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5話 衝突。文化の違い。

「失礼しました〜」



 職員室の前でアリステラの用事を待つこと数分。彼女が出てきた。



 待っている間に辺りをうろついてみたが、今は授業中で、見学しようにもつまらないものだった。



 大体見た感じ、ラノベで読んだ想像通りの作りだったな。



 想像通りとは言ったが、現実世界の俺が通っていた学校の100倍は凄かった……



 てか何だよ大浴場って……トレーニングルームって! エステとかもあるんだぜ? もはや学校じゃねぇよ! 関西にある〇〇健康ランドかよ!



 頭の中で某健康ランドのCMソングがリピートされる中、アリステラが手を引いてきた。



「さあ行きましょう! コロッケを買いに!」


「え……ああ。うん。いいわよ。行きましょう」



 やっとこの女から離れることが出来る……そう思い校舎内を歩いていると、人の歓声が響いてきた。



「あら? 何の騒ぎかしら?」



 どこから聞こえてくるのか、アリステラと2人で辺りを見渡し歩くと、【第1演習場】と書かれた扉の向こうから聞こえてくる。



「演習場?」



 アリステラが首を傾げながら教室の札を見た。



「演習場は戦機を使った模擬戦を行う場所だったはずよ」


「あら? どうして貴方がそんな事知ってるの?」


「あ……」



 しまった! つい答えてしまった……これじゃ自分も戦闘学生だとバラしてるもんじゃないか!



「貴方も戦闘学生だったの?」



 もはや隠し通すのは無理だ……“戦機”って単語自体が世に出回ってない……世間では“ウィザード”って呼ばれてる。



 それを俺はウィザードの人間しか知らないワードを使ってしまった。反省だ。



「ええ、そうよ。まだ中学生だけどね? 同じ演習場が私の学校にもあるのよ」


「へ〜。そうなのね。私の国にはこんな部屋なかったから……」



 俺も実は初めてです。ラノベで見たってだけで実物は見たことないです。



「決めた! 少し見学しましょ?」


「うぇっ!? コロッケは!?」


「あとあと! この国の学生の実力を見てみたいし、貴方と親交を深める意味も含めてGOGO!」



 アリステラが強引に俺の手を引いて演習場に入っていく。



 中は設備が整ったボクシングの試合会場みたいなデザイン。奥のパネルには2人の女子生徒の顔写真と、緑のゲージが互いの横に記されている。



 あれはバイタルゲージだ。ゲームで言うところのHPだな。



 真ん中の広めのバトルフィールドでは、パネルに表示された弓と鎌の戦機を展開した2人の女子生徒が戦闘している。



 見た感じ鎌の生徒が優勢だな。まあ1対1だからな。近接武器の方が軍配が上がるだろう。

 これが多数対多数なら弓が有利なんだがな。



「ふ〜ん。この国の生徒は大した事ないのね」



 おっと……となりの転校生アリステラ、なんて威勢のいいことか。だがこいつの実力はこの2人より遥かに上だ。



 確かドラグニカでは負けなしだったんだよな。で、力試しの為に日本のこの学校に転校してきて、主人公であるお兄ちゃんと対戦して負けて興味を抱くんだ。そうだそうだ。



 なら、このまま明日を迎えたら正妻フラグが立っちゃう? まずいぞ。介入するなら今なのか?



「ちょっと貴方。大した事ないって何よ!」



 そんな事を考えていると、周りにいた生徒がアリステラに対して不満げに言った。



 それもそうだ。見ず知らずの生徒が上から目線で「大した事ない」と言ったんだ。

 

 

 今まで一緒に研鑽を積み、少なからず【エリミネーター】と共に戦い死線を潜り抜けた友を侮辱されたら、誰でも怒るだろう。



 そんなおっかない女子生徒に俺はビックリして、咄嗟にアリステラの影に隠れる。



 アリステラはそんな怯える俺の頭を撫でて前に立った。



 トゥンク……やだ……かっこいい……

 


「なに? 正直に思ったことを言っただけだけど悪いの?」


「悪いって……貴方ね? 私達だってこれまで沢山訓練してきて【エリミネーター】を何体も討伐してきたのよ? 本気の私達を知らないくせに……上からそんな事言われて、“ええそうね”って納得できるわけないでしょ!!」



 ごもっとも……惚れかけたけど喧嘩をふっかけたのはアリステラだ。ここは大人しく謝った方がいいだろう。外国人のアリステラに頭を下げる文化はないから……それとなく伝えるか。



 そうアリステラの袖をクイッと引いて――



「お姉ちゃん……怖いから喧嘩はやめよ?」



 鈴芽風に変換された言葉をアリステラに伝えるが、残念ながら意味を履き違えたらしく。



「いたいけな少女を怯えさせるなんて貴方! それでもウィザードなの?」



 怯えた俺の様子を見て女子生徒に激怒した。

 くぅぅぅ……この謎変換だけ妙に扱いづらい! 早く慣れないと、今後同じ事を起こしてしまうぞ。



「は? その子供が何だってのよ? こんな場違いな場所に連れてくる時点で貴方イカれてるんじゃない? 一般人はここに立ち入る事が禁止されてるのよ? わーかーるー?」


「言わせておけば……私の事のみならずこの子の事も侮辱して! 許さないんだから! 勝負よ! 私と貴方達全員を相手してあげる! 格の違いを思い知らせてやるわ!」


 おいおい……全員って……ここから見えるだけでも2クラス分、約80人ぐらい入るぞ? それを全員って……いくら強いとはいえ大丈夫か?


「言ったわね? 聞いたみんな? こいつが私達全員と戦いたいってさ!」



 女子生徒が周りに叫ぶと、皆が怒ったように頷き声を上げた。怒りは波紋のように広がり、演習場全体から怒号がアリステラに浴びせかけられる。



 自業自得とはいえ少し可哀想だ。正直に思った事を呟いてしまう文化で育ったアリステラに対して、いきなりこの仕打ちなんだからな。



 確かこの癖を治すのは2巻の初め辺りだったはず……今の時系列は1巻の始まる前だから――まだかなり後だな。

 文化の違いってやつはこういうすれ違いを生みやすいもんだ……



 前世の俺が働いてた職場でも良くあったよ。外国人労働者と日本人労働者の文化の違いでの衝突は。



 こういうのは話し合って時間をかけてわかり合っていくものだ……言われてすぐに治るものでもないし、“治す”という感覚自体が間違ってる。



「はぁ……お姉ちゃん。私も参加していい?」


「は? 貴方まだ中学生なんでしょ? 危険すぎるわ! それにこの程度の相手、私だけで――」


「お姉ちゃん!! お姉ちゃんは流石に私達、日本人を舐めすぎよ!1人であの人達を全員相手してタダで済むはずがないじゃない!」



 流石に1対多数はどれだけ強くても不利だ。仮に勝ったとしても、待っているのは過酷な学校生活だろう。



 女子校は怖いんだぞ? 上手く立ち回らないといじめに苦しむことになるんだからな!



 棗の女子校で生き抜くテクニックを聞いてて助かったぜ……

 こういう場合は上手いこと落とし所を見つけて、自分の過ちを認める事……つまり、日本人が弱くない姿をアリステラに認めさせて謝罪させる事だ。



 俺がアリステラの仲間になる名目で戦闘に参加して、相手のサポートをする……これが1番だろう。



 にしても転生後初の実戦か……やれるか? 戦い自体初めての30代おっさんの俺に?



 そんな一抹の不安を胸に、俺達はここより広いグラウンド――第一演習場へ向かう事となった。

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