48話 深夜だよ。部隊全員集合
全力で街を駆け抜けること数分。
ゲートから少し離れた雑木林の中、木々を避けながら速度を落としていく。少し開けた場所でタスクフォース0の隊員達が装備を整えている様子が見えてきた。
「あっ。来たよ隊長!」
「良かった〜。どうやら無事ここまで辿り着けたみたいね〜」
緑の迷彩服を着込んだ来栖さんと丹色さんが私に向かって手を振った。
八重さんも柳先生も、にこっと微笑んだりほっと息を吐いている。
私はそんな彼女達の前で足を止めた。
「お待たせしました! みなさんも無事で何よりです」
「ほんとほんと! まさかこんな夜中に攻撃してくるなんてさ。同じ脅威に立ち向かう仲間だってのにあいつら頭おかしいんじゃない?」
丹色さんが頭の後ろで手を組んで文句を呟いた。
我が家族ながら激しく同意だ。
自衛隊を襲撃するなんて頭がイカれてるとしか思えない。
そんな文句をブーブーと垂れる丹色さんに装備を整え終えた八重さんが彼女に詰め寄った。
「やめなさい丹色! 鈴芽さんの前でそんなこと言わないの!」
「いいんですよ! 八重さん。丹色さんの言ってることは本当のことですし。正直私も頭が狂ってるとしか思えないし……」
詰め寄って丹色さんを叱りつける八重さんを、まあまあと宥める。「でも……」と八重さんは口笛を吹く丹色さんを睨みつけている。
八重さんは優しい。一見クールな見た目だが、同じ九条家の私を思って怒ってくれたんだろう。
でも九条家は家族であってもう家族じゃない。
私にとっての家族はお兄ちゃんただ一人だけ。
「ほんとうに大丈夫ですから」
「鈴芽ちゃんもこう言ってるんだしいいじゃん。 ヒガミも正直になりなよ〜。本当はマジキチ老害集団って思ってるんでしょ〜?」
「思ってない!! っていえば嘘ね。確かにほんの少しはそう思ってる……。ごめんなさい」
八重さんは怒鳴ったかと思えば、もじもじと小さく呟いた。
「いいんですよ。あはは」
まあ正直そう思ってくれてる方がありがたい。遠慮されると気まずいだけだったから。
「はいは〜い。お喋りはそこまでにしてね〜? 襲撃を受けて30分。九条家は敵と断定して行動しなきゃいけないから。早く準備してね〜?」
来栖さんがリュックサックを背負いながら会話を遮った。そんな来栖さんは綺麗に折り畳まれた緑の迷彩服を私に渡してくる。
「はいこれ。鈴芽さんのよ〜」
「これは?」
「迷彩服よ〜。私たちとお揃いのね〜。その格好じゃ戦いづらいでしょ〜? この服は通気性、耐久性に優れた代物だから着替えちゃって〜」
そういうことなら。と受け取りこの場で手早く着替える。驚いたことに私の迷彩服の下はスカートだった。
「おどろいた〜? 鈴芽ちゃんはズボンタイプの服だと全力を出すのが難しそうだから着慣れてるスカートで申請してみたの〜」
「は、はあ。ありがとうございます」
私の戦闘スタイルを鑑みての用意ってことなんだろう。
ズボンでも戦えないことはないけど、来栖さんのいう通り長く着て戦った経験のあるスカートの方が動きやすいからこれはありがたい。
着替え終え体を軽く動かしてみると動きやすかった。
流石国が用意したウィザード用迷彩服と言える。
チラリと見た柳先生も準備は終えたようだが荷物が少ない。
「先生は荷物持ち出せなかったんですか?」
「いえ。私は斥候ですので物資は必要最低限にとどめてるだけですよ」
「あっ。なるほど……」
斥候って単独で情報を探る役目なんだよね?
それってかなり危険なんじゃないの?
『確かに危険だね。隠密行動、その場の判断力、単独でも戦える戦闘力に生存能力。すべてが備わってないと任せられない役目だね』
大樹が真面目にそう言った。
『てかあんた詳しくない? 本の世界じゃただのサラリーマンだったはずじゃ……』
『ふふん! 隠密と言えば、伝説の傭兵のゲームを全シリーズやり込んだからね! 隠密とかそういうのには多少詳しいんだ!』
て。ゲームじゃない……。
瞬間頭におじさんがダンボールを被るイメージが浮かんでくる。
大樹が想像してるイメージが共有されてるんだろうけど……。ダンボールと傭兵? 隠密?
だめだ。私にはこいつ退いてることが理解できない。
そんな私をふふっと不敵に笑い返す柳先生。
「心配しないで結構ですよ。慣れていますので。ましてや今回の敵はたかが一家と知能が低い【エリミネーター】です。他国に潜入する時よりは遥かに楽ですよ」
「他国に潜入って……。そんな冗談を……」
「ふふふ」
頬に手を当て意味深に笑う柳先生。
冗談よね? 何その笑顔。 もしかしてやったことあるの!?
「みんな仲が良いのは結構だけど、そろそろ動かないと本格的にまずいわよ〜」
「はっ! 失礼しました隊長!」
来栖の静かな怒りに柳先生は敬礼で答えた。
「じゃあ。早速だけど。柳さん、あなたは先行してアビス内、次元の裂け目に私たちとは別のルートで向かってください。何か異常があれば連絡を。周波数は事前に知らせた番号でお願いします」
「はっ! では行ってまいります」
敬礼後、柳先生はサッと飛んでこの場から去った。
まるで忍者のような消え方に鮮やかだと思った。
「さて私たちは正規のルートで次元の裂け目に向かいましょうね〜。くれぐれも虫に突かれないように気をつけてね……」
「「「はっ! 了解しました一条隊長!」」」
来栖さん以外の三人は敬礼し、荷物を手に歩み出した。
本来は正面ゲートを通過する必要があるが今回私達が侵入するルートは……。
『ここを登るのか〜』
大樹がうわぁ……。と呟く通り、目の前に高く聳える壁を登攀するルートだ。
元々妨害工作を警戒していた為の過酷なルート。
正面は確実と言っていいレベルで罠が仕掛けられてる可能性が高いということだろう。
「それではみなさん〜? 壁登りの時間ですよ〜」
戦闘を歩く来栖さんがピッケルで壁を突き刺しながら登り始める。背中にはリュックサックと戦機の棒。
後ろの八重さんと丹色さんは戦機を解放していない。
見たことはないが、おそらく重量か、大きさの問題だろう。
となるとここで襲撃を受けた場合、戦闘するのは来栖さんと私ってことかな。
『だったら俺たちは最後尾だね』
『そうね。なら先に行ってもらおう』
「私が最後についていきますので二人は先に行ってください」
八重さんと丹色さんは互いに顔を向き合って再度私の顔を見た。そして丹色さんがニッコリと笑顔で私の頭に手を置いた。
「へ〜。よく分かってんじゃん鈴芽ちゃん。戦機を解放した君が最後尾に着く判断は正しいよ」
でも。と八重さんが続ける。
「鈴芽さんはまだ学生の身だからそんな事考えなくていいのよ? 大丈夫私たちはプロだから。最後尾は私が着くわ」
そう言って二人は私を先に登らせようと促した。
そこまで言われたら引き下がらないと迷惑よね。
そう考え私はピッケルで壁を突き刺しながら登攀を開始した。
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