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38話 見えざる者

「なによこれ! なんでこんなにキッツいのよ!」



 第9コースを進んですぐに鈴芽の叫びがこだました。

 ゲートから西に進んだスタート地点から北に向かってすぐに【エリミネーター】の群れと遭遇したのだ。



 カマキリ型、ゴキブリ型、触手型に、アサシンビーとウジャウジャと迫る大群に西園寺さんと北風さんも必死に戦機を振るっていた。



「おかしい! ここにこんな【エリミネーター】が出た事ないはずなのに!」



 西園寺さんが弓を射って1体ずつ確実に仕留めていく。

 だが押し寄せる大群は怯みもせず迫り続け、彼女の顔からは苦悶の色が浮かんでいた。



「鈴芽ちゃん! 西園寺さん集中して! 今はそんな愚痴を言うよりここを何とか切り抜けることだけを考えなきゃ!」



 軽快なステップで【エリミネーター】の死角からダガーで攻撃しながら北風さんが言った。

 このチームは北風さんがリーダーとして機能している状態だ。



 鈴芽も負けじとライトニングスパローを振るうが、キリが無い!

 一匹倒したら十匹追加されると言ったこのカオスな状況は、笑えるような余裕はない。

 一つ間違えれば、初めて【アビス】に来た時に見た死体と同じ末路を辿るのは間違いない。



 三人が背中を合わせて戦機を振るう中、魂の中の俺はこの状況に違和感を感じていた。



 どういうことだ!? こんな設定もイベントも無かったはずだ。それにこの数。明らかにおかしい。これは……もしかすると!



 『鈴芽ちゃん! ここは早く逃げたほうがいい!』


 『なんで!? この先に行くのが授業の目的なんでしょ? 多少キツくたってこれぐらいなら!』


 『違う。違うんだよ! ここはただの【アビス】じゃないかも知れない!』



 俺が知っている設定だと、【エリミネーター】が大群で群れを成す理由は1つしか無い!



 『この近くに次元の狭間がある可能性があるんだよ!』


「な!? それは本当なの!?」



 思わず口に出した鈴芽は西園寺さんと北風さんに目をチラッと向けるが、彼女達は戦闘に集中していて声に気付かなかった。

 鈴芽はレイピアを振るいながら魂の中での会話に意識を集中させる。



 『次元の狭間って桜場のはまだ見つかってないんじゃ無かったの?』


 『そのはずだ。俺の知ってる原作情報でも桜場【アビス】の次元の狭間は発見されてなくて、攻略もまだだった。作者が書くつもりがなかったのか、これから書くつもりかわからないけど、少なくとも今の時点で見つかるはずがない!』


 『見つかるったって、ここゲートの近くよ! まだスタート地点から10分ぐらいしか歩いてない場所なんだけど!』



 鈴芽のいう通り、今の混沌とした現場はスタートしてから直ぐの場所だ。なんだったら振り返るとゲートがまだ大きく見える。



 こんなに近くに次元の狭間がある事に今まで誰も気付かなかったのか? それもおかしな話だ。

 ちょっと調査すれば簡単に見つかる場所だぞ?



 桜場【アビス】の調査は九条家が主軸で動いてたはず。

 彼等が見落とすか? この場所を……。いや絶対にない。腐っても日本トップの実力者達が集う家だぞ?

 


 そう考えると俺は、今まで感じた不信感と違和感がこの場で1つの予測を組み上がっていく。



 もし九条家が次元の狭間の場所をとっくの昔に発見していたら?

  彼女達の強さは実践で鍛え上げられたものだとするならどこで?


 

 その答えは次元の狭間を狩場にして鍛錬場として使っているんじゃないか? あえて警備隊や自衛隊に報告せず九条家がこの場所を独占していたとすれば頷ける。

 


 そう考えると以前の火凛と水稀の襲撃。なぜあんなゲートから離れた場所に現れたかも見えてくる。



 恐らく見ていたんだ。この【アビス】に仕掛けられたカメラか何かで。そうなるとこれは九条家関係の嫌がらせに違いない!



 『鈴芽ちゃん! 多分これも九条家関係だ!』


 『また!?』


 『多分この【アビス】自体が九条家の狩場兼鍛錬場だと思う! じゃなきゃ、この前の火凛、水稀が俺たちを見つけるなんてこと出来るはずがない!』


 『でも! だとしてもおかしくない? ここに来るように指示を出したのは先生よ!? 九条家の人間じゃないじゃないの!』


 『いや……多分先生は――』



 俺の言葉は【大型エリミネーター】の攻撃で掻き消された。ムカデの形をした【エリミネーター】の体当たりを三人は躱し並んで戦機を向ける。



 『話は後だ! 鈴芽ちゃん。ちょっと変わってくれ。ここは俺が何とかする!』


 『何とかするって……。確かにあんたの技術は私より遥かに高いけど無茶よ!こんな数を相手にスピードを乗せる暇なんかありっこない!』



 ウジャウジャと迫る大群を見て俺もそう思う。

 だけど今はやるしかない! じゃなきゃ死ぬ!



 半ば強引に魂を切り変わり俺が体を動かす。

 ライトニングスパローをグッと握ると力は問題なく込めることができた。



 火凛、水稀から受けたダメージはこの体にはないようだ。



「西園寺さん、北風さん! ここは退こう」



 俺が呼びかけると彼女達は「え?」っとこちらに振り返る。



「でもこの先に行かないと先生が……」


「そうよ! みんなもこれぐらい戦って先を進んでるはず。なら私達がこんなところで諦めていいはずがないわ!」


「このバカ!! この状況が冷静に分析できないの?」


 

 そう言って【エリミネーター】に向かおうとする二人を俺は叫んで止めた。

 流石に年下からそう言われたことに思うところがあったのか、彼女達の顔には苛立ちが見える。



 だけどここで怯むわけにはいかない。

 俺は心を鬼にして二人に伝える。



「良い? 確かに戦うことは当たり前だとしても、退き際を弁えてないと死ぬのは私達よ? 生き残ってこそウィザードでしょ? 私たちは死ぬために戦ってるわけじゃない!【アビス】の脅威を取り除くために戦ってるの! ちがう?」


「それは……」


「たしかにそうね……」



 今の言葉が二人の中で腑に落ちたようだ。

 私は今も尚迫るカマキリ型にレイピアを突き刺し、話を続ける。



「これは明らかに異常よ! だったら今は退くべき! だから二人とも! 今直ぐ撤退準備をして!」



 二人は互いに顔を見合わせ、「分かった」と頷いた。

 ホッとした俺は二人を先に行かせしんがりを務める事にした。



 この場で1番早く移動できるのは俺だ。

 なら彼女達が逃げ切るまで俺は出来るだけ【エリミネーター】の数を減らす!



 俺は駆け出し、【エリミネーター】の体を突き刺しては、光速で走った時に生じるエアバーストである程度の数をぶっ飛ばした。



 それでも減ったように見えない大群にゾッとする。

 虫嫌いな人が見ると卒倒するだろうな!



 俺はほどほどに間引き、西園寺さんと北風さんの姿が小さくなったのを確認してこの場を離脱しようとした。



 地を蹴り駆け出そうと足を踏み出した瞬間。



「ダメですよ〜。逃げちゃ〜」



 おっとりとした女性の声がどこからともなく聞こえてきた。その声は近くの廃墟から聞こえ

 、屋上を見ると斉藤先生がニコニコの笑顔でこちらに歩を進めてくる。



 『せ、先生!? 助けに来てくれたのね! やったわよ大樹! これで私たちは……』


 『それは違うよ。鈴芽ちゃん……』



 ニコニコと笑う斉藤先生はポケットから取り出したリモコンを【エリミネーター】に向けてスイッチを押した。

 するとこの場を覆い尽くそうとした大群が一斉に身を翻し、【アビス】の奥へと移動し始める。



 『やっぱりな』


 『やっぱりって? なによ! 大樹あんたいったい何に気付いたってのよ!』


 『間違いない。この前の火凛と水稀に俺たちの居場所を伝えたのも、さっきの大群をこの場に呼び寄せたのも、こいつだ!』 



 そう言って俺は斉藤先生を睨む。



「先生。逃げちゃダメって、私を殺すつもりなのかな?」



 俺の言葉に鈴芽が絶句した。

 そんな彼女に俺は構わず、斉藤先生に話を続ける。



「先生は九条家の人たちと繋がってるんでしょ? どうせその人達から私の抹殺を依頼されたんだろうけど……違う?」


「あら〜。どうしてバレてしまったんでしょう。不審な姿は見せていなかったと思うんですけど〜? どこで気づかれたんでしょう」



 手を頬に当て、首を傾げる斉藤先生。

 いつもならおっとりとした美人という印象を受けるとこだが、今この状況で見るその仕草は、恐ろしい何かのように思えた。



「ふん! 怪しいとこなら日曜日の演習場に来た時に感じたわ。あそこにはカメラはないはずなんだもの。なんせアリスと模擬戦した時に設備をほとんど壊しちゃってるからね」



 俺の話に眉をピクッと動かした。



「でもあんたはなぜかあの場所に私達がいると知ってやって来た。その時は音で気付いたって言ってたけど、演習場から職員室は離れてたし、そんなに大きな音も立ててなかった。そうなると先生は最初から見てたんじゃない?私達が演習場を使っているところを、九条家に頼まれてね」


「うふふ。でも偶然通りかかった可能性だってあるはず。それが私を疑う理由だとすればまだ薄いですよ〜」


「第二に、金曜日の放課後。私が教室を出た時、先生は私が一人で走っているのを見てたわよね。後で気付いたけど、お兄ちゃんとアリスの二人から離れた私を見てチャンスと思ったんじゃないかって考えたのよ。日曜日に銀杏ヶ丘に居たけどその時も視線が合ったわよね? 明らか目を逸らされたけど、どうせ私とお兄ちゃんの監視でも頼まれたんでしょ?」



「はぁ」と息を吐いた先生はそれ以上何かを言うことはなかった。ほとんど答えが出たものだと思われたが、俺は最後の一言を告げる。



「最後に私をお兄ちゃんとアリスから離してこのコースに誘導した事よ。とうとう殺せって命じられたのかな?」


「そこまでバレてるならもう隠す必要はないですね〜」



 パチパチと手を叩きながら温和な笑顔を向けてくる。

 拍手を終えるとその柔らかな表情が冷え込み、目を鋭くして俺に向けてきた。



「鈴芽さんの言う通り、私は九条家に連なる者の一人ですよ〜。元々は雪也くんの監視だけが仕事だったんですが、貴方が進級してからは貴方も監視対象として命じられてたんですけどね〜。つい2日前に殺せって命令されたんですよ〜。まったく。あなたのような子供のどこに殺す価値があると言うのやら〜」



 そう言った先生は剣を手に廃墟から飛び降り、俺に跳躍した。すぐに走り去ろうと足に力を込めるが、走り出すことができず足止めを喰らった。



「言ったはずですよ〜。逃さないと」



 俺の眼前に蛇腹になった剣が波打つように行く手を遮っている。その刃は先生が握る柄に繋がっていた。

 どうやら彼女の戦機は蛇腹剣という物らしい。



 だけど相手は一人! なら俺にも勝機はある!



 そう考えレイピアを構えると、首に重たい衝撃が走った。首の関節が外れた感覚に包まれながら地面に崩れ落ちる。

 薄れゆく意識の中、俺に誰かが話しかけてくる。



「一人かと思ったか? 残念だけどこれは九条家の問題だ。もう私も屋敷でお前達の生活を眺めているわけにはいかなくなったのでな? 来させてもらった」



 地に伏した状態で顔を必死に上げてそのツラを拝んでやろうと思った。

 そこにいたのは着物姿の老婆。髪を纏めている九条家当主、九条桜だった。

 

 

 もうかなりの歳なはずなのに、彼女の立ち姿は凛としたものだった。

 その手には小太刀が握られている。どうやら峰打ちを受けたらしい。



「この……ババア……」



 俺は薄れゆく意識の中、絞り出すように声を出した。

 だが意識は長く続かず、ふっと途切れてしまった。

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