37話 討伐実習
週明けの月曜日というのは、学生であれ、社会人であれ気が滅入るものだ。
楽しかった〜! 『土曜日!』大好きなお兄ちゃんと過ごした〜! 『日曜日!』
私と大樹は小学校での卒業式でやった謳い文句のように心の中で叫びながら、重たい体を動かし高校へ向かう。
学生の今だけ我慢すれば、きっと大人になった時にはこんな憂鬱からも解放されるはず!
『月曜日ってさ。大人になっても気だるく感じるもんなんだよ。残念だよね? 鈴芽ちゃん』
なんて事を……。大樹が現実的なことを言ってくる。
私は大人になったら月曜日の憂鬱から解放されると信じていたのに、大人のあんたが言うと夢がぶち壊されてしまうじゃない。
『あー!あー!聞きたくない! 聞きたくなーい!』
現実の体で耳を塞ぎ大樹の言葉を遠ざけようとしたが、悔しいかな魂の中の言葉は嫌と言うほど頭の中に響いてくる。
『だいたい大人ってのは学生と違って休日出勤てのがあってだなー』
『いやあああ!!聞きたくない聞きたくない!! そんな現実は私にはいらないもん! 私はお兄ちゃんと一緒にずっと仲良く暮らすんだもん!』
そんなやり取りをしていると、あっという間にアルケミーの校舎前までたどり着いてしまった。
昨日の斉藤先生によれば今日の授業は大変だって言ってた。
大変な授業って……。それだと14歳の私からすれば倍以上は大変ってことよね?
『だね〜。これも愛するお兄ちゃんと一緒に学生ライフを満喫するためだ! 頑張ろう鈴芽ちゃん!』
こいつは自分が授業を受けないからって軽く言ってくれちゃってるけど、本当に私のファンなの?
はあ。と深くため息を吐きながら教室に入り、席に着く。教室には先に家を出たお兄ちゃんがいつものように女子に囲まれてハーレム状態だった。
本来私だけだったら酷く動揺しているようなこの状況も……。
『あーあー。お兄ちゃんは今日も人気者だね〜。あの中からお兄ちゃんが恋人に選ぶ女子なんていないんだけどな〜』
私たちの未来を知ってる大樹の言葉があったおかげで冷静と余裕を保てた。
唯一の宿敵であったアリステラも……。
「すーず! おはよ!」
ガシ!と抱きついては、私の頬にアリステラの頬をすりつかせてきた。
お兄ちゃんと恋人になる可能性のあったメインヒロインは今日も私にゾッコンだ。
これはなんとも言い難いが、友人としてアリステラを見ればとても良い人だ。
正直好き。友達としてね?
そんなアリステラの猛烈アピールを受けているとチャイムが鳴った。
昨日夜遅くまで予習をしていて朝起きたのがギリギリだったから、教室に着いたのが始業直前だったらしい。
アリステラは「今日も頑張ろうね」とガッツポーズをしながら自席に戻って行った。
お兄ちゃんに群がる女子達も席に戻ると、斉藤先生が教室に入り教壇に立った。
「おはようございます皆さん」
「「「おはようございます!」」」
「はい。みなさん元気そうで何よりですよ〜。早速なんですが……。今日の授業は【エリミネーター】討伐実習を行いますよ〜」
「「「え〜」」」
女子生徒に混ざって私も文句をブー垂れた。
【エリミネーター】討伐実習。
お兄ちゃんから話だけは聞いてたけど、確か3人1組のチームを組んで【エリミネーター】を討伐しながら次元の狭間付近まで進んで【エリミネーター】の数を減らす授業だったはず。
『そのとおり。これは国からの命題でもあるから戦闘学生は必ず参加しなきゃいけない授業の一つだね』
『つまり、昨日先生が言ってた大変な授業ってこれのことよね?』
『そうなるね〜』
何も月曜日からハードな授業をしなくても良いのに……。こういうのはさ、最初は軽くて徐々に重くしていくもんじゃないの?
『逆に考えれば最初にハードな授業からの後々が軽めってこともあるけどね』
『軽めって言っても私にとってはどれもハードなの! このバカ大樹!』
魂内論争を繰り広げていると、斉藤先生の話と入念な説明が終わってしまった。
全く話を聞いてなかったけど、あとでお兄ちゃんかアリスに聞けばいいか。
みんな教室を出て更衣室に向かうらしい。
私もその行列に並んで更衣室へ向かう。
斉藤先生が教室を出る時、私をチラッと見た気がしたけど多分気のせいよね?
――――――――――――――――――――――
制服から動きやすい戦闘制服に更衣を終えて、学校を出た私たちは学校内にある移動車両に乗って【アビスゲート】までやって来た。
車両から降りて、高く聳える【アビスゲート】を下から眺めるが、やっぱりデカい。
もう見慣れたんだけど……。
『そら〜。毎日毎日ここに来てはアサシンビーを討伐してたからな〜』
クラスのみんながゲートを潜り始めているのを見て私も後に続いた。
警備員のチェックを1人ずつ受けて私の番になると、警備員のおじさんが笑顔で話しかけてきた。
「おや? 鈴ちゃんじゃないか。今日の討伐は鈴ちゃんも一緒だったのか」
「おはよ! おじさん。そうなの。今日は授業でみんなと討伐実習なのよ……。休み明けから参っちゃうわ」
「ははは! そう言っても鈴ちゃんは毎日放課後に来ては討伐してるじゃないか。何を今更そんな事を〜」
毎日通っていればそりゃ警備員とも仲良くなるわよね。
気付けばおじさん達からも「鈴」って呼ばれるようになっていた。
それどころかお菓子をくれたりもする。私の事子供だと思ってるわよね? もう高校生なんだから大人扱いしてほしいのに!
『と言いつつも嬉しいくせに。それに鈴芽ちゃんはまだ14歳の子供じゃないの〜』
『う、うるさいうるさい! 飛び級で高校生になった私はもう、れっきとした大人なの! レディなの!』
『はいはい。鈴芽ちゃんは今日もかわちいですね〜』
こいつ。いつか殴れる日が来たら殴り飛ばしてやるんだから、覚えときなさいよ。
そんな事を考えつつ、警備隊のおじさんの指示通りチェックを済ませるとゲートを通らされた。
ゲートを潜ってすぐの広場で斉藤先生がクラス全員を1ヶ所に集めていた。
斉藤先生もいつものスラットスーツではなく、軍服のような戦闘服を身につけていた。
いつもはおっとりしている先生も戦闘服に身を包んでいる間はキリッとしてカッコよく見える。
「は〜い。皆さん集まりましたね〜」
カッコよくは見えるが、話し方はいつも通りで頭が混乱しそうだ。
そんな斉藤先生は温和な笑顔で授業の説明に入る。
「最初に言ったように、ここ【アビス】で3人1組のチームで奥まで進んでもらいます。ルートは私が指定した場所を進んでもらいますからね〜。あとチームですが〜。これも私が独断で決定しちゃいました〜」
「「「えー!!」」」
先生の話にみんなが文句を言い始めた。
そりゃそうよ。私もアリスとお兄ちゃんと組もうと思ってたところを勝手に決められちゃってたんだもん。文句の一つぐらい出るわよ。
「はいはい〜。文句言わないでくださ〜い。良いですか〜。ウィザードはですね。現地で即応チームを編成することのほうが多いんですよ〜。これはその練習だと思ってくださいね〜」
そういえば銀杏ヶ丘は九条家と、その他の名家でのチームで攻略したんだっけ。それも多分即応チームだったんだろうね。だとしたらこの条件も理に適ってるのか……。
斉藤先生は3人ずつ名前を呼び上げ、チームを編成していく。
私はお兄ちゃんとアリスの2人と一緒がいいと願った。せめてお兄ちゃんがいればそれで良い!
「4チーム目は九条鈴芽さん。西園寺怜さん。北風舞さん」
願いは無常にも打ち砕かれた。
全く知らない人たちと一緒のチームになった事に肩を落とし、私は2人の元に向かった。
「よろしくね」と元気に話しかけてくる二人。
西園寺さんは黒髪のボブカットの大人しそうな人、北風さんは茶髪のポニーテールのスポーツ女子って感じの元気そうな人だ。
優しそうな人たちでちょっと安心した。
『てかさ。普通に考えたら即応チームを編成するのに元から仲良い人と一緒にするはずが無いんだよな〜』
確かに大樹の言う通りだわ。
ならこれは最初から決まっていたこと。むしろこの優しそうな二人でラッキーだったって思えば良いよね!
「ではチームDは、第9コースに向かってくださ〜い」
斉藤先生が手元にある地図を指した場所に私達は向かう事になった。
道中は二人とアイスブレイクを図ってお互いコミュニケーションを計りやすくなるぐらいまでは仲良くなった。
見た目通りの人達で私はもう安心。
これならどんな敵が襲いかかって来ても大丈夫かもね!
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