33話 お出掛け
翌朝、部屋の中で最初に目覚めたのは鈴芽だった。
カーテン越しに日の光が目に差し込み、むくりと体を起き上がらせる。
「んー!よく寝た〜」
昨夜は遅くまで大樹と茜談義に費やした。
あいつの話に出てくる茜さんはほんと破天荒で、私にはない魅力が沢山あって憧れの存在となった。
特に良いなと思ったのは、自分の気持ちに素直なところだ。大樹はそこが鬱陶しいと言っていたが、私からすれば言いたいことを遠慮なく言える彼女が羨ましい。
自分もそうあれたらどれだけいいのか。
そう思いながらベッドから降りる。
今日は土曜日。
学校も休みの日だ。
昨日の疲れもあることだから一日中寝て過ごすのも悪くないかも。
パジャマ姿のまま居間に向かうと、そこには他所行きの服を着たお兄ちゃんとアリステラが居た。
あーはいはい。忘れてました。デートでしょデート。
昨日あんなことあったから忘れてたけど元はと言えばこの2人がデートするって現実から逃げるために【アビス】に行ったのが運の尽きだったんだよね。
お兄ちゃんはもうアリスと付き合うのだろう。そう思うと悲しくはあるが仕方ない。だってアリススタイル良いし優しいもんね。
「2人ともお幸せに」
「何言ってんだ鈴。早く支度しろよ? 出掛けるぞ」
「そうよ鈴芽! 今日は私達と一緒に遊ぶんだから早く準備してよ! お弁当も作ったんだから!」
「ふぇ? 遊ぶ? 私が2人と?」
私は自分と2人を指さしながらキョトンとした顔で聞いた。
2人はそう言ってんだろ?と言ったように頷く。
「あれ? 2人は付き合い始めてデートに行くんじゃ……」
「な、ななな何言ってんだよ鈴! 俺がアリスとデデデデートなんか――」
「するわけないでしょ〜! 何で私がこんな奴と付き合うことになってるのよ! 私は鈴芽一筋なんだから!」
そう言ってアリステラが私に抱きついた。
お兄ちゃんはアリスの発言にガックリと肩を落としている。
あれはなんていうか、本人から意識してませんって発言された事による。なんか勝手に振られちゃった現象だ。
『可哀想なお兄ちゃん。でも良かったな鈴芽ちゃん!』
『大樹! あんた起きたの?』
『おう。今しがたな。 昨日はよく眠れたか?』
『うん! バッチしよ! 昨日は……その……ありがとね? 長い時間私と話してくれて』
『鈴芽ちゃん……』
『で、でも勘違いしないでよね! あくまで昨日はあんたに沢山お世話になったから感謝してるだけなんだから! べ、別にあんたの事を好きになったわけじゃないんだからね!』
『はいはい。鈴芽ちゃんは今日もツンデレかわちいですね〜』
『もー!』
でも太樹がいてくれて私は助かった。昨日の2人の襲撃も私だけじゃ絶対死んでただろうし、夜遅くまで付き合ってくれた事には感謝してる。
それは口には恥ずかしくて出来ないけど。同じ体を共有してるならきっと分かってくれてるわよね?
「鈴? どうした? またボーッとして……。まさか! まだ何処か痛むのか!?」
「そうなの!? 鈴芽大丈夫!?」
『おっと。俺と話しすぎて2人に心配かけてしまったぞ。俺の事はほっといて遊んでおいで? 今日は表に出ないからさ』
そう言って待機の意識がどこかに行ってしまった。
多分魂の奥深くまで潜ったのだろう。
気を遣ってくれたのだろう。
街で大樹へのお土産も買ってあげよう。
大樹からすれば私達の世界の当たり前のものが夢にまで見たものだらけなんだしね。
「鈴?」
「ごめんごめん。ちょっと急な事だから驚いちゃった。お出掛けね! もちろん行く! 今すぐ準備してくる!」
そう言って私は部屋に急いで戻った。
久しぶりのお出掛けだ! そう言えば最後にお兄ちゃんとお出かけしたのはいつだろ?
屋敷を出てから一度も無いかも。そうなると3年振りになるのかな? んふふ。 なら今日はめいいっぱい楽しまなきゃね? 何着て行こうかな〜?
クローゼットに閉まった服を選ぶ。
2人を待たせるのは忍びないから手早く選ばないといけない。
そう分かっていてもお兄ちゃんと初めての友達とのお出かけなんだもん。あ〜。迷っちゃうわね〜。
――――――――――――――――――――――
服選びに30分掛けてしまい家を出たのは11時過ぎだった。本当ならもっと早く出れたところを私の優柔不断さが出発を遅らせた事に申し訳ないと思う。
だけど2人はそんな私を快く許してくれた。
むしろ時間かけてくれた方が良かったとアリステラが言った。何故なら……。
「鈴芽〜。その服ちょ〜似合ってる! KAWAIIってやつでしょ! 抱きしめていい? てか抱きしめさせて〜!」
抱きつくほどアリステラから絶賛される私が選んだ服はピンクのオフショルワンピース。袖とスカートがふんわりして可愛い印象を受けるデザイン。
ちょっと恥ずかしいけど今日は張り切ってみちゃった。
「ど、どうかな? 似合ってる? お兄ちゃん」
「ん? あー似合ってるよ似合ってる。鈴はいつも可愛いな〜」
どこか投げやりなお兄ちゃんの返事に私はガックリと肩を落とした。もう少し真面目に見て欲しかったのに……。
「ふんだ。 別にお兄ちゃんのために選んだんじゃないもん! 私が着たくて選んだんだし! お兄ちゃんの反応がしょぼくても私はちっっっっっとも! ガッカリしてないし!」
「な、何を怒ってんだよ? 俺なんか変なこと言ったか? なあアリス?」
「はあ。雪也。流石にそれはないわ。 今のはないわ〜」
「アリスまで!? 俺なんか間違ったか? なあ。おい!」
この場で私の心を理解してくれてるのはアリステラだけらしい。
ちょっとだけ、アリスに対して好感が上がる鈴芽。彼女ならいろんな相談にも乗ってくれそうだ。なにより優しいし。
「馬鹿な雪也はほっといて先行きましょ! ほら鈴芽行くわよ!」
そう手を握るアリステラ。
ここまで良くしてくれる彼女に私はもう少し心を開いてみても良いかもしれない。
「ア、アリス!」
「なに鈴芽? どっか行きたい場所でもあるの?」
「い、いや。ちがくて。そ、その……。あのね?」
ここまで来て、勇気が出せない。私の意気地なし! パッと言っちゃえば良いだけなのに!
『自分の好きなようにやるんだよ。鈴芽ちゃん。大丈夫。アリスなら君の考えてることを喜んでくれるはずさ』
魂の奥に潜っていたはずの大樹がそう言った。
私は大樹の言葉に勇気をもらい、意を決してアリステラに顔を向けた。
「私の事! 鈴って呼んでいいよ! ア、アリスになら……。そう呼ばれても良いって思ったから……」
言った。最後の方は何だか自信がなくなっちゃったけど言ったわよ! 見てた? 大樹! 私言えたわよ!
『見てたよ! よく頑張ったね! さすが俺の愛した推しキャラだぜ!』
ここに肉体があればグッドサインを掲げていそうな勢いで大樹が言った。
目の前にいるアリステラに、恐る恐る視線を上げると、彼女はプルプルと震えて、
「鈴芽〜!! いや。鈴! 嬉しいわ! 私あなたの事もっと好きになっちゃった! あ〜! 私にもこんな可愛い妹が欲しかった〜! いや。妹じゃないからこそ鈴をお嫁さんに迎えることが出来るんだわ……。あーん!これって運命よね!」
なんだかすごいこと言っちゃってるけど、喜んでくれてるみたいで良かった。
初めてお兄ちゃん以外に鈴って呼ばれるんだ。
えへへ。なんだか。くすぐったいや。
「じゃあ鈴!先を急ぐわよ! 今日は行くところが沢山あるんだから〜!」
「お、おー!」
「ちょっと待ってくれよ! 俺も居るんですけど〜!!」
アリステラと鈴芽が手を繋ぎ先を走り、お兄ちゃんは遅れて後を追う。
そんな3人のお出掛けは始まったばかりだ。
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