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2話 補充要員

 学校が終わり、私は朝メールで知らされた通り、自衛隊駐屯地・桜場支部へやって来た。

 


 アビスから解放されたというにもかかわらず、この場所は今日も忙しそうに隊員たちが訓練や物資の運搬などに勤しんでいるのが見える。

 


 『ここから他のアビスに派遣されるんだろうね』


 

 大樹が言う。

 確かに、他の場所にはまだアビスがあるわけだしね。異動とかあって大変そう。

 


 そんなことを考えながら基地に入り、受付に向かい、書類整理を行っている男性隊員の前で足を止めた。


 

「おや? その制服は……学生さんじゃないか。どうしたんだい? 見学に来たのかな?」


 

 この人、私のことをただの学生だと思ってるみたい。

 仕方ないわよね。この制服だし、子供の見た目なんだもん。

 


 ゴソゴソとポケットから来栖さんたちからもらったカードを一枚取り出し、提示する。

 すると受付の隊員の表情がサァッと青ざめ、敬礼した。


 

「と、特殊部隊の方でしたか!? これは失礼しました! 桜場の英雄部隊所属である方に、大変ご迷惑なことを――」



 青ざめた隊員を慌てて諌める。


 

「いいんですよ? ほら、私ってまだ十四歳だし。あなたの判断は間違ってないですよ? ごめんなさいね、忙しいときに邪魔しちゃって」


「滅相もございません!」


 

 敬礼したまま、目も合わせてくれない。

 あなたより年下の新米だから、もっと砕けてくれてもいいのに……。


 

 『仕方ないよ。アビスを解放するって、めちゃくちゃ大変なことなんだから。何百人もの犠牲の上にようやく解放できるものを、俺たちみたいな子供が成し遂げたんだ。彼のこの反応は当然だと思うよ』


 『犠牲……か。そうね』


 

 私は隊員に敬礼を返して目的の部屋へ向かう。

 大樹の言葉を受けて、犠牲になった隊員の一人――丹色さんのことを思い出す。

 彼女とは少しの間だったけど、同じ舞台で命を預け合う仲間だった。

 


 桜場アビス解放作戦時、洗脳されたお兄ちゃんによって戦死してしまった。

 葬儀も挙げていない。

 特殊部隊に所属する以上、身内にも存在を秘匿されていたからだ。

 ドッグタグは家族の元に返したみたいだけど、いきなり返された鉄の塊を見てどう思うんだろう。


 

 『あまり考えすぎない方がいいよ。俺たちは丹色さんの分まで力を尽くして報いるしかできないんだからさ』


 

 大樹の言う通りね。

 散っていった仲間の分も、私は彼女から“ハチ”のコードネームを引き継いだんだから。

 


 スズメバチ――丹色さんのコードネーム「アシナガバチ」を引き継いだその称号に、彼女の息吹を感じる。

 タスクフォース0の補充要員として、そして私の戦闘スタイルからそう名付けられた。

 


 『この名に恥じないように力を尽くさなきゃね』


 『その意気だよ、鈴芽ちゃん!』

 


 大樹と会話をしていると、あっという間にタスクフォース0の根城とする部屋の前までやってきた。

 最初に訪れたときは明るくデコレーションされていたが、今は何もなく重苦しい部屋にしか見えない。

 ノックを三回。コンコンコンと叩く。

 


「ど〜ぞ〜?」


 

 中から柔らかい印象を受ける声が聞こえた。来栖さんだ。

 


「九条鈴芽! 一七00現在、現着しました!」


 

 言って扉を開き中へ入る。

 そこには糸目の来栖さん、キリッとした目の八重さん、そしてなぜか私より早くこの場にいる柳先生の三人が、フォーマルなスーツ姿で椅子に腰掛け、机を囲んでいた。


 

 彼女たちの前には、ぎっしりと文字で埋め尽くされた資料の数々がある。

 今の今まで会議をしていたのだろう。

 そんな三人の囲む机、空いた席の隣に気をつけの姿勢で立つ。

 


「うふふ〜。そう畏まらなくていいわよ〜? 座って〜?」


「はい! 隊長!」


「あらら……まじめさんね〜」


 

 少し困ったように来栖さんが反応する。

 着席の許可をもらえた私は椅子に腰掛け、目の前の資料に目を通す。


 

 【新たな人事異動】――そう書かれていた。

 どういうことなのか首を傾げる。

 


「隊長? これってどういう――」


「私は隊長だけど、今は作戦中じゃないから名前で呼んでほしいな〜」


 

 据えたように顔を逸らす来栖さん。

 どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったみたい。


 

 『ここは彼女の言う通り、名前で呼ぼ? じゃないと先に進まなさそうだし』


 

 大樹も私と同じ考えだった。

 はぁ、と息を吐いて、

 


「来栖さん、これはどういう意味ですか?」


 

 言い換えて聞いた。

 すると彼女はパァッと明るくなり、こちらに顔を向けてくれた。

 隊長なのにこれでいいの?

 こんな緩い空気で本当にいいの?

 そう思い、私は八重さんと柳先生に顔を向けた。


 

 二人はやれやれと呆れたように首を振って返した。

 その反応……ここはこの空気感でいいんだ。

 


 『郷に入っては郷に従えってやつだね。こんな柔らかい雰囲気で使うことなんて滅多にないけど』


 

 その通りね。

 そう諦めていると、来栖さんが資料を持ち上げ、ふふんと笑った。

 


「それはね〜。なんとこの隊に新たな仲間が配属されることが決定しました〜!」


「おぉ!」


「やっとですか」


 

 八重さんと柳先生がそう反応した。

 やっとってことは、前々から打診してたってことよね?

 もともとの四人じゃ数が足りてなかったんだ。

 そんな状態でアビス攻略作戦って……。

 もしかして自衛隊ってかなりブラックな状態なんじゃ……。


 

 そう思ったが、深く考えるのはよした。

 これ以上、闇に足を踏み入れちゃいけない。そんな気がするもん。


 

「その新しい隊員なんだけど〜。実はここに来てもらってま〜す。ど〜ぞ〜」

 


 来栖さんが言って、私が来た扉を促した。

 そちらに顔を向けると扉が開き、外から金髪、白いセーラー服の女の人が入ってくる。


 

 『うそ……。あれって……』


 『おいおい。これはなんの冗談だよ』


 

 大樹も驚いていた。

 そこに現れたのは、先ほど学校で会ったばかりの品川アカリその人だったからだ。

 


「ちゃっす! また会うたな? お鈴ちゃん!」


 

 手を挙げて軽く返事する彼女。

 私と大樹は、そんな彼女の不意の登場に呆気に取られて、しばらく空いた口が塞がらなかった。

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