6話 戦機
「準備は良い?」
第一演習場――広いグラウンドに80人の女子生徒を前に、俺とアリステラは立っていた。
あまりの人数と気迫に震えが止まらない……この戦闘が、俺が見てきたあのラノベの通りだとすると、激しい戦闘になる……それは避けられない。
「大丈夫よ。安心して。私が付いてる」
アリステラが俺の肩に手を置いて言うが……元はと言えばお前のせいだからな?
この戦闘が終わったら、日本の文化について詳しく説明してやる……長い付き合いになるだろうからな!
「そういえば名前を聞いてなかったわね? 私はアリステラ・バーンズウッド。貴方の名前は?」
「私は九条鈴芽。よろしくね? アリステラお姉ちゃん」
「鈴芽ね……可愛らしい名前じゃない!」
それはどうも! 俺の大好きな推しキャラの名前だよ! 世界一。
いや、宇宙一可愛い名前だ! この名前に隠された真の意味はだな〜。
「準備オッケーよ! いつでも来なさい!」
おっと、この話はまた後日だ! アリステラが準備完了と言った……なら、すぐにでもアレが始まるはずだ。
「なら始めましょ? 戦機展開!」
「「「「戦機展開!」」」」
80人の女子生徒が空に手を伸ばし叫んだ。
瞬間、彼女たちの足元に歯車状の魔法陣が展開され、空から武器――戦機が降ってくる!
戦機――個人の魔力が武器の形になったもの。機械的な見た目であり、武器の種類は多岐にわたる。
その全てが頂上的な力を持ち、使用者の身体能力を底上げさせる。
「戦機展開!」
アリステラも空に手を伸ばした。髪の色と同じ魔力の輝きが天に伸び、空から灼熱の大剣
いやというほど挿絵で見てきた、彼女の戦機・ドラグナートがその手に握られる。
残るは俺1人だけ――初めてだが、やれるはずだ!
「戦機展開!」
皆を真似て空に手を伸ばす! 足元に歯車型の魔法陣が展開され、体の内側から力が込み上げてくる!
いけた! なら鈴芽の戦機も来るはずだ!
そう思い空を見上げると、親の顔より見た彼女の武器……戦機と呼ぶにはひ弱で、小さく、見窄らしいレイピアが小さな手に収まる。
「来てくれた……ライトニングスパロウ」
雷光の雀。戦機自体の攻撃力は低いが、使用者の身体能力――特にスピードが格段に引き上げられる、身体強化極振りの戦機だ。
ライトニングスパロウを振り、目の前の80人に向き合う!
「お互い準備が出来たようね?」
「そうね……」
女子生徒の戦機は扇だ。
あの見た目から予想するに風を起こす、もしくは空を飛ぶといったところか……考えるだけでも厄介だ。
2人が武器を構える――一抹の静寂の果て……木の葉が1枚、2人の間を吹き抜けた瞬間!
戦闘が開始された!
「先手必勝っ!! 焼き尽くせ! ドラグナート!」
先に動いたのはアリステラだ!
彼女の戦機の刃が上下にジャコッと裂けるように開き、隙間から莫大な熱量を誇る熱線が解き放たれた!
有効射程1キロの熱線による薙ぎ払い! あれが初期のアリステラ最強の技だ!
あれに対応できないと、一瞬で勝負が決まるぞ!
その考えは正しく、80人いた生徒のうち左翼の端から30人ほどが焼き払われた。
まずい! このままだとアリステラの圧勝だ!
そう思い、俺は脚に力を入れ駆け出した! この場にいる誰もが俺の速度に目を追いつかせることができない。
雷光の速度――その速度は光を超え、俺は瞬く間に相手の左翼、アリステラの攻撃の目の前に辿り着いた。
単純な力比べだと鈴芽では勝てない……ここは俺が知ってる4巻先の知識を使ったチートで攻める!
ライトニングスパロウに魔力を注ぐ! ありがたいことに、戦闘知識は鈴芽の記憶で体を動かすことができる!
俺は真っ直ぐアリステラの薙ぎ払いに突っ込み、魔力の緩い場所を目指した!
見えた!パリィポイント!
大規模な攻撃には、そう呼ばれる魔力の薄い層がある。そこに別の魔力をぶつければ軌道を逸らすことが可能! これが4巻先の知識だ!
ライトニングスパロウがアリステラのパリィポイントを叩く!
その脆い箇所に俺の魔力が反発し――最も容易く軌道を空に逸らした!
「嘘!?」
アリステラが驚愕の声を上げた。あいつに気づかれるより前に移動して、元の場所に戻る!
そう考え、俺は光の速さでアリステラの後方に戻った。
思ったよりハードだな!!
「な、何が起こったの? あいつの攻撃は? 誰かが逸らした? いや、魔力が尽きたの?」
向こう側の生徒たちも動揺を隠せないようだ。
そうだよな。あれ程の魔力の奔流が一瞬にして空に消えたんだから。
「何が起きたかわかんないけど……まだよ!」
アリステラが残った生徒に向かって駆け出した。
先程の攻撃は一度しか使えない。2発目を使うと魔力切れを起こし、戦闘不能になるからだ。
だから今からのあいつは近接戦で地道に戦うしかない。そうなると、次はこいつのサポートだ……全く、鈴芽ちゃんは忙しいぜ!
「鈴芽! 貴方は私の後ろで見てなさい!」
「う、うん! 分かったわ!」
嘘である。
分かったと言いつつ、彼女が戦闘に集中している隙に俺は駆け出し、後方の生徒を1人ずつ処理していく。
ライトニングスパロウ――レイピアの切先で生徒の背中を突き、HPを0にする。HPが尽きた生徒は強制的に戦機が解除され、しばらくの間行動不能になる。
力は無くとも、この圧倒的な速度を乗せた突きは、如何なる相手の防御をも貫く最強の矛になる。
だが、この戦い方が通用するのは4巻先までだ……それから先は俺自身が新しく編み出さなければならない……
今はこの戦闘で少しでも感覚を掴む!
そうして俺は、誰の目にも止まらない速度で着実に敵を処理していった。
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