32話 妹
【アビス】での水稀と火凛の襲撃を退けてから、お兄ちゃんとアリステラと一緒に家に向かう道中。
魂の中の鈴芽は思い悩んでいた。
またお兄ちゃんに迷惑をかけちゃった。それだけじゃなく、今回は大樹にアリスにまで……。
私が生きているから。お兄ちゃんのそばに居るから。
これからもずっとこんなことが続くのかな?
そう考えるとすごく胸が締め付けられる。
『鈴芽ちゃんは悪くない。悪いのはこんな仕打ちをする九条家だよ』
同じ肉体を共有する大樹が私の気持ちにいち早く気づいた。彼からすると、突然胸が締め付けられる苦しみを味わったのだから気になってしまうのは当然の事だ。
『それに多分お兄ちゃん。雪也も鈴芽ちゃんの事を助けたのを迷惑だなんて思ってないって。だから気にしない方がいい』
『でも、私が居なかったら家を出ることも無かったし、今よりも強くなってたはず。それは事実でしょ? もう嫌……。もうこれ以上私のせいでお兄ちゃんに迷惑をかけるのは嫌……』
そう思うと大樹が動かす肉体に涙が流れた。
魂の中の私の感情が溢れてしまっている。
その感情の大きさに大樹が飲まれ、肉体の主導権が強制的に私に切り替わってしまった。
「鈴芽? どうしたの?」
私の涙に隣を歩くアリステラが気付いた。
恥ずかしさから必死に涙を拭うも、溢れる悲しみを止めることはできない。
「鈴?」
アリステラの言葉に前を歩くお兄ちゃんが振り返った。
心配した様子のお兄ちゃんは私のそばまで戻ってくる。
「さっきの戦いでどこか痛むところがあるのか?」
顔に火凛から受けた蹴りの痛みはもう無い。
魔力が衝撃を和らげてくれていたから。
今1番痛いのは心だった。
でもそれを口にするとよりお兄ちゃんとアリステラを心配させてしまう。
そう思うと素直に口にする事ができなかった。
「なんでもない! なんでもないからこっち見ないでよ」
「鈴……」
お兄ちゃんが困った顔を浮かべてしまった。
心配してくれているのは嬉しい。でもそれと同じくらいどうしようもない気持ちになる。
アリステラもどうしたら良いか困ったように俯いてしまっている。
私は涙を拭いて2人より前に進んだ。
「そんな顔しないでよ2人とも! ほら早く帰ろ? 今日はもう疲れちゃった」
振り返らずそう言って前を進んだ。
私の為にこれ以上迷惑はかけられない。
今は帰る事に集中しなきゃ。
「そうだな。アリス行こう」
「う、うん。鈴芽がそういうなら」
2人は頷き歩き出した。
これ以上私の事を心配する素振りを2人は見せなかった。
きっと気を遣ってくれたのだと分かっていた。
でも今はそれが何よりもありがたい。
じゃなきゃ私は罪悪感で自分を許せなくなるだろうから……。
――――――――――――――――――――――
家に着くなり、鈴芽は部屋に向かって眠りについた。
相当疲れが溜まっていたのだろう。
雪也とアリステラは部屋に向かう鈴芽を笑顔で見送り、居間で机を囲み座っていた。
「鈴芽。辛そうだったわね」
アリステラが俯きながらそう呟いた。
まだ数日しか共に過ごしてないにも関わらず彼女は鈴芽の事を友達としてよく見てくれている。
兄として俺は本当に嬉しかった。
「許せないわ。あんな優しい鈴芽を殺そうとするなんて!」
「そうだな。俺も許せない。今までも腹が立つことは何度もあったけど、今回はそんな比じゃないぐらいにな」
だとしても今の俺に九条家をどうにかする力はない。
火凛相手にすらギリギリだった。
家にはまだまだ現役ウィザードが沢山いる。
より強いウィザードも……。
強くならないと。
そう心に決めるが、今はそれよりも鈴芽の気分を晴らしてやらなきゃな。
「アリス。この前話した事だけどさ」
俺は鈴芽がいない時にアリステラと計画してた内容を切り出した。
「あ。明日のこと?」
「ああ。元々は新しい環境で疲れてるだろう鈴を労う目的で考えたアレだけど。今回の事でかなり落ち込んでいるようだったし、計画を見直したいんだ」
「そうね。良いわよ。そういう事なら話に乗ってあげる! 鈴芽はもう私の大事な友達なんだから!」
アリステラがニカッと笑顔を向けた。
彼女が鈴芽の事で一緒に考えてくれるのはありがたい。
俺1人だとどうしても限界があったからな。
彼女も一緒なら同じ女性でしか気付けない悩みも、何とかなる。
「そう言ってくれて兄として嬉しい限りだよ。じゃあ考え直すか。明日の3人で遊びに行くプランを」
「よしきた! 何から見直す?」
そうして俺とアリスは明日の予定について話し合った。
元々鈴芽には放課後にこの話をするつもりだったけど飛び出して行ってしまったから未だ伝えられていない。
まあちょっとしたサプライズにはなってしまうが、多分鈴なら喜んでくれるだろう。
――――――――――――――――――――――
場所は変わり鈴芽の部屋。
テディベアや可愛らしいウサギのぬいぐるみが部屋を彩る年相応の少女らしい部屋は暗く、鈴芽は布団に篭って泣いていた。
帰り道では2人に弱った姿を見せまいと振る舞っていたが、部屋に入ると我慢の限界を迎え、嗚咽を漏らしながら布団にくるまってしまった。
『鈴芽ちゃん……』
魂の中から俺はどう言葉をかけたら良いか悩んだ。
推しキャラとは言え、泣いてる14歳の子を励ます適切な言葉を独身の冴えないおっさんが掛けれるはずがないだろ?
だけどそれでも必死に今の鈴芽が元気になれる言葉を考える。
だって悲しくて泣いてる推しキャラを見るのは嫌だからな。
『今回は後手に回ってしまったけど、気にしない方がいいって!な?』
と言って気にしない子が何処にいるだろうか。
俺が必死に悩んで出した言葉がコレという事実に悲しくなる。
こんな事なら茜にもっと女の子の励まし方を聞いておくんだった。
今は懐かしい山賊系妹のガサツな姿を思い出す。
てかあいつに女の子の励まし方が分かるか?
酒瓶片手に鼻くそをほじるようなおっさんみたいな奴だぞ? ないか。
そう記憶の茜を想起すると、泣いていた鈴芽がプッと笑った。
『今のあんたの中で思い描いた人が茜さん?』
記憶を共有する鈴芽は茜の存在は認知していたが、姿までは知らなかったようだ。今俺が茜の姿を想像した事で鈴芽の中でもガサツな山賊妹のイメージが湧いて出たらしい。
『そうだよ。今、思い出したのが超オヤジ臭い妹の茜だ!』
『あはは。凄いわね。本当に酒瓶を片手に持ってた。想像以上の人で面白いわ。ねえ? 茜さんについてもっと教えてよ? あんたにとってさ。茜さんってどんな妹だったの?』
鈴芽が茜に興味を持ってくれた。
どう励ますか困っていた俺にとっちゃ有難い提案だった。
今日この日ほどあの妹に感謝した日はない。
サンキュー! 茜!
『そうだな〜。茜は俺の理想の妹とは程遠いガサツな奴だったよ。毎日毎日酒を飲んでは、ガハハと笑ってさ。上品って言葉からかけ離れてたよ』
そう俺も思い出しながら話す。
もう二度と会う事ができない血のつながっていない妹の姿を。
『俺の事をお兄ちゃんって呼んでくれなくてさ。いっつも大輝大樹って呼び捨てにしやがって。少しは鈴芽ちゃんみたいにお兄ちゃんって呼んでくれたら幾分か可愛く見えたってのに』
あの頃は鬱陶しく感じた茜の存在を今は恋しく思う。
もう会えない妹の姿を鮮明に思い出すたび、目に涙が込み上げてくる。
『でもあんたにとっては大事な妹だったのね?』
鈴芽が俺の感情に気づいてそう言った。
そうか。俺はあんな茜でも大事に思っていたのか。
そりゃそうだよな。あんなガサツな奴とはいえ、俺にとっては大事な家族だったんだから。
『でもさでもさ? 俺の事を毎日馬鹿にしてくるんだぞ? もっと兄を敬えよって何度も思った事か……。でもそうだな。鈴芽ちゃんのいう通り、あんなでも俺の妹だったんだよ』
毎日毎日、根暗な生活を送る俺に話しかけてきては笑ってくれた。
俺が仕事でミスした時も、一緒に酒を飲んで悩みを聞いてくれた。
友達の少ない俺にとっちゃ、まるで親友のような存在だった。側からいなくなって初めて気づいた。
俺は茜に何度も救われてたんだな。
『でも下ネタはないわよね! ははは!』
鈴芽が俺の記憶から下ネタで盛り上がる茜の姿を取り上げて笑った。
『だよなだよな! あれは流石に兄として反応に困るってもんよ! 鈴芽ちゃんはあんな風になっちゃいけないよ?』
『えー。私からすればかっこいい人だからちょっと憧れちゃうんだけどな』
『どこが!?』
俺は本気であれのどこに憧れる要素があるか分からなかった。でもそんな茜を鈴芽が憧れると言って機嫌を取り戻してくれたようだ。
『だってさ。落ち込んだあんたを元気付けたり、毎日元気に話しかけたりさ。私にはできない事、茜さんは平気でやってたんでしょ。それって凄いかっこいいことよ。私茜さんみたいにかっこいい女性になりたい!』
俺はその言葉がたまらなく嬉しかった。
あんなガサツな妹でも誰かの励みになっている事に。
またお前に助けられたよ茜。
お前は元気か?
俺は大変な目に遭っているけど何とか生きているよ。
そう山賊妹に想いを馳せながら、俺と鈴芽は茜について詳しく話し合った。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




