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61話 全てが終わった桜場で

 アビス解放から2日。

 私たちは日常を取り戻した。

 ゲートの向こう側の荒廃した大地は再開発に着工する人たちで賑わい、ゲートも本来の役割を終え解体作業が行われていた。 



 そんな慌ただしい桜場のマンションに住む私とお兄ちゃん、ついでになぜかまだ居座るアリステラの三人はアルケミー登校の準備をしているところだ。



「鈴〜? ソースは〜?」



 アリステラが空になった容器をプラプラさせる。

 こんな忙しい時にアリスときたらゆっくり朝食なんか食べちゃって……。もうあと5分でここを出ないと遅刻するってのに!



「ソースはキッチンにあるわよ! 自分で取ってよね!」



 鞄に教科書、戦闘服を突っ込みながら答えてあげた。

「ありがと〜」とアリステラの返事が聞こえる。

 その余裕が私にも欲しいわ!



『夜更かしするから……。って俺言ったじゃん。寝る前に学校の準備をしたらって?』


「う、うっさいわね……。したわよ! 時間割見間違えて明後日のだけど……」



 大樹が呆れてため息を吐く。

 魂体の癖に生意気な〜。

 気付いたんならあんたが体を使って準備してくれたら良いじゃないの。



『次のニュースです。アビス解放から2日。自衛隊作戦妨害の罪で起訴された九条一家ですが――』



 テレビから流れてくるのは私たちの実家についてだ。

 過去の英雄や現在のウィザード達の不祥事は世の中の注目の的になった。

 非人道的な人体実験。桜の身勝手な動機。

 協力者を使った根回しと妨害。

 陰湿なやり口は世間の不評を買い、格式高かった九条家は実質お取り潰し状態だ。



 まあ、それは1日前に知ったんだけどね。

 昨日私とお兄ちゃんは、屋敷に行って警察と自衛隊による家宅捜索と関係者の身柄拘束に立ち会った。



 目的は一つ。地下に幽閉されているはずの母を迎えに行く為だった。

 はずって言うのは、母はそこに居なかった。

 あったのは木製の格子、中には本や簡素な机と椅子だけで人らしい姿はどこにもなかった。

 何処かへ飛ばされた話も聞いた事ない。連行されていく屋敷の人間に話を聞いても皆知らないと口を噤んだ。

 もしかしたら本当に知らないだけかもしれないけど……。



「おい鈴! 早く出ないと遅刻だぞ? 急げって!」



 ニュースに気を取られていて、準備の手が止まってた!

 まずいまずい!

 急いで鞄に荷物を突っ込み部屋を出る。

 そこには制服姿のお兄ちゃんと、もう食べ終わったのかアリステラが居た。



「アリス。あんた食器洗ったんでしょうね……」


「もっちろん。私を誰だと思ってるのかしら。居候させてもらってるんですもの。自分で散らかしたものは自分の手で片付けられるわ!」



 えっへんと胸を張っているが、アリスのことだ。

 どうせ雑な片付けに決まってるわよ。

 ほんの少ししかまだ共に過ごしていないが、アリステラの生活力はとんでもなく低い。



 食器を洗ったといえば、油汚れがベッタリついたままだし、洗濯物にはポケットに紙を突っ込んだままの最悪な状態。

 掃除をさせれば絶対何かが壊れるってぐらいよ?

 お気に入りの猫の食器が壊されちゃったし……。

 


「ほらさっさと行くぞ?」



 お兄ちゃんが家を出て駆け出した。



「あ、うん。いこ? アリス」


「ちょ、ちょっとまってよ二人とも!」



 私たちお兄ちゃんの後を追うように駆け出した。

 マンションの階段を降り、商店街を横切る。

 そこはいつもと変わらない日常が広がっているが、奥のゲート解体を見て思う。



 もう少ししたらこの街の景色もガラッと変わるのかな?

 だとしたら私の力がみんなの役に立ったみたいで嬉しい。



『だったみたいじゃなくて役に立ったんだよ。まあ俺は? 鈴芽ちゃんの力の素晴らしさを最初から知っていたけどね〜』


『はいはい。ありがとうございます〜。私のファン第一号さん』



 大樹との脳内会話にもだいぶ慣れ、今では表情もしっかりイメージできるようになった。

 最終決戦の時にこいつの顔を見たことが影響してるのかもしれない。

 おかげで嫌味とか、いやらしい顔も安易に想像できてすっごく不快なんだけどね。



『鈴芽ちゃん……。俺に対してほんと冷たくない?』


『ふ、ふん! 気持ち悪いあんたの顔が悪いのよ! 優しくして欲しいならもっとかっこよくなってみなさいよね!』


『どうやって!? 俺魂体だよ? 体ないよ? ここでどうやってオシャレしろって言うのさ! ねえ!』



 もう一つ出来るようになったことがあるとすれば、大樹に悟られずに考え事ができるようになったことだ。

 


 こんな事言ったけど、ほんとはあんたにすっごい感謝してるんだから。

 だって、初めてだったんだもん。

 私のことをしっかり見てくれる大人の人に出会ったの……。お母さんもあんたほど私を見てくれなかったし、お父さんに至っては見たこともない。

 親が近くにいるってこんな感じなのかな?



『鈴芽ちゃん?』


『うっさい! 話しかけないでおっさん!』


『ひどい!』



 照れを隠すように怒鳴り、意識を外に集中させた。

 駆け出してから数分、学校前の坂道にたどり着いた。

 ラストスパートだ。

 私と二人は坂を全力で駆け上がる。



 道の途中に一人の女の子の姿が見えた。

 アルケミーの制服と違って白のセーラー服だ。

 夏の風景と相まって涼しげな印象を受ける。

 そして鮮やかな金髪の長い髪に目を奪われた。



 転校生かな?

 そう思ったが、足を止めている暇なんてない。

 私たちはそのまま全力で教室を目指した。

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