43話 タスクフォース0
翌日の朝。
俺と鈴芽ちゃんの二人は早くに目覚め、キッチンで弁当の準備をしていた。
いつも通りお兄ちゃんと自分の分を用意しているのだが、今回は俺たち鈴芽ちゃん分の量は多めに用意している。
「おはよう、鈴。ん? 今日はやけに多いな?」
起きてきたお兄ちゃんが目を擦りながら、テーブルに置かれた弁当箱に目をやる。
お兄ちゃんの分は四角い普通の弁当箱に対して、自分のは水筒の容器のような大きな弁当箱だ。
「そ、そうなの。ちょっと今日は特別強化実習生だけで受ける研修みたいなのがあって、昨日、柳先生に声を掛けられたのよね〜」
今答えたのは鈴芽の人格だ。
俺は弁当を作ることが出来ないからな。作ろうと思えばできるはずだが、本家大元の鈴芽ちゃんには遠く及ばないだろう。
そんな鈴芽ちゃんはフライパンとお玉を手に、苦笑いを浮かべていた。
「そうか。気を付けろよ? また婆さん達の嫌がらせを受けるかもしれないんだからな」
「大丈夫よ。今回は柳先生も一緒なんだもん。さすがに先生の側で何かすることはないでしょ。先生は現役ウィザードだし。もし襲ってきたら悪名が広がるだけでしょ?」
「だとしても! 警戒はするんだぞ」
お兄ちゃんが私の顔を覗き込むように強く忠告してきた。
心配してくれるのはありがたいけど、少し離れて欲しいな。そんなに顔を近づけられたら……。
「どうした、鈴? 顔、真っ赤だぞ?」
「ひゃっ! き、気にしないで! ちょっとキッチンの熱に当てられただけだから! ほらお兄ちゃんはあっち行って顔洗ってきて!」
「お、おい! 押すなって!」
私はこの顔の赤さを隠すように、お兄ちゃんを押してキッチンから追い払った。
部屋から追い出されて諦めたお兄ちゃんが洗面台に向かうのを見送って、キッチンに戻る。
準備できた弁当箱を前に、私は指を差しながら確認する。忘れ物があったら大変だもの。
お兄ちゃんには研修って言ったけど、本当は柳先生の所属する部隊――タスクフォース0に、2日後にある作戦の話を聞きに行くのが目的。
昨日先生に言われた通り、昼食を多めに用意した。
忘れ物は――ないよね?
『そうだね。水筒も多めに用意したし、着替えは――向こうで用意するって言ってたから、もう無いんじゃないかな?』
こういう時の大樹は役に立つ。もし一人だと確実に忘れ物をしてたかもだしね。
てか私、だんだんこいつがいる生活に慣れ始めてない?
最初はお風呂とかトイレに行くのも気が引けたけど、興奮する様子もないし、着替えをいやらしく代わりにやることもない。
魂体になったら性別の概念がなくなるのかな? 私そういうオカルティックなことは専門外だからよくわかんないけど。
そんなことを考えていると、時刻は6時半を回っていた。
「いけない。そろそろ出なきゃ」
今日は学校に行くんじゃない。自衛隊の桜場支部に出向しなければならないのだ。
ここから少し離れている上に坂道も多い場所にあるから、早めに出ていたほうがいい。
それに私の為の攻略作戦なんだもん。到着がギリギリになったら申し訳ないしね。
「おにいちゃーん! 私もう出るね〜」
「ほーい」
キッチンから廊下に顔を出して叫ぶと、遠くからお兄ちゃんの情けない返事が聞こえた。
お兄ちゃんの精神面も問題なさそうで良かった。
【アビス】での話を聞いて、もしかしたらお兄ちゃん、屋敷に殴り込みを仕掛けるかもって思ったけど、そんなことしなさそうだ。
「じゃあ行ってきます。ちゃんと鍵閉めてね? お兄ちゃん」
そう言い残して、私は制服姿で家を出た。
目指すは自衛隊桜場支部。
二日後の作戦に向けてがんばるぞ!
――――――――――――――――――――――
家から歩いて1時間半。人通りの少ない道を、自衛隊の装甲車が車道を走り私を追い抜く中。
坂道を上り切って目に入ったのは、緑の木々が立ち並ぶ、鉄と油、硝煙の匂いが漂う鉄の建物だ。
その建物の周りには侵入者を阻む有刺鉄線のフェンスが張られていて、自衛隊員が基地周辺を二人一組で巡回している。
そんな基地の正面。【桜場基地】と立て看板がある門を抜けて、私は入っていった。
門には警備員がいたが、私の顔を見るなりすんなり通してくれた。多分、柳先生が話を通してくれていたんだろうね。
基地に入り周りをキョロキョロ見渡すが、受付のような場所はなく、ただ隊員が忙しそうに走り回っているだけだった。
「あの!」
「ん? なにかな?」
忙しそうに走っている隊員に声を掛けた。
なんだか申し訳ない気がするけど、どこに向かえばいいか知るためには仕方ない。
「柳先生はどこにいるか分かりますか? 私、今日ここに呼ばれた九条鈴芽というものなんですけど」
「九条鈴芽……。柳先生……。それにその制服……」
隊員はジロジロと私の姿を見て、ハッと思い出したかのように手を叩いた。
「ああ! 君が0の新人メンバーか! 話は聞いてるよ。ここの建物の2階。階段を上がって右に曲がった突き当たりの部屋に行くといいよ。まあ、階段を上がればすぐにわかると思うから!」
「あ、ありがとうございます! 失礼します!」
ぺこりと頭を下げると、隊員は笑って手を振りながら走り去っていった。
『2階に上がって右の突き当たりだな』
『すぐに分かるって言ってたけど……。何かあるのかな? それに新人って……』
『俺達のことだよね……。一回だけ作戦に参加するだけとはいえ、新人は新人か』
私たちは言われた通りの道を辿って2階へ上がった。上がってすぐに「すぐ分かる」と言われた意味がわかった。
なぜなら、階段を上がってすぐ目に入ったのは、壁に【ウェルカム小鳥ちゃん】と手書きで書かれた垂れ幕と、筆か何かで直接壁に書きなぐられた矢印が道を指し示していたからだ。
『小鳥って……。俺達のことか。鈴芽、雀、小鳥ってか?』
『やめて。小学校の頃そのあだ名で馬鹿にされたことがあるから、その呼び方はあんまり好きじゃないの』
『じゃあ、これを書いた隊員に文句を言っておかないとな』
果たして言えるかな? 歓迎してくれてるのは間違いないんだろうけど、特殊部隊の一員でしょ? しかもウィザードの……。もし怖い人だったら、そんな文句言えないわよ?
ため息を吐きながら廊下を進むと、目的の場所にはすぐに辿り着くことができた。
『ココだよ!』と書かれた扉は、折り紙で彩られたアーチや飾り物で、可愛らしいのが逆に不気味さを醸し出している。
その扉にノックを3回行うと、「来たわよ〜?」とおっとりとした女性の声が微かに聞こえてきた。
同時にバタバタと数人の動く音が聞こえ、「ど〜ぞ〜」と返事が返された。私は扉に手を掛け、ゆっくりと開く。
すると――。
「いらっしゃい! 新人の小鳥ちゃ〜ん!」
「「いらっしゃーい!」」
パンパンッとクラッカーを鳴らされ、飛び散ったカラフルな紙吹雪が鈴芽のツインテールに引っかかる。
そんなサプライズパーティーかのように出迎えてくれたのは、黒髪ポニーテールのクールな印象を受ける女性。
桃色の髪で、糸目のおっとりとしたお姉さん系の女性。
茶髪ボブカットの、ニシシと笑っているイタズラが好きそうな女性。
そして学校でお馴染み、呆れて息を吐く柳先生がいた。
「は、はじめまして〜……」
急な歓迎に思わず戸惑うが、鈴芽はそう挨拶をした。
ってかそうするしかないわよ。どう返したらいいか分かんないけど、無視よりはマシでしょ?
「はあ……。皆さんの馬鹿さ加減に、鈴芽さんが困っていますよ?」
呆れた柳が隊員達に目を配りながら言うと、桃色のお姉さんが「え〜」と困ったような顔をしながら私に近づいてきた。
「びっくりしちゃった? ごめんなさいね〜?」
「い、いえ! 歓迎してくれたんですよね? 嬉しいです! ありがとうございます!」
「あらあら〜。すっごく良い子ね〜。柳さん? この子が九条鈴芽さんで間違いないのよね?」
「はい。間違いありません。隊長」
柳先生がピンク髪のお姉さんを隊長と呼んだ。
私は内心驚いた。
だってこの場で一番隊長っぽいの、柳先生なのに。まさかこんな優しそうな人が隊長だっていうの?
「あら〜。私が隊長だって驚いた〜? うふふ。そうよね〜、この中だとやっぱり柳さんが隊長に見えちゃう?」
「い、いえ! そんな事ないです!」
背をビシッと整え、そう答えた。
社交辞令だとしても、ここはそう答える他ない。だって一応、新人なんだもの!
「うふふ。こんなに可愛い子が来てくれて、お姉さん嬉しいわ〜? 初めまして。私、タスクフォース0の部隊長の一条来栖よ? ほら、みんなも。挨拶して〜?」
来栖さんが他の隊員を手招きし、皆が私の前に集まってきた。
「私は八重ヒガミと言います。よろしくね? 小鳥さん」
黒髪ポニーの女性、八重さんが手を伸ばしてきて、私は手を取り握手した。
「次はボクだね? ボクは二ノ宮丹色だよ? よろしく〜」
茶髪ボブの二ノ宮さんとも手を交わし、全員と挨拶をし終えた。最後は私の番ね?
「ご紹介ありがとうございます。私は九条鈴芽と言います。この度はいろいろとご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします!」
「「「よろしく」」」
私の初々しい挨拶に、皆は明るく返してくれた。
思ったより、ここは怖い所じゃないみたい。
そう安心した私は、来栖さんに誘導されるがまま机に案内され、鞄を置いた。
「軽い挨拶も終えた事だし、鈴芽さんの実力が見たいから、早速だけど私と模擬戦をしましょうか〜。報告書であなたの実力は理解してるつもりだけど、やっぱり目に入れておきたいのよね〜?」
「今すぐですか!?」
鞄を置いたばかりの私は素っ頓狂な声で聞き返すと、柳先生がやれやれと私の肩に手を置いて話した。
「そうです。隊長にあなたの実力を見せないと、作戦の立案もなにも進めないのですから。頑張ってください」
「は、はあ……。そういうことなら……」
そう言われると納得するしかない。
来栖はニコニコと笑いながら「こっちよ〜」と私を案内する。
他の隊員も見物するのか、後に続いた。
ハードになるかもとは聞いていたけど、早速とんでもないことになってきたわね……。
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