。まあチーム戦の演習って言っても、やることは一つよ。それは――」
「模擬戦ね?」
「せいか〜い。アリステラちゃんに10ポイント〜」
「やった! やったわよ鈴! 私、10ポイントももらえちゃった!」
「あはは……良かったわね、アリス……」
なんの10ポイントよ!?
どこで使う、なんのためのポイント!?
ニコニコした来栖さんを見る。きっとあれは何にも考えてない、その場のノリで行ったポイントだ。
そうに違いない。
まだ少ししか一緒に過ごしてないけど、だんだんこの人の性格が分かってきたわよ。
「アリステラさんの言う通り、これから模擬戦を行ってもらいます。チームはあなた達四人と、私たち三人に分かれてね」
「ちょ、ちょっと待ってください! 鈴とアカリはともかく、俺とアリスはまだ学生ですよ? あなた方プロに敵うわけがありませんよ!」
お兄ちゃんが言う。
私とアカリは確かに部隊の一員だけど、実力的に二人とそんなに変わらないんだけどね……。
ただ部隊に所属してるってだけで、特別強いわけじゃないんだから。
「大丈夫ですよ〜。本気で戦うわけじゃないんですから〜。でも雪也さん達は本気で戦ってくださいね〜」
「はい。動機はともあれ合宿という場なのです。参加したのであれば、有意義にこの時間を活用すべきですよ、九条雪也さん」
ニッコリ笑う来栖さんと、淡々と話す柳先生。
柳先生の言うことももっともね。
アカリと仲良くなるためだけに時間を費やすより、ついでに訓練して力をつけた方が有意義に違いないもの。
「そ、そうですか……。わかりました。俺も一身上の都合で参加した身。この時間を有効活用させていただきます!」
「その意気です、雪也さん」
お兄ちゃんの気持ちも固まったみたい。
アリスもそうだ。二人ともやる気になってるみたいね。
私もそう。お婆様を倒して、ちょっとは自分の力に自信がついたんだもん。
この人たちが相手でも、そこそこやれるんじゃないかしら?
『確かに単純な力と能力なら、鈴芽ちゃん達の方が上だと思うよ? メインキャラなんだし』
メタなことを言う大樹。
生まれ持った才能的なものって考えたらいいんだろうけど、そう言われるとなんか釈然としないわね……。
『でも俺はかなり厳しい戦いになると思うよ』
『なによ。それって私達が負けるって言いたいわけ?』
『そうは言ってないよ? でも相手はプロでチームで戦ってきた人たちで、特殊部隊だ。対する俺達はただの学生で、お兄ちゃんとアリスとは仲は良いけど、アカリとの関係は最悪。そんな状態でチームの連携に敵うわけないでしょ?』
うっ。たしかにそうかも。
単純に一対一なら望みはあるかもしれない。
私の戦い方も単体戦を想定した練習ばっかりしてきたから……。
それにアカリの戦機――。
グローブらしいけど見たこともないし、戦い方もいまいち知らない。
連携以前に、準備自体が整ってないのよね。
『ようやく分かってくれたみたいだね? まあ俺もサポートするからさ。肩の力を抜きなよ』
と言われても、目の前のプロ三人の気迫を前にして落ち着いていられますかっての!
「では四人とも、戦機を出してくださいね〜」
「「「「了解!」」」」
私たちは戦機を解放する。
同時に相手も。
アカリ以外の戦機は見慣れたものだが、彼女のグローブは――なんていうか、デカかった。
機械っぽくもなく、何か特別なオーラを放っているわけでもない。
ただ、大きな布のグローブのように見える。
そんな戦機でどう戦うというのだろうか。
私にはちっとも分かんない。
だけど、状況は待ってくれない。
八重さんが弓型の戦機を構えて、一矢、空中に向かって射る。
空高く、一筋の矢が登っていく。
きっとあれが合図だ。
矢が落ちた瞬間――この場の全員が動き出す。
だとすると私はどう動く?
何をすれば勝てる?
そう考えて数秒、矢が地上に落ちた。
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