5話 主人公特有のスキル
「ふん♩ふんふ〜ん♩」
基地へ向かう道中。
時刻は二十時を回り、さすがに辺りが真っ暗になる。
街灯に照らされた道で鼻歌を歌いながらトランクケースを引く上機嫌のアリステラ。
その後ろからお兄ちゃんと私は後に続いていた。
「アリスの奴、楽しそうで良かったな?」
「そうね。アリス〜! さっきも言ったけど、これ合宿なんだからね〜!」
叫び、アリスに声をかける。
すると振り返って満面の笑みで手を振り返してきた。
「分かってるって! これはあくまで合宿! 私、一度やってみたかったのよね〜。ジャパニーズ合宿ってやつを。あれでしょ? 海で泳いだり、バーベキューしたり、肝試ししたりするんでしょ〜?」
なんか偏った知識が豊富なんですけど……。
てか合宿要素どこよ!?
ただのキャンプじゃない。小学生か私たちは!
『プッ! 小学生も何も鈴芽ちゃんはつい最近まで小学生だったじゃな――』
『あぁん!!?』
『なんでもありません。女王陛下』
大樹のやつ。隙あらば失礼なこと言ってくるわね。
私のファンじゃなかったの?
ファンだったらもっと敬いとか憧れとか……愛を持って接してほしいんですけど?
いや、やっぱ愛はいらないや。
そんなこんなで私たちは自衛隊駐屯地桜庭支部に戻ってきた。
基地はどのフロアも電気がついていて、未だ中で隊員たちが業務に励んでいる様子がうかがえる。
遅くまでご苦労様。
心の中で労い、基地の自動扉をくぐり、受付カウンターまで進む。
するとそこには夕方にも出会った男性隊員が書類作業をしていた。
ため息ばかりでかなり辛そうだ。
「お疲れ様です」
そんな隊員に声をかけると、彼はピクリと反応し、顔をこちらに向ける。
「おや? 貴方は先ほどの……。どうかされましたか? 忘れ物ですか?」
「ううん。実は今日から三日間、ここでお世話になることになったんです」
「お世話になる……。つまり泊まり込みですか? 大変ですね?」
「隊員さんほどじゃないわ。来栖さ――一条来栖隊長は今どこにいるか分かりますか?」
「一条三佐ですね? 少々お待ちを――」
隊員はカウンターに貼り付けられた用紙を確認する。
目で覗くと、そこには全隊員のタイムスケジュールが記載されていた。
かなり小さな文字で、見てるだけで目が疲れそうだ。
そんな大量の文字の中から来栖さんの名前を、隊員はものの数秒で見つけ出した。
「ありました。一条三佐は現在、三階演習場で装備のチェックを行っているはずですよ?」
「ありがとうございます」
「いえ、これも仕事ですから。ところで後ろのお二人は……?」
隊員がお兄ちゃんとアリスの存在に首を傾げた。
二人はここの関係者じゃないから疑問に感じても無理はない。
「あ、この二人も私と一緒にここでお世話になるんです。通してくれます?」
「あ〜。大丈夫ですよ。ではお二人にはこちらのゲストIDをお渡ししますね」
言って隊員は二人にカードキーを手渡した。
私とは色の違うカード。
私は赤で二人は青。
正規のものかそうでないものかが一目瞭然だ。
「「ありがとうございます」」
「いいえ。それではお気をつけて」
「うん。隊員さんも頑張ってね。あ、これ食べて元気出して?」
私は鞄から、家で作り置きしていた金平ごぼうが入ったタッパをカウンターに置いた。
「よろしいんですか?」
「いいのいいの! でも早く食べてね? あまり日持ちしないから」
「あ、ありがとうございます!」
敬礼した隊員に一礼して、私たちは来栖さんのいる三階に向かうことにした。
あんな惣菜で喜んでくれたなら嬉しいわ。
今度もっと作ってこようかな?
エレベーターに乗り、三階に上がる。
降りると静かな白い廊下。
数人の隊員が廊下を歩いているのが見える。
その人たちとすれ違いざまに敬礼をし、目的の演習場へ向かう。
「演習場、演習場はっと……ここね」
第一演習場。
そう書かれた大きな扉の前に立つ。
装備のチェックって言ってたけど、忙しかったりするのかな?
だとしたら私も少し手伝ったほうがいいわよね。
手伝えることがあればの話だけど。
扉を押して中に入る。
そこは体育館のような板張りの空間が広がり、綺麗に整っているように見えた。
来栖さんの姿を探して顔を周囲に向けていると、奥の片隅でアサルトライフルの装備をチェックしている彼女を見つけた。
「ただいま戻りました。来栖さん」
彼女に近づき声を掛けると、来栖さんはバインダーにチェックを付ける手を止めてこちらに顔を向けた。
「あらあら〜。ようやく来たのね〜。雪也くんにアリステラさんも、数日ぶりね〜」
「はい。その節はお世話になりました」
「急に押しかけてごめんなさい。三日間よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げるお兄ちゃんとアリス。
そんな二人をにこやかな顔で見つめる来栖さん。
「うふふ。礼儀正しくていいわね〜」
手に持ったバインダーの用紙をちらりと覗くと、まだ半分ほど作業が残っていそうだった。
「来栖さん。もしかしてまだお仕事中ですか?」
「ええ。実はそうなの」
「手伝いましょうか?」
首を横に振る来栖さん。
「大丈夫よ。これは私の仕事だから〜。それより三人は荷物を置いてきたらどうかしら?」
「って言われても、どこに置いたらいいかわかんないんですけど」
合宿と言われただけで、どこで寝泊まりするか聞いていない。
この演習場でってわけでもなさそうだし……どこなんだろ。
「そういえば言ってなかったわね〜。貴方たちが泊まる場所は、ここと同じフロアにある第七会議室よ」
「会議室……ですか?」
「ええ。と言ってもほとんど使われてない、埃をかぶってた部屋なんだけどね〜?」
「分かりました。では荷物をそこに置いてきます」
「うん。その部屋には八重さんもいるはずだから、今後の予定を彼女から聞いてね? じゃあまた〜」
「はい! 失礼します」
敬礼し、私たちは第七会議室へ向かう。
廊下に出て少し歩くと、幸いにもその部屋はすぐ近くにあった。
コンコンコンと扉を叩く。
中に八重さんがいるって聞いてたけど返事がない。
出て行ったのかな?
まあ荷物は置けるし入ろっかな。
扉を開けて中に入ると――
「なっ――」
「ありゃ!?」
中の二人、八重さんとアカリが顔を赤く染めてこちらを見てきた。
よくよく見ると、二人は服を脱ぎかけた姿。
着替えの最中だろうか……。
「す、すみません!!! ってなんで品川さんが!?」
お兄ちゃんが裏返った声を出した。
しまった! ここにはお兄ちゃんが居たんだった!
二人は脱いだ服でできるだけ体を隠していた。
お兄ちゃんは照れながらも二人の体を凝視している。
「お兄ちゃん! 目を閉じなさい!」
私は振り返りざま、お兄ちゃんの目に指を二本突き立てた。
それは見事に眼球に突き刺さり――
「ぎゃああああああああ!!! 目が、目があああああ!!!」
のたうち回り始めた。
そんなお兄ちゃんを見て、大樹は「うわぁ……」と呟いた。
『いくら主人公のラッキースケベが発動しても、今の目潰しだけは喰らいたくないな〜』
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