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47話 クソ女、養殖ドラゴン

「お兄ちゃん……。どこに行っちゃったのよ……」



 基地から帰宅して以来、お兄ちゃんが家に戻ってくることはなかった。

 学校行事か何かで外泊してるものだと当初は考えていたが、翌日アルケミーに登校した際、先生方に話を聞くとそんな行事は存在しないと言われた。



 そして居なくなったのはお兄ちゃん以外にもう一人。

 アリステラだった。



 彼女は2日前に荷物を纏めて今日、私たちの家に泊まりにくるはずだった。

 にも関わらず学校が始まっても登校してこないことに、不安を募らせた。


 

 また九条家の妨害か何かを受けたのか?

 そう思わずには居られなかった。



 放課後、柳先生に二人について話を聞くも何も把握していないが、調べておくと言われた。

 まあ、昨日は私と一緒に居たから知らなくて当たり前なんだけどね。


 

 その日は不安を抱えたまま、夜を迎えた。



 『大丈夫だって。なんせ主人公なんだよ? 無事に決まってるよ! アリステラも外国の貴族様なんだぜ? そう簡単に九条家が手を出すはずないだろ?』


「それは……。そうだけど……」



 広い居間に一人。私は魂の中の大樹と話していた。

 こいつの言ってることは正しい。

 共有してる記憶の一部がそう思わせてくる。


 

 だけど、やっぱり大好きなお兄ちゃんと、初めて出来た友達が行方知らずのこの状況はどうしても不安に感じてしまう。



 もしお婆様が二人を人質に取っていたら?

 そう思うと、とても安心していられなかった。



 『鈴芽ちゃんの心配する気持ちもわかるけど、今考え込んでも仕方ないよ。先生達も探してくれるって言ってたろ?』


「うん……」


 『ならここは先生達に任せて、俺たちは明日の作戦に集中しよう。これが終われば九条家からの嫌がらせもなくなるはず。そうなればあのババア達にお兄ちゃん達の行方を聞き出すことだって出来るはず!』



 果たしてそううまくいくかな?

 そう思ってしまうほど私の心はすり減っているらしい。

 だけど確かに、ここで考えても状況は好転しない。



「一つ一つ向き合っていくしかないわよね」


 『そう言うこと! 早く休もう! 明日早いんだからさ!』


「そうね。でもその前に作戦をもう一回見直そうかな?」


 『え〜。また〜? 早く寝ないと遅れるよ? 鈴芽ちゃん夜更かしすると朝なかなか起きないんだからさ〜』


「う、うっさいわね! 分かってるわよ! しょうがないじゃない。私はしっかり8時間は寝ないと頭がスッキリしないタチなんだから!」


 

 頬を膨らましながら自室に向かおうとすると、スマホに着信が入った。

 そこには非通知と表示されている。



 いつもなら詐欺の類かイタズラと無視するところだったが、この時は何故か胸騒ぎがして、着信に出ることにした。



「もしもし……」


 『よかった! 繋がった! もしもし! これ鈴芽ちゃんの番号で合ってるよね!?』



 電話の向こうから聞こえた声は昨日会った活発な二ノ宮丹色の声だった。

 声音からして慌てているのか、楽観的な彼女からは余裕が感じられない。



「その声、丹色さん? どうしたんですか?」


 『どうもこうもないよ! そっちは無事? なんともない?』


「無事ですけど……」



 その時、電話越しにドカンと爆発音が響いた。

 それに凄い叫び声が聞こえてくる。

 第一種戦闘配備とかなんとか……。



「今の音……。なにかあったんですか!?」


 『まあね。正体不明のウィザードが基地を襲撃してきてとんでもない騒ぎだよ。まったく。良い子は寝る時間だってのに常識のなってない奴がいたもんだよね』



 襲撃を受けているというのになんて余裕なんだろ。

 でも良かった。冗談を言えるぐらいには無事なようで安心した。


 

 私に電話をかけてくるって事は、こっちに襲撃が来る可能性があるかもってことよね? となると……。



「私に連絡してきたってことは九条家が関わってる可能性が高いんですね?」


『ご明察! 隊長がそう判断して君に連絡するように命令されてね? あ。安心して? ヒガミも隊長も無事だから! あんな俗ぐらいなら僕らの敵じゃないんだよね!』



 そう聞いてほっと息をついた。

 電話越しの丹色さんは冗談混じりの話し方から一転し――。


 

「そんな隊長から鈴芽ちゃんに命令だよ。翌日の作戦決行を繰り上げで今から開始する。至急目的地まで移動し合流するように。以上だよ! じゃあ生きてまた会おうね。ばいばい!」


「あっ! ちょっと!――切れちゃった」

 

 

 一方的に命令を伝えてきたと思えば電話を切られた。

 丹色さんも襲撃地から急いで移動するつもりなんだろう。



 『急ごう鈴芽ちゃん! あっちが襲撃を受けたならこっちにも来る可能性が高い!』


「違いないわね! なら荷物を持って早く――」


「行かせないわよ?」



 バリンッと居間の窓を蹴破って侵入してきたのは、忘れるはずのないロングヘアーの女性。九条火凛だ。

 彼女は漆黒に赤のラインが入った軍服に帽子まで被っている。九条家特有の戦闘服だ。



 屋敷にいる時、親戚のウィザードがあの服を着てたのを覚えてる。いわば本気の姿だ。

 


「姉様が来たって事は、作戦は筒抜けだったってことね」


「そういうことよ。貴方を殺すってのも目的の一つだけど。次元の裂け目に行かせるわけにはいかないのよ。だから貴方はここで殺すわ」



 火凛は戦機の刀を抜いた。

 ここはマンションであり、他にも住人がいるというのに武器を抜いた。つまり周りの被害のことなど考えていないという事だ。



 『逃げるよ! 鈴芽ちゃん!』


「分かってるわよ!!」



 大樹に言われるまでもなく部屋を駆け出した。



「逃すと思うッ?」


 『鈴芽ちゃん後ろだ!!』



 火凛が抜刀し、部屋を両断した。炎を纏った斬撃が家具や壁を焼き斬る。その斬撃を屈んで回避し必死に玄関へ向かう。



「外した! 運のいい奴!」


 

 舌打ちし、刀を鞘に納める火凛。



 ほんとに攻撃してきた!?

 階段を悠長に降りてたら確実に追いつかれる!

 そうなったらマンションに住んでる人に被害が出ちゃう!

 

   

 靴を雑に履き、玄関を出た私は目の前の塀を登って空に飛び込んだ。



 『戦機を出すんだ!』


「言われなくても! 戦機解放!」



 落下しながら手を伸ばす。歯車型魔法陣が目の前に展開され、そこから戦機ライトニングスパローを引き抜く。すると魔力が体を満たしていくのを感じる。



 これで落下の衝撃から身を守ってくれるはず……。あとは――。



「紅蓮炎斬!」



 やっぱりついてくるわよね!?



 火凛が刀の居合で紅色に染まった斬撃を横に薙ぐように飛ばした。私は上空に体を振り返らせ炎の斬撃を打ち払う。

 


 大樹からパリィポイントの話を聞いてなかったら今ので死んでたわね!

 戦機での遠距離、範囲攻撃には魔力の薄い箇所。パリィポイントがある。今のは、それを見切って弾き返しただけだ。



 『見切る事ができたのも、ライトニングスパローのおかげだけどね!』



 視覚が強化され相手の動きがゆっくり見えるからこその芸当だ。定速ならまず見切れない。これは私だけが出来る技術。



「弾いたですって!? 貴方のどこにそんな技術が!」



 火凛は私に攻撃を弾かれたことに驚いているみたいだ。

 そうよね? 普通なら見切ることもできない速度の斬撃なんだもの!



「やられてばっかでたまるもんか!」



 お返しにレイピアを一閃。腕の速度を限界まで上げた真空波を見舞った。


 

 走るだけでエアバーストを起こせるなら全力で武器を振るえば何かが出るはず! そう思っただけに正解だった!



「小賢しい真似を!」



 それでも容易く打ち払う火凛。

 まあこれで倒せたら苦労しないんだけどね!



 地上に着地すると同時にくるりと受け身を取り、地を蹴り一気に駆け出した!


 

 だけどもうお終い! 足が付けばもうこっちのもんよ!

 戦う必要なんてないんだし! こうなったら誰も私の速度についてこられないんだからね!


  

「あんたの対策ぐらい考えてるに決まってるでしょ!」



 着地した火凛がパチンと指を鳴らす。すると目の前の歩道が炎で包まれた。燃え盛る炎に行く手を遮られてしまい、足を止めてしまう。



「これじゃ前に進めない!」


「私から逃げようって考えても無駄よ。この街の全てに罠を仕掛けたから。もし貴方が逃げようものならこの街は炎の海になっちゃうわねぇ」


「姉様……」



 追いついた火凛がニタリと笑い切先を向けてきた。

 パチパチと音を立てて、辺りの木々が燃えて火の手が広がっていく。


 

 私を殺すのに、ここまでやるなんて信じられない!



「なにその目? もしかして怒ったの? 街に火を放つ私が悪魔のように見える?」


「私を殺すのが目的なんでしょ! 街に手を出すなんていくらなんでもやり過ぎよ!」


「そうね。私もそう思うわ。でも言ったでしょう? これは貴方を殺すだけじゃなく次元の裂け目に行かせるわけにはいかないって!」



 火凛が肉薄。刀を抜き、斬り込んできた。私は咄嗟にレイピアの刀身で防いだ!



 なんて力!? これが火凛姉様の本気なの!?


 

 火凛が刀を押し付けてくる力の強さに、膝をついてしまう。



「ぐっ……。うぅ!」


「抵抗したって無駄よ! 貴方はアビスに行くこともできない! ここで死ぬ! 貴方みたいな要らない子はなんの生産性もないんだからさっさと死んで九条家の邪魔をしないでちょうだい!」



 押し付けてくる力が増していく。このままじゃ確実にここで死んでしまう。



 『なんとかしないと! 隙を作るんだ!』



 大樹も焦りを滲ませた声を響かせてきた。

 言われるまでもなく押し返そうと抗ってみてはいるが、彼女の力に遠く及ばない!

 


「無理……。無理言わないでよ! この馬鹿!!」


「さっきからなに一人で喋ってんのよ! 人と触れ合う機会がないからとうとう想像の中で友達でも作っちゃったってわけ? 哀れねぇ!!」


「ぐう……。もう。だめ……」


「消えなさい! このゴミクズ!」



 火凛の刀の炎が勢いを増した。肌をジリジリと焼く熱に息苦しさを感じる。

 彼女の力の前では私の力はあまりに無力だと思わされた……。その時――。



「ドラグナートッ!! ドラゴンブレス!!」


「なに!?」



 空から光が火凛に降り注いだ。

 彼女は咄嗟に私から離れて回避し、空に顔を向ける。



「あんた何様よ! 私の友達に好き放題言ってくれちゃって……。ふざけんじゃないわよ!」


「ア、アリス!?」



 空には竜のような炎の翼を展開し、大剣を手に持つ少女。アリステラが居た。



「大丈夫? 怪我はない?」

 


 彼女は私の姿を見るなり地上に降り立ち、私の体を見てくる。

 


「ないけど……。ってアリス今までどこに行ってたのよ! 学校に来ないから心配したじゃないのよ!」


「あ〜。なんて言ったらいいのやら……。ちょっと雪也と野暮用でね?」


「お兄ちゃんと? お兄ちゃんもいるの!? どこ!?」



 詰め寄るとアリステラは顔を逸らして引き攣った笑顔で答えた。



「えっと。鈴の……。実家……」


「実家……。ってまさか!?」


「うん。殴り込みに行って失敗しちゃった♩」


「なにしてんのよぉ!!!」



 可愛らしく舌を出してコツンと頭を叩くアリステラ。

 どうやら二人は私が自衛隊の基地に行ってる間に、九条家に行ってたらしい。


 

 てか、あんな化け物集団相手に二人で勝てるわけないでしょ!? お兄ちゃんもアリスも馬鹿なの!?

 


「失敗って! お兄ちゃんは? 無事なの!?」


「それが、無事ではあると思うんだけど。捕まってしまって……」


「はぁぁ!?」


「ごめん! どうしても鈴に嫌がらせするあいつらを許せなかったのよ! 雪也も同じ考えだったからさっさと殴り込んで反省させてやろうと思ったけど、強すぎたわ。二人じゃ無理だった。だから鈴と助けに行こうと思って帰って来たんだけど……」


「こんな状況になってたってわけね」


「そういうこと〜」



 軽く言ってるけど、今ので状況はさらに悪化したわね。



 『大樹。どう思う?』


 『今のアリステラの話通りなら最悪な状況だ。作戦はバレた上にお兄ちゃんは人質に取られたと見て良いだろうね。殺しはしないと考えたいとこだけど、一度男のウィザードが生まれたんだ。お兄ちゃんを殺して、もう一度、男ウィザードを産もうとする可能性もある。何度も何度もね』



 聞いておいてなんだけど気持ち悪い。

 家族内でお兄ちゃんと同じ男のウィザードが生まれるまで子作りし続ける実家って……。聞いてて良い気分しないわ。



 『でもやりそうでしょ?』


 『そう思うから余計にタチが悪いのよ』



 本気でやりそうな家だから笑えない。

 それに頭を抱える事態だけど、ここで止まっていても仕方がない。



「アリス。ここは協力して姉様を倒すわよ?」



 立ち上がりレイピアを構える。

 二対一なら勝機はあるはず。


 

「いや。ここは私一人でやるわ」


「アリス?」



 私の前にアリステラが立った。

 その姿に私は武器を下ろした。

 

 

「実は鈴の実家で聞いちゃったのよね。鈴たちがアビス攻略しようとしてるってね。それを妨害しようとしてるってことは、あいつらアビスを攻略されたら困るってことよね? だったら鈴は予定通り先に行って」


「でも姉様が相手じゃ流石にアリスじゃ!」


「舐めないでよね!」



 ガンッと道路に大剣を突き刺したアリステラ。



「私があんな性悪女に負けるわけないでしょ? それに今私は怒ってるの……。大事な友達を要らない子だとか生産性がないだとか、馬鹿みたいなこと言ってるあの女をぶっ飛ばしたくてしょうがないのよ!」


「あら。言ってくれるじゃない。養殖ドラゴンさん」



 火凛がニヤニヤと笑いながらアリステラを見下した。



「ならやってみるといいわ? 万が一にも貴方が私を倒すことなんて無理でしょうけどね」


「良い気になっちゃって。ほんとムカつく女ね。鈴……。行って」


「でも……」


 『鈴芽ちゃん。ここはアリステラに任せて先を行こう』



 なんてことを言い出すのか、大樹がそう言ってきた。

 

 

 『ちょっと! あんた友達を見捨てる気? 見損なったわよ!』


 『違う! ここに居たら邪魔になるから行ったほうがいいって言ってるんだよ!』


 『どういうこと?』


 『ここに居たらアリステラは本気を出せないってことだよ! 俺たちが見たアリスの実力はまだ本気じゃない! 彼女の本気はもっともっと強いんだからね!』



 その言葉を聞いてアリステラを見る。

 そこには怒りで火凛を睨む彼女から、目に見えるほど真っ赤な魔力が漂っていた。



 普通じゃない魔力濃度に思わず息を呑む。

 ゾワリと肌をよぎる悪寒はアリステラの魔力から受ける影響だろう。



 なら今まで見て来たアリスの実力はほんの一部だってことなのね。


 

「分かった。じゃあアリス。ここは任せるわね? 全部終わったらまたコロッケ作ってあげるから! それも特大のやつをね〜!」


「やった! 任せて!」



 立ち上がり私はゲートに向かって走り出す。そんな私を見た火凛は……。



「逃さないって言ってるでしょ! ゴミクズ!」



 刀を振るい斬撃を飛ばした。炎の一閃は私に迫ったが、アリステラが間に入り大剣で弾いた。



「こんなの。私の大火の前じゃ火の粉同然ね」


「言ってくれるじゃない……。養殖ドラゴン!」


「さっさと来なさい。格の違いを見せてあげる」



 アリステラが手をクイっと動かし挑発する。

 それに対して火凛はピキっと眉間に血管を浮き出した。


 

「クソ女ぁ!!」


「それはあんたでしょ!!」



 互いの武器が交錯する。

 そんな二人を背に私は目的の場所であるゲートに向かって全力で走った。

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