41話 尋問。先生だってプロですから。
柳先生の後を歩いてどれぐらい経っただろうか。校舎の中をひたすら歩き続ける。
何の意味があるかは分からないが、前を歩く先生は、時折周りを警戒する様子が見える。
何かを警戒してるのか?
『斎藤先生のこともあるし、もしかすると他にもお婆様の送り込んだ人間がいるのかもしれないわよ』
鈴芽ちゃんの言うことが本当なら目の前の柳先生の警戒にも頷ける。
教室から出た時から黙ってついてこいって言ってたことからもしかすると教室の中にも居たのか!?
そう考えると、これは思った以上に厄介だ。
原作でもここまで陰湿なことはしなかったはずなのに……。俺が転生してシナリオを改竄したからか?
だとすると今の状況は全て俺のせいってことなんじゃ……。
『なにしょぼくれちゃってんのよ! この馬鹿!』
『す、鈴芽ちゃん。でも……』
『これはもともと私の問題よ! あんたが見たこの先の未来のことがこの現実でも同じように進むことがないってとっくに証明されたじゃない。だったら過ぎたことをクヨクヨ考えるのはやめてよね』
『過ぎたことか……』
そうだ。もともと俺は鈴芽ちゃんを勝ちヒロインにするために行動してんだ。これしきの妨害でへこたれてどうするよ。
原作だとお兄ちゃんが鈴芽ちゃんを救ったんだ。だったら俺にも出来るはずだろ? 俺にはお兄ちゃんにはない未来の知識があるんだからな!
『元気出たみたいね?』
『鈴芽ちゃんのおかげでね。ありがと』
『ふ、ふん! 同じ体を共有してる以上あんたの落ち込みは私にも反映されるんだからこれぐらい当然よ! これから辛い戦いが待ってるだろうけど、一緒に切り抜けるわよ?』
『そうだね。一緒に頑張るとしますか!』
『大樹! 柳先生が動いた!』
目の前に歩く柳先生が急に方向を変えて女子トイレに入って行った。
俺も出来る限り自然に女子トイレに入る。
中は誰もおらず個室トイレの前を1つずつ通っていると最後の個室前で誰かの腕に引き寄せられ戸を閉められた。
「静かに」
俺の口に手を当てるのは柳先生だ。
頷き言われた通り息を顰めていると誰かの足音がトイレの中に響いた。
キィ……。と1つずつ個室のドアを開けていくのが聞こえる。このままだと最後のこの場所に俺たちがいるのがバレるだろう。
「敵です。良いですか? 貴方はここでじっとしていて下さい。私がやりますので」
小声でそう告げた柳先生は懐からスタンナイフを取り出した。ナイフの形状だが、あれはスタンガンの一種だ。
柳先生はスタンナイフを構えトイレのドアの死角に立ち息を殺している。
キィ……。とすぐ隣の個室が開かれた。次に開かれるのはここだ。
俺の体にも緊張が走り鼓動が早まる。この心臓の音が相手に漏れていないか不安になる程激しく打ち鳴らしている。焦り呼吸が浅くなるのを必死に堪えその時を待つ。
扉の前で足音が止まり扉がゆっくり開く。向こう側の姿が見えた瞬間、俺は息を飲んだ。
「北風……さん……」
バタン!と柳先生は躊躇なく扉を跳ね開け、鳩尾へ一撃を叩き込み、さらに背後へ回り込んで膝裏を踏み、首を締め上げた。
スタンナイフが北風さんの首筋に押し当てられ、あっという間に柳先生が北風さんを制圧してしまった。
「貴方一人ですか?」
「ぐっ……。私が吐くと思ってるの? 先生……」
「でしょうね。では……」
柳先生は北風さんの口にスタンナイフを突っ込み電源に指をかける。その光景は先生と呼ぶにはあまりにも冷徹で徹底された動き。
その動きに俺は見覚えがあった。
「そうか。タスクフォース0か……」
「鈴芽さん。今は黙って下さい。すぐに終わらせますので」
柳が眉をぴくりと動かし俺に言った。
俺は彼女の冷たい眼差しに冷や汗が吹き出しコクコクとと頷き返した。
『タスクフォース0ってなによ?』
鈴芽ちゃんが気になったようだ。
魂内なら聞かれる心配もない。軽く教えておくか。
『原作で正体不明の特殊部隊のメンバーキャラが居たんだよ。名前も性別も明かされなかったけど、アクションシーンだけやけに凝っててさ。今の動きは俺が見た文章まんまの動きだったからすぐに思い当たったよ。柳先生……。彼女がその特殊部隊のキャラだ。』
『そんな人が先生を?』
『そうみたいだ。確かコードネームは……そうそう【ヒル】だ。音もなく近づき相手を制圧することが由来だったはずだ』
俺がその名を告げたと同時、柳先生は北風さんに尋問を開始し始めた。
「貴方が九条家の送り込んだ人間ということは分かっています。どうするつもりだったんですか?」
「だ、誰が言うもんですか……」
そうですか。残念です。因みにこのスタンナイフですが、大概からの接触では命に別状ない程度の威力しか放てませんが、口内のように内側から電撃を放つと心臓に影響が出やすいみたいですよ?
ナイフの電源スイッチに親指をゆっくり押し当てようと動かす。
「ふ、ふん! ハッタリね。そんな威力があるはずがない。やれるもんならやってみなさいよ! 仮に私が死んだらこの後どうなるか知らないはずないでしょ?」
「そうですね。貴方が本当に死なないと思っているのなら。とんだ頭お花畑の少女ですね」
そう言って柳先生はカチッと軽くスイッチを入れ、
「あががががが!!!!」
口内で電流を北風さんに浴びせた。
彼女は痙攣し壊れたラジオのような声をあげ続ける。
その様子は尋問というより拷問に近いと俺は思った。
柳先生はひとしきり電流を流した後、スイッチをオフにしナイフをさらに喉の奥に突っ込む。
「これでも一番弱い設定なのですが。もう少し威力を上げますか?」
「あ、貴方正気!? 私に何かあれば他のメンバーが黙ってないわよ」
「他のメンバー……。ですか」
「ええそうよ! 私よりも強い人たちよ? その人たちにかかれば貴方みたいな、ただの先生はすぐに――」
「それはこの人たちですか?」
柳はナイフを一旦北風さんから離し、ポケットから何枚かの写真を床にばら撒いた。
そこには女性が気を失ったり、血まみれの状態で椅子に縛られている姿が映っていた。
「こ、これ……なによ……」
その写真を見た北風さんから余裕が消え失せ、震える声を絞り出していた。
「これですか? 貴方のお友達でしょう?」
「この人達に何したってのよ! ――んん!!」
柳先生は再びナイフを喉奥に突っ込み、しーっと促した。
「見たまんまですよ。尋問し情報を吐かせました。 私がなぜ貴方の存在に気づけたと思っているのですか?」
「んーんんー」
「それは彼女たちから聞いたからですよ。いろんな話を聞けましたよ? 校内に送り込まれた侵入者の数に配置、緊急時のマニュアルに与えられた使命。などなど……」
俺にはこの柳先生がもう先生と思うことができなくなった。やってることがテロリストのそれだ。
相手を体力的に疲弊させた上で、精神的に揺さぶりをかけ憔悴させるこの手法。これが……。特殊部隊としての彼女の本来の姿なんだな。
「で? どうします? 中には話さない優秀な人も居ましたが、そこの写真に映っている通り何人か死ぬ寸前まで追い込みましたよ? 生還できるかはその人たち次第ですが……。どうです?貴方も同じ道を辿りますか?」
「んーんー!!!」
北風さんは涙を浮かべながらジタバタ暴れ始めた。
柳が本気で殺しにかかろうとして恐怖し始めたのだろう。
はっきり言ってこの人が味方で良かったと俺は心底思うよ。
『私もよ……。まるで映画の世界みたいね』
『ラノベの世界だけどね』
「んーっ、と言われましても何を言ってるかわかりませんよ。では私の話にYESなら声を少し出して下さい。NOなら小さく首を横に振って下さい。嘘だとバレたその時はすぐに貴方を処理しますので」
カチッとスイッチを入れナイフに電流を流し始めた。
その青白く発光する輝きに俺と北風さんは恐怖し、彼女は震え失禁した。
無理もない。九条家が送り込んだ人間とはいえ年齢的にはまだ子供なんだ。
ってか柳先生。子供相手に一歳の容赦しないけど、特殊部隊的にはそれってゆるされるのか?
「では聞きます。貴方は鈴芽さんを殺すつもりだったのですか?」
北風さんは首を振った。どうやら彼女は俺を殺すつもりはなかったらしい。
にしても彼女が九条家の送り込んだ人間だとは意外だった。
昨日はあの死線を一緒に潜り抜けた仲間だと思っていただけにショックだ。
むしろそれを狙っての接触だったのかも知れないけど……。
「貴方は鈴芽さんに何か仕掛けましたか? 例えば発信機とか」
「んー」
YESだと!? 一体いつだ? 発信機を取り付けられた覚えなんて俺にはないぞ!?
『大樹……。まさかみんなと合流した時に飲んだ飲み物の中に仕込まれてたとかじゃ……』
『はっ!』
あり得る……。この世界は元の俺がいた世界よりも少し科学が発展した世界だ。目に見えないサイズの発信機ぐらいあってもおかしくはない。
「どうやら鈴芽さんは心当たりに気付いたようですね」
柳先生が俺の様子を見て北風さんの話が真実だと判断したようだ。
「では最後の質問です。残りのメンバーは後1人ですか?」
「んー!!」
「なるほど。分かりました貴方の言ってることはどうやら真実のようで安心しました」
そう言ってナイフを口から引き出した。
「ならもういいでしょ!? 解放してよ!」
「それはできません。ここで貴方をタダで解放したらもう一人が私たちを攻撃するか、九条家に連絡を入れるのですから」
「ちっ」
北風さんは見た目によらずかなり狡猾な性格のようだ。見た目がスポーツ女子なだけにギャップで気付きにくい。
だが相手が悪かったな。柳先生はその道のプロだ。たとえ生徒であっても容赦なく処理するだろう。
「と言うわけで解放するにあたって貴方に仕掛けさせてもらいますよ?」
「何を――」
柳先生は徐に取り出した小型の機械を北風さんの背中に取り付けポチポチと操作し、彼女を解放した。
北風さんは背中に取り付けられた機械に手を触れながら柳先生に詰め寄る。
「何つけたのよ!?」
「何って爆弾ですが? それがどうかしましたか?」
「どうもこうもないわよ! 爆弾!? なんて物つけてんのよ!」
確かに……。いくらなんでもやりすぎではないだろうか。下っ端にここまで徹底した仕打ち。俺も恐ろしくて小便漏らしちゃいそうだわ。
『やめて。この体は私の体なのよ? あんたが漏らしたら私が恥をかくんだからね?』
『そうでした。すみません』
「北風さん。貴方にはこの後も九条家の指示通りに動いていただきます。ですが、ここであったことを一切口外しないように。その爆弾には音声を私の携帯に送り機能も備えてありますので、そのようなそぶりを見せた瞬間に、貴方を殺します」
「ひっ!?」
柳先生の容赦ない言葉に北風さんは恐怖した様子だ。そんな彼女の精神状態なぞ知らぬと言わんばかりに柳先生はさらに彼女を追い詰める。
「貴方はここを何食わぬ顔で出て、その後もスパイとして今まで通り行動して下さい。分かりましたね?」
「わ、分かった。分かりました。だから殺さないで……」
「私を裏切る真似をしないなら殺さないであげますよ」
本当にそうだろうか? 信用できないほど冷徹な笑顔でそういった柳先生に俺は疑問を抱く。
だがそれをここで言っては俺にも被害が飛んできそうだから言わずに心の中で押し止めた。
「では行ってください」
ドンッと北風さんの背中を押し彼女をトイレから追い出した。
あとは彼女が裏切らないことを祈るだけだ。
「これでようやく話ができますね」
「そ、そうね。それよりまず先生。色々助けてくれてありがとうございます」
「いいんですよ。これも仕事ですから。貴方のことは校長より頼まれているので」
校長ってあの爺さんのことか!
「このような場所ですが、ここで話をしましょう。今なら奴らに悟られずに話ができるはずですので……」
そう言って俺と柳先生は女子トイレの中で、話を行うことになった。
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