35話 楽しい休日
昼食を食べ終えた3人は公園を出た。
公園前の横断歩道を渡りしばらく歩くと、街並みは一気に華やいだ。
高くそびえるビルの数々。道の至る所には誰かが造形したオブジェが並び、ガラス張りの店には季節に合わせた服を着たマネキンたちが立ち並んでいる。
アリステラとお兄ちゃんに腕を引かれながら、私はそんなオシャレな街へ足を踏み入れていた。
2人は振り返ると、マイクを握ったように手を構え、突然踊り出した。
「HEY! HEY! アリスさんや! 今日はどこで遊ぶんだい?」
「それは雪也。大なり小なり、楽しいところだい!」
なにやってんだろ? 夏の暑さにやられたのかな?
そう思いながら、私と魂の中の大樹は冷めた顔で2人を見つめていた。
「おいおい鈴さんや! ちょいとノリが悪くないですかい? オンザスカイ?」
お兄ちゃんも、全くサマになっていないラップを披露してくる。
どうやらこの場でおかしいのは私の方らしい。
でも、3人のうち2人がおかしいと、残った1人は行き場がないと思うんだけど……。
『でも楽しそうじゃん。鈴芽ちゃんも一緒にバカやってみたら?』
バカって……。やっぱり側から見ればそうなんじゃん。でも2人が楽しそうなのは確かだ。
ふと気付けば2人の服装はラップに似合う格好だった。
アリステラの服装はチェック柄のオーバーオールにベレー帽。帽子にはサングラスを引っ掛けている。
お兄ちゃんは黒を基調とした服装で、アリステラとお揃いのサングラスをかけていた。
そんな2人はラップを繰り広げながら先を歩く。
街の人々が奇異の眼差しを向けてきても、お構いなしだ。
「ど、どこにいくのYO? 私こんな場所に来たことないから分かんないYO」
恥ずかしかったけど、2人の真似をして踊ってみた。
すると不思議と楽しくなってきた。上手いか下手かといえば下手なんだろうけど、妙な高揚感が胸に湧き上がる。
そんな私に、2人はニッと笑った。
「ふふ! 上手い上手い! 鈴、今から行くところはね、日本に来てからずっと行ってみたかった所なの!」
ラップは終わりらしい。ちょっと残念だけど、その方が話は聞きやすい。
「それってどこ? お店ならアリスの国にもあるだろうし、日本にしかないもの?」
「ふっふっふ。それはね〜、ここよ!」
ちょうど辿り着いたらしく、アリステラが手で示したのは、屋上に巨大なボウリングピンのオブジェがそびえるアミューズメント施設――ラウンド3だった。
「わ! わ〜! ここってテレビでよくやってる遊べる場所だよね! 私、友達ができたら一度は行ってみたいって思ってたの!」
嬉しさのあまり、思わず飛び跳ねてしまった。
だって夢だったから。いつか友達と一緒にラウンド3に行くのが。
「夢が叶うのね……。生きててよかった」
両手を合わせ、空を仰いだ。
「ああ、神様。この幸せを与えてくれて感謝します」
祈る私に、お兄ちゃんが呆れ顔で声を掛ける。
「そんな大袈裟な。大体、友達くらい中学でも居ただろ?」
「友達はいなかったわよ? みんな私の事情を知ってたみたいで、深く関わろうとしてこなかったし。ただ勉強しに行くだけの場所って感じだったわね」
「嘘だろ……。初めて聞いたぞ」
そりゃ初めて言ったからね。お兄ちゃんに言ったら心配かけちゃうと思ったし
「でも今は大丈夫! もう私にはお兄ちゃんとアリスの2人がいるから!」
「そ、そうか。なら良かったよ」
それもこれも全部、私の中に入り込んだ大樹のおかげ。
あんたが私の魂の中で生まれなかったら、私はあのつまらない中学をただ通っていただけだと思う。
『その代わり色々迷惑かけちゃったけどね』
『まあ、それはそれよ!』
「なーにしんみりしちゃってんのよ! 早く行きましょ! 時間は有限なんだから!」
アリステラが私とお兄ちゃんの手を引き、施設の中へと引きずり込んだ。
中に入ると、ゲームセンターが広がり、耳をつんざくような音がこだまする。
受付を済ませ、まずはスポッチャでバスケをすることになった。
私は体格的に不利なのでアリステラとチームを組み、お兄ちゃんと対戦する事になった。
スポーツ自体私には馴染みがなく、下手ながら必死にドリブルしてシュートを打った。
でも、なかなかゴールに入らない。
それに比べてアリステラはさすがだった。
ドリブル捌き、シュートフォーム、どれをとっても様になっていてプロみたい。
お兄ちゃんもそんなアリステラと渡り合える腕前で、驚かされた。
慣れない私のドリブルにお兄ちゃんが接触してきた時、思わずドキッとしてしまった。
いつも優しいお兄ちゃんが、激しく当たってきたことに意識してしまったのだ。
離れたところでニヤニヤ見ているアリステラに「何見てんのよ!」とキレてみたりして、また笑い合った。
その後はローラースケートにカラオケ、さらに入口近くのゲームコーナーでも遊んだ。
そこで大きな恐竜のぬいぐるみを、お兄ちゃんとアリステラが私のために取ってくれた。
「こんなに貰ってばかりでいいの?」と聞くと、2人は「今日の主役は鈴だから」と笑って返してくれた。
私って、そこまで何かしたのかな……?
そう思う間に、楽しい時間はあっという間に過ぎ、気づけば17時を回っていた。
施設を出るとまだ明るかったが、そろそろ帰らなきゃいけない。
最後の飛空戦に乗り遅れるわけにはいかない。
【アビス】が広がる地は、夜になるとさらに暗くなり飛行困難になる。
だから最終便は早めに設定されているのだ。
名残惜しいけど、帰らなきゃ。
駅のホームに向かうと、見覚えのある女性がいた。
「あれ? あの人、斉藤先生じゃない?」
「本当だ。先生だ」
「確かにいるわね」
アリスが指差した先にいたのは、搭乗の列に並ぶ斉藤先生。休日だし、きっと気分転換に来ていたのだろう。
声をかけようとするアリステラを、私とお兄ちゃんは慌てて止めた。
「なんでよ!」と不満そうだったけど、休日に生徒から話しかけられて喜ぶ先生なんて、そうそういない。
そんなものは漫画やドラマだけの話なのだ。
『まあ。これラノベの世界なんだけどな』
大樹が魂の中でツッコミを入れてきたけど、私たちにとってはこれが現実だ。
斉藤先生がチラッとこちらを見た気もしたけど、騒がしくしていたから気づかれたのかもしれない。
なんだか申し訳なかった。
そのまま私たちは飛行船に乗り込み、帰路につく。
今日は本当に楽しかった。
桜庭の駅でアリステラと別れ、家までの帰り道はお兄ちゃんと2人きりだった。
「また遊びに出かけられたらいいね?」
「はは。何言ってんだよ鈴。これからもっと色んなとこに遊びに行くぞ? だってアリスのやつ、次は海だ!って張り切ってたからな」
「海か〜。海も行ったことないよね。水着探しておかなきゃ」
私はお兄ちゃんの手を握った。
嫌がられるかと思ったけど、離されることなく、むしろ握り返してくれた。
これからも、こんな楽しい日々が続いたらいいな。
そう願いながら家路を進んだ。
『……』
魂の中で、大樹こと俺は考えていた。
あの火凛と水樹の襲撃。あれは偶然か? いや、そんなはずはない。
つけられた様子もなかったし、あの場所は【ゲート】から数キロ離れていた。そう簡単に居場所がバレるはずがない。
誰かが俺たちの動きを見ていた?
だとすれば、一体誰が……。
心当たりは1人だけいる。
だが今考えすぎれば、鈴芽ちゃんに気づかれてしまう。
せっかく楽しんでいるのに、水を差すわけにはいかない。
今はよそう。まだ確証もないのだから。
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