表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/111

7話 夕食

 そんなこんなで仕事を終えた来栖さんが会議室に入ってきてアカリを睨みつけるのを止めた。

 というか止めさせられたという方が正しい。



 犬の様な唸り声を上げなげる私を面白そうに笑うアカリ。そんな光景を来栖さんがみた瞬間、場の空気が凍てついたからだ。



 今すぐ威嚇するのを止めないとタダじゃおかないわよ……。

 そう言った気配を細い目が少し開いた表情から汲み取れたからね。

 取り敢えずは撤退よ。

 来栖さんに怒られるのは怖いんだもん。



 そんな私たちは今、駐屯地の食堂でご飯を食べている。

 私はもちろん! お兄ちゃんの隣――と言いたいところだったけど、来栖さんが「鈴芽さんはアカリさんと二人っきりで食べるように」と命令されて渋々机に向かい合わせで黙々と食事することになった。



 少し離れた場所にはお兄ちゃんとアリステラ、八重さんに来栖さんが四人楽しそうに談笑しながら食事しているじゃないか……。なんて羨ましい。

 これから三日間ずっとこいつと同じ場所で食べなきゃいけないと思うとゾッとするわ……。



 そう思いながら目の前でカツカレーを頬張るアカリをみる。間抜けな様子でがっつく彼女をみるに私に対して悪びれている様子もないようで、それどころかこっちの視線に気づいて不敵に笑ってこられて不快なほど楽しげだ。



「お鈴ちゃん。なぁに?」


「なんでもないわよ!」



 ふん!とそっぽを向いてミートスパゲッティを頬張る。

 口に入れた瞬間挽肉の旨みとトマトの酸味が口いっぱいに広がる。

 これ、美味しい。



「それ美味しそうやん。一口頂戴? ウチのも一口あげるから」



 嫌よ! と言いたいところだけど、チラリと横を見ると来栖さん達が目を光らせてこっちをみていた。

 ここで少しでも仲良しアピールをしてないとこの先とんでもない命令をされそう……。



「仕方ないわね……。一口だけなんだからね」


 

 スッと皿をアカリの前まで差し出す。

 一口ぐらいあげてこの状況が打開できるなら安いもんよね。



 『あ、まずい。鈴――』



 大樹が何かを言おうとした瞬間それは起こった。

 一口と言ったアカリが、皿を持ち上げスプーンで一気にかき込みドカッと机に皿を置いた。

 信じられないだろうけど、さっきまでまだ皿半分はあったはずのスパゲッティが残り一口分しか残っていない……。

 一口ってなんだ? この量……一思いに残せって状態なんですけど!?



「な、なにすんのよッ!」


「ふがふが」


 口いっぱいに頬張り口の周りが真っ赤に染まったアカリは満足そうに何かを話している。

 だけど頬張りすぎて何言ってるかわかんない!



「一口って言ったじゃない! 一口って!」


「んくっ。一口やん! ほれ」



 言ってアカリは口を大きく開いてみせた。

 なるほど常識の範囲の一口じゃなくて、こいつの感覚での一口ってことね? なら許せ――る訳ないでしょうが!



「返して! 私のスパゲッティ返して!」


「そない怒んなや。ほれ約束通りウチのカツカレー一口あげるさかい」



 差し出されたカツカレーの皿。

 まだ量はあるけどこいつみたいに一気に頬張るなんて真似私には出来っこない。

 こいつはそれが分かってるから安心したように皿を差し出せるんだ。

 でも甘いわね……。あんたのその油断。命取りよ!



 私はカレーの上にあるカツを全てフォークで突き刺し口に頬張った!



「あああああ!!! ウチのカツ!」


「ふぁふぁあふぃふぁはい」



 ざまぁみなさい。

 食べ物の恨みは恐ろしいんだから。

 私だってねこれぐらいの量口に頬張るぐらい余裕よ!

 だけどカツの衣がチクチクして口の中の皮が捲れたように痛んだ。



「ウチのカツを返せや!」


「ふんだ! 悔しかったら私のスパゲッティを返しなさいよね!」



 ようやく一矢報いたわよ! ふふん! こいつの悔しがる顔を見れてちょっとスッキリしちゃった♩



 ポコン! そう満足していると私とアカリの頭をいつの間にか近づいた来栖さんに小突かれた。

 二人揃って彼女に顔を向けるとそこには冷ややかな目をした、いやその目だけで軽く人を殺せてしまいそうなほど鋭い眼光をさせた来栖さんが居た。



「私〜? 仲良くしてって言ったわよね〜?」



 ガクガク震える。

 それはアカリも同じようだった。



「隊長の命令が聞けないってことかしら〜。それって〜?私の人望がないってことなのかな〜? 九条鈴芽さん、品川アカリさん?」


「「め、滅相もございません!」」



 始めて息があった気がした。

 今この瞬間だけはこいつと心が通じ合ったように感じる。

 そうしないと目の前の阿修羅に弁明できるとは思えなかったからね。

 そんな来栖さんはニコッと笑う。

 だが笑っていない。矛盾していると思うけど、そんな感じなのよ。

 顔は確かに笑ってるけど醸し出す雰囲気が全く笑っていないほふぉ冷え切っている。



「よろしい。じゃあ早速だけどどっちからか身の上話をしてね?」


「身の上話ったって……そんな急に――」


「やりなさい。命令」


「は、はいぃ!」



 私は背筋を伸ばして答えた。

 ここは大人しく従おう。

 そうアカリに目を向けるとコクコクと頷いてくれた。

 仕方ない。

 こうなったら私から話すとしよう。

 そう思い来栖さんの監督下の元、私の生い立ちにここ最近起きた九条家についてアカリに話すことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ