36話 不信感
楽しかった外出から翌日。
日曜日はお兄ちゃんと休校中の学校の室内にある第三演習場を借りて、特訓に励んだ。
薄暗く、中央のバトルフィールドのみライトで照らされた空間で、私は兄ちゃんと手合わせしていた。
今の私にできる攻撃を試してみたけどどれも最初だけ通用して二度目は見切られてしまった。
刀型の自己強化は反応速度、反射神経、視認速度も向上しているらしく、継続戦闘は不利だと教えられた。
でもそれはお兄ちゃんを含めた九条家が相手のみ、【エリミネーター】が相手なら多分負けなしだと思う。
だとしても九条家からの襲撃が、火凛と水稀で最後とは限らない。もっともっと腕を上げなきゃ!
『だよね! 大樹?』
『ん? あーそうだね鈴芽ちゃん』
反応が薄い。大樹の奴、昨日お出掛けから帰ってきてからどこか上の空って感じだ。
何か心配事でもあるのかな?
『……』
じっと黙っていることからよっぽど大事なことを考えてるのだろう。
私はこれ以上大樹の邪魔をするのは悪いや。
それに今はお兄ちゃんと2人っきりで特訓してるんだもん! 今を楽しまなきゃね!
「ほら鈴! ぼーっとすんな!」
「わ、分かってるわよ!」
お兄ちゃんの切り下ろしを軽い身のこなしで躱しライトニングスパローで応戦する。
私の突きは素早いものの軽く刀であしらわれてしまう。
やっぱりスピードに乗せた攻撃じゃないとお兄ちゃん位攻撃が届くことがなさそう。
そんな高速戦闘を繰り広げているとき、薄暗い演習場がパッ!と全体が照らされた。
「休日なのに2人とも熱心ですね〜」
私とお兄ちゃんは手を止めて声の方へ顔を向けた。
そこには休日だというのに斉藤先生がやって来た。
「先生!? 今日休みじゃないんですか?」
「いやはや。 実は私、授業の下準備がまだできていなくてですね〜。今日は1人寂しく職員室でせっせと準備に励んでたんですよ〜」
「それは……。なんていうか大変ですね」
私たちの授業のためにそこまで真摯に取り組んでくれてるなんて……。なんて良い先生なの!
でも、このご時世。わざわざ休みの日に出勤してまで働くなんて……。大丈夫なのかな?
「心配してくれてありがとう。鈴芽さん。ところで2人だけですか?」
「はい。妹が進級してきて、授業や模擬戦について行くのがやっとだと相談を受けまして、兄として面倒を見てたところです」
お兄ちゃんが答えた通り、私は今のアルケミーの授業について行くので精一杯だ。
何とかしてみんなと並び立てるぐらいには力を付けないといけない。
じゃないと私はお兄ちゃんのそばに並び立つ資格が無くなっちゃうから。
「そうだったんですね〜。くれぐれも怪我のないようにして下さいね。明日も大変な授業が多いですから」
「はい! わかりました! ……ところで先生はなんでここに? 授業の準備は終わったの?」
返事してから私はここに来た理由を先生に尋ねた。
忙しいはずなんでしょ? そんな大変な状態でわざわざ時間を作って見に来てくれたのは嬉しいけど。大丈夫なのかな?
「いや。まだ終わってませんがちょっと息抜きに散歩してたんですよ。 ほら歩くと頭が冴えるでしょ? そんな感じですよ〜」
「そうだったんだ。 歩くと頭が冴える……ね。 それ分かるかも! 私もムシャクシャした時体を動かしたら考えがまとまる時あるし!」
「そうですよ〜。歩くことは良いことなんです。……っともうこんな時間。では私は失礼しますね? 用が済んだらここの鍵は閉めなくて良いですから〜」
そう言って先生は笑顔で演習場を出て行った。それを私はペコリと頭を下げて見送った。
「お兄ちゃん。斉藤先生って良い先生だね?」
「そうだな〜。先生の授業は分かりやすいし、あの優しさでかなりの人気教師だからな〜。あの人の授業がある日はみんな当たりだって喜ぶぐらいなんだぜ?」
「ほえ〜。やっぱりそうなんだ。 あの人もウィザードなんだよね?」
「う〜ん。俺もあまり詳しくないけど。ここの教師はみんなウィザードだから斉藤先生もそうだとは思う。けどどんな戦機でどれぐらい強いかは分かんないな〜」
本当に知らないようで腕を組んでお兄ちゃんはそう言った。
教えるのが上手いならきっと実力も高いはずよね。
だって言葉に出来るほど力の使い方を分かってるってことでしょ?
絶対強いに決まってるじゃん。
『ね〜? 大樹?』
『……そうだな』
大樹の様子がおかしい。この胸がざわつく感じ。何かに警戒してる?
『ちょっとどうしたのよ! あんた昨日の夜から様子が変よ? べつにあんたが何に悩もうが私には関係ないけど、同じ体を共有する以上、私にも影響が出るかもしれないんだからしっかりしてよね!』
『ご、ごめん鈴芽ちゃん。いや。実は一つだけ気になることがあってさ』
『なによ?』
『ここってカメラないよな?』
そう言われて辺りを見渡すもカメラは無い。
この間アリステラとの戦闘で私がこの場所を大破させてしまったからか、カメラどころか備品もそこまで整っていない様子だ。
「ねえ?お兄ちゃん? ここってさカメラで私たちの様子が見れたりってするの?」
2人もこの学校で過ごしてるお兄ちゃんならカメラのある場所を知ってるかも。
そう思って聞いたが、お兄ちゃんは首を横に振った。
「ここにカメラはないな。戦機で戦うと魔力の衝突でカメラみたいな撮影器具は映像がブレて使い物にならないんだ。だからここ以外の場所にもカメラは無いな。あるとしたら学校の入り口に裏口、廊下ぐらいかな?」
そっか。カメラないんだ。
お兄ちゃんの言葉を聞いて大樹がんーっと唸った。
『だとするとおかしい』
『なにがよ?』
『カメラが無いならなんでここに俺たちが居るって先生気付いたんだ?』
『音が漏れてたとかじゃない? 結構派手に動いてたし』
『いやそれはない。だってお兄ちゃんの攻撃に俺たちは回避するだけだったろ? 鈴芽ちゃんの攻撃は軽く当てられただけで弾かれてたし、そんな外まで響くほどの音は出ていないはずだ』
思い返せば確かにそうかも。
ちょっとした戦機同士のぶつかる音は出てたけど、耳を劈くほどのうるささは無かったわね。
『ならあれじゃない?【気】ってやつよ! きっと先生はウィザードの実力が高くて私達から出るエネルギーを感じ取ることができるんだわ!』
『いやいや。どこぞの少年漫画じゃあるまいしそんな設定はないって……』
呆れたような声で返された。
何でもかんでも設定て言われちゃうとロマンが無いわね。
あんたからしたら本の中の世界かもしれないけど、私たちからすればここは現実なのに。
『とりあえず鈴芽ちゃん。斉藤先生だけど、ちょっと気をつけたほうがいいかも』
『なんで? あんなにいい先生なのに!』
『怪しいからだよ。九条家の接触があった日には殆どあの人とすれ違ってる。それにここに気付いた理由も……』
大樹の考えすぎかと思うけど、こいつの考えには助けられたこと多い。頭の片隅に入れておこう。
多分先生はそんな悪い人じゃ無いと思うけどね。
「鈴? またぼーっとしてどうした?」
大樹と話し過ぎてお兄ちゃんが心配そうに見てきた。
「あ。ごめんごめん。ちょっと疲れちゃったのかな?はは」
「そっか。じゃあ今日は帰るか?」
「う〜ん。もう少し特訓しよ? まだ時間位は余裕があるし」
「なら休憩を挟んだらもう1回だけやるか!」
「うん!」
折角久々に2人きりなんだもん。
こんな最高の機会を終わらせてたまるもんですか!
その後休憩を挟んだ私とお兄ちゃんは、戦機での模擬戦で特訓を再開した。
真剣に刀を振るうお兄ちゃんの姿は本当にかっこよかった。それに私にこんなに付き合ってくれることがすごく嬉しかった。
手合わせ中に胸が高鳴り、気分が高揚するのを大樹は不安げに、ため息を吐いていた。
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