4話 メインヒロインが現れた
「私が何?」
まさかまさかのエンカウント!
灼炎色の赤い髪、豊満な胸のメインヒロイン。
アリステラ・バーンズウッドが現れた▼
どうする? どうしよう!? たたかう? にげる? 道具はコロッケを包んでた油まみれの包み紙しかないぞ!
「答えなさい! 私が何? 何で貴方が名前を知ってるの?」
「あ〜……え〜……その〜」
何かないか? この状況を打破する何か!
俺はどうぐを選択し、コロッケの包み紙を選んだ!
「あー!リステラさんが作ったバーンズウッドコロッケは、私が作るコロッケより美味しいから下町お料理大会は、リタイア間違いなしだなーって言ってみたり……あは、あはは……」
馬鹿か!!そんなメチャクチャな誤魔化し方で上手くいくわけないだろッ!
そう笑って誤魔化していると、アリステラはワナワナ震え始め――
「コロッケ!? それが下町によくあるっていう、あのコロッケなの!?」
俺の両手を握り、目を輝かせながら聞いてきた。
彼女から漂う甘い香りに、思わず顔が蕩けてしまう。
これがメインヒロインか。文字だけの存在ではわからない素晴らしさを感じる。
目と耳、そして鼻と心にダイレクトに存在感の強さを叩きつけてきやがる!
「はっ! いけない!」
俺は彼女のテリトリーから距離を取り、汗を拭った。
あのままアリステラの近くに居たら籠絡されてしまうところだったぜ。
お兄ちゃんより前に俺との距離を詰めようとは……飛んだ女狐だ。(アリステラにそんなつもりは無い)
自分の手から離れた俺を見て、アリステラはショボンとしている。
「そんなに急に触られたのが嫌だった? ごめんなさい……私、テレビと本でしか見たことない日本の下町料理が気になって、つい……距離感を間違えちゃったわ……」
うっ!! やめてくれ……そんな純粋な気持ちを俺にぶつけないでくれ!
そうだ……このアリステラという少女は、下町や田舎といった庶民の生活に多大な興味を示す子だった!
お陰で言い逃れはできたが……あんな悲しそうな顔を見ると、中身30代のおじさん的には胸に刺さるものがあるぞ。
「嫌じゃないわよ? ちょっとビックリしちゃったっていうか……良い匂いに気が狂いそうだというか……なんていうかビックリしたのよ!」
正直に話してしまおう。アリステラという少女の性格は、完全とまではいかないが把握しているつもりだ。
清廉潔白。自分に厳しく、他人には甘い。特に年下には優しい聖女のようであり、誉れ高い武人でもある。
そして騙されやすい。これが重要。
そのため、今の言い訳でアリステラは――
「なるほど! そうだったのね? 手を握られたのが嫌じゃなくて、驚かせてしまったのね?」
パンッと手を叩き、ニッコリと微笑みかけてきた。
間違いなく俺が男の体だったら胸は高鳴り、「もしかして俺のこと……好き?」と勘違いしてしまっていただろう。
我ながら童貞の俺らしい勘違い……心の中の棗が「ギャハハ!」と笑いながらバカにしてくる姿が思い浮かぶようだ。
「アリ――お姉さんは、この学校に用があるんじゃないの?」
とりあえず、この人から離れよう。まだ敵対するには武器が無さすぎる。下手に絡んで嫌われても、この先支障が出るだろうしな。
「そうだった! 転校書類の提出に来たんだった!」
「なら急いだ方が良いんじゃない? 私はこれで失礼するか――」
そう言い残して去ろうとしたが、ガシッとアリステラに手を握られ、去ることを阻止された!
「ね〜? 今の時間にここにいるってことはさ? 貴方、時間あるわよね?」
「え……あ〜……いや〜」
まずいまずいまずい!! このままじゃ仲良しルートに入り過ぎてしまう!
一度友達になってから蹴落とすのは辛い!! それなら不干渉の状態で蹴落とす方が気持ち的に楽なのに!!
「何も言い返せないなら、この後貴方が持ってた、それ。コロッケが売ってる場所まで案内して?」
「いや。私にも用事が――」
「お願い。ね?」
「う、うん。分かった……」
目をキラキラと輝かせた少女の純粋な気持ちに、俺は負けた……
読者の立場でアリステラのお願いに雪也が断りきれないシーンを見てた時は「おい雪也!ふざけんな! そんな誘惑に負けんなよ!そんな事より鈴芽ちゃんを愛してやれよ!」
と腹を立てることができたが、本物を前にして初めて思った。
無理だ! 考えてもみろ! 誰もが認めた人気No.1のメインヒロインの、真っ直ぐ見つめる目でのお願いだぞ?雪也お兄ちゃん……俺が悪かった。あんな綺麗な子を前に断れるわけないよな?
「良かった! なら着いてきて? 逃げられても困るから一緒に職員室まで行きましょ?」
そう手を引いて、俺を学校の中に引き連れ出した。
ズカズカと歩く様はドラゴンのようだ。
手を引く力も優しげながら、振り解くことは難しい力を感じる。
確か彼女の戦機は大剣タイプだったはずだ。だからか。この手の力、足の踏み込みの癖……相当鍛えてるな。
素人ながら、それが理解できた。多分これは鈴芽の記憶だろう。
何はともあれ、気になってた高校に入ることが出来た。
ラノベの描写と実際の違いを確かめるチャンスだ。それに雪也を取り囲む空気感を見ておく絶好の機会だ!
折角だし、このまま学校見学と洒落込みますか!
そうして俺とアリステラは、綺麗な校舎の中に足を踏み入れた。
警備隊が入り口の中に配置されており、アリステラが学生証を提示して通行を許可してもらうことができた。
俺はというと、もちろんそんなもの持ってないから追い返されると思ったが――
「この子、私の知り合いなの。日本を案内してもらうことになったから、中に一緒に入っていいわよね?」
「アリステラさんの知り合いでしたらどうぞ!」
良いんかい!? おいおい大丈夫か? ここの警備は……流石に学生を信用しすぎだろ……。
いや待て? 警備がザルだからこそ、シナリオが進みやすいのか?
そんなメタなことを考えて、俺たちは目的の職員室まで、辺りを見学しながら進んだ。
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