56話 魂の行き着く場所で
「って言ったはいいけど! どうやって倒せばいいんだよぉぉ!!」
俺を丸呑みできそうなほど巨大な蜘蛛【冥王】に追われること数分。
なぜ逃げてるかって?
そりゃこいつ硬いんだよ!
すごく……。ものすご〜く! 硬い!
だけどこのまま逃げてばかりじゃ、いつかは俺の体力が尽きる。
なら、ダメ元で仕掛けてみるとするか!
くるりと身を翻し、足に力を入れ地を蹴った。
するととんでもない速度で【冥王】との距離が詰まる。
本来の持ち主でもないのにライトニングスパローが力を貸してくれる。
俺自身の体で使える日が来るなんて夢にも思わなかったけどな!
「シャアアアアアアアア!!」
「いぃっ!!」
前脚二本が突き刺そうと振り下ろされる。
タイミングを合わせ、咄嗟に横へ飛んで回避する。
光速で疾走する俺に着いてきやがったぞ! こいつ見えてんのかよ!
膝をつきながら冷や汗を拭う。
俺のアイデンティティが通用しない今の状況は非常にまずい。何かアイデアを考えないと……。
【冥王】は臀部の肉の塊を向けてきた。
一時膨張したかと思えば、先端から赤い糸をとんでもない速さで解き放ってきた!
その糸は赤い水の足場を切り裂きながら、切り上げるように一閃する。
咄嗟に構えたレイピアを前に突き出し防御する。
「お、重い!」
体がのけぞるほどの威力に、思わず顔が引き攣った。
レイピアの切っ先で糸が俺の左右に切り裂かれていく。
絶え間なく放出される攻撃に終わりは見えない。
こいつ、俺の防御を崩すつもりか!?
そう考えると相当頭がキレる【エリミネーター】だ。
蜘蛛のくせに生意気な奴……。
ってか蜘蛛の見た目だけど、異界の生物なんだよな。
異界の蜘蛛は頭が良いってかよ。
「ふざけやがってぇ!!」
俺は全力で糸の放出に抗い、レイピアを押して前方を少し切り裂き横に避け、【冥王】に肉薄する。
「まずはご自慢のその目をぶっ潰してやらああ!!」
ライトニングスパローを握る手に力を込める。
腕を大きく振るい【冥王】の眼球一つを斬り裂き、紫色の血液を溢れさせた。
「ギャアアアアア!!」
たまらず咆哮をあげる【冥王】。
だがこれで終わるほど俺はお人好しじゃない!
斬り下ろしたレイピアの柄に空いた手で押し出し、もう一つの眼球を穿つ!
「ギャアアアアア!!!」
【冥王】とか呼ばれるくせに叫び方が女々しくて笑えてくる。
速度を乗せた一撃なら攻撃が届くみたいだな。
刃を抜き、背後に向かって駆け出す。
狙うは胴体。
あんだけでかい図体なんだ。
切り裂けば堪らずくたばってくれるだろうよ!
ドタドタと脚で水面を踏み荒らし、爪で俺を突き刺そうとする。
だが死角に回り込んだ俺をこいつは捉えられていない。
容易に背後に回り込み飛び掛かった。
胴体には無数の人体が密集していて悍ましい。
その全てが女性であったが、一つだけ違うものが見えた。
押しや手の中に顔があった。
女性のものではない。
男だ。
その悲痛な表情を浮かべる顔には見覚えがあった。
「お兄ちゃんじゃないか!」
そこにあったのはお兄ちゃんこと、雪也の顔だ。
何故こんなところに?
お兄ちゃんも死んだってことか?
いや待て……。
現実世界でお兄ちゃんは虚ながらもまだ生きていた。
ババアの話だと【冥王】の血肉を与えられてそうなったって言ってたが、もしかすると違うんじゃないか?
ババアも知らない【冥王】の真の能力。
血肉を取り入れたお兄ちゃんの状態と、ここにある顔。
よくよく見ればここにある女性の顔も、あの実験場のポッドに入っていた人たちだ。
「はは〜ん。見えてきたぞ」
俺のオタク知識がフル回転し、一つの仮説を導き出した。
九条家はこいつの力を取り入れて強化しているつもりなんだろうが、実際は違うのかもしれない。
逆にこいつが取り込んでるんだ。
【冥王】の攻撃、血、肉。
そのどれかを体内に取り入れることで魂を抜き取り、この場所に誘導する。そして蜘蛛の一部になってるんだ。
「そこから先は確証はないけど……お前の正体、蜘蛛でもないんじゃないか?」
俺は胴体にいるお兄ちゃんの顔にレイピアを突き立てる。
これは賭けだ。
もし外れていたらこの場で殺したことになる。
だが、この攻撃で魂体であるお兄ちゃんが解放されたら?
現実のお兄ちゃんは正気を取り戻すんじゃないか?
その予想は正しいか定かではないが、変化は起こった。
切り付けたお兄ちゃんの顔から白いモヤのような煙が空に上がり、消えていった。
オタク知識的に考えれば、解放されたと見て良い演出だと言える。
ニヤリと口角を上げ、俺はやるべき事を見つけた。
【冥王】は振り返り、俺を正面に捉える。
切り付けて破壊したはずの眼球が再生している。
蜘蛛だから表情こそ見えないが、焦りを感じているのか、俺に向かって容赦ない攻撃を浴びせてくる。
降り注ぐ爪の連打。
ステップを踏み、その全てを躱す。
「焦ってんのか? なんだ。お前見た目の割に精神が弱いな〜。もっと見た目通りどっしり構えたほうがいいぞっと!」
降り注ぐ脚の関節を斬り裂き、動きが緩んだ隙に駆け出す。
【冥王】は口からも糸を吐いたが、それを飛び越え、頭を踏みつけ胴体へ回る。
背に乗り俺は一心不乱にレイピアで斬り付けた。
女性達の体を裂き、白い煙が宙に舞う。
絶え間なく上がる煙は湯気のようだ。
【冥王】は俺を背中から払い落とそうと、飛んだり跳ねて暴れ始める。
すると動かなかった女性達の肉体が動き始め、俺の足を絡め取ろうとしてくる。
「遅いんだよ!」
飛び降りながら横腹を切り裂き、そこからも煙が舞う。
心なしか【冥王】の体が縮んでるように見えた。
まだ違和感程度だが、このまま攻撃を続ければ答えは出るだろ。
「へっ。良かったよ。お前が最初に攻略する【エリミネーター】で」
「ギシャアアアア!!!」
口から糸の塊を吐きつけてきた。
これを両断する。
続く【冥王】は跳躍し、俺の頭上から降ってくる。
押しつぶす気か?
前へ疾走し、余裕で回避する。
攻撃手段が乏しすぎる。
これじゃそこらへんの【エリミネーター】と大差ないじゃないか。
そう思えるほど単調。
主と呼ばれるなら魔法や、とんでもパワーがあっても良いはず。
それがないって事は……。
「お前の強さは初見殺しでしかないみたいだな」
俺の考えが正しい事を祈って、前へ進む。
この行動が現実の鈴芽ちゃん達のサポートになればと、ただそれだけを信じて。
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