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3話 現状理解

 決心した俺は早速街に繰り出し、ラノベで知っている内容と相違がないか確かめることにした。



 確かここは日本の架空の街、桜場という、本来は壁ではなく山に囲まれた街だ。



 ここだけでなく世界各地で局所的に出現した次元の裂け目から、各街は壁で囲まれ、街から街への移動は空路のみに限定された。



 壁の中は基本平和なもので、街行く人々は買い物を楽しんだり仕事に励んでいる。



 設定でも街へ侵略する描写は少なかった。なら、いきなりハードコアな世界観になることはないだろう。元々ラブコメだしな。

 


 にしても体が軽い。30代のおっさんボディから10代の少女に転生したこともあるだろうが、鈴芽は戦機と呼ばれる学生であることから鍛えられた肉体と、魔力が備わっている。



 魔力があるからといって魔法が使えるわけではない。この世界の魔力は特別な力を発揮するだけのエネルギーだ。



 これを持つ者だけが【エリミネーター】と戦うことが出来る。



 まあ、学校に行けばそこの所は詳しく聞けるだろう。



 それよりも俺がまず鈴芽の為にやらなきゃならん事は、メインヒロイン達の存在だ。



 スマホを見ると今は50XX年の5月18日……原作シナリオでは明日に雪也のクラスに転校生がやって来るはずだ。



 メインヒロイン――原作でも一番人気のあったキャラ。アリステラ・バーンズウッド。



 灼熱色の赤い髪、豊満な胸と引き締まった体。架空の外国、ドラゴニスの貴族令嬢。



 雪也の側に常に着き、ピンチの度に力を貸す彼女はまさにメインヒロイン……正妻ポジションだ。



 かく言う俺も鈴芽の次に好きなキャラだ。それ程までに人が良い。というか、面倒見がいい上に頼り甲斐があるんだ!



 だけど今の俺は鈴芽だ! そんな誰もが愛するメインヒロインを蹴散らして正妻の座を奪わなければならない!!

 妹だけどね……

 


「はいコロッケ、鈴ちゃん。熱いから気をつけてな?」


「ありがと! おじさん!」



 精肉店の店主から揚げたてコロッケを購入し、口一杯に頬張る。



 やはり設定通り鈴芽は街の住人に親しまれるキャラのままだ。これは利用できる最大の武器……メインヒロインにはなくて鈴芽にだけ与えられた特権だ。



「でもやっぱり中学生と高校生の差はデカいわよね〜」



 近くの公園に立ち寄り、ベンチに座りながら2つ目のコロッケを頬張る。



 そう、中学と高校は違う場所にある。つまり平日かつ日中はメインヒロインと雪也の距離が近づいてしまう……



 干渉できない、目で追えないメインイベントだ。

 何とかして距離を縮めるのを阻止しないといけない……だけど大事なのは“此処がただのラブコメ世界じゃない”ことだ。



 そう、最初に話した【エリミネーター】だ。あいつらと戦って生き残る為にはメインヒロインと雪也の共闘は必要不可欠。



 つまり雪也がメインヒロイン達に対して無関心だと、バッドエンド待ったなしなんだよな。



 好感度を最大にして維持しつつ、他のヒロインの好感度を俺より下に保ち続け、【エリミネーター】を排除する。



 それが俺に残された唯一の攻略手段……妹キャラじゃなければ好感度をマックスにして即告白で終わるんだが……



 いかんせん実妹だしな……好感度マックス程度じゃ足りない……振り切らなければ。雪也が俺を愛して愛してやまないほどまでに!



「ふっ。前世の駄妹――棗を見ていて助かったわ。お陰でお兄ちゃんにやっちゃいけない妹像と、理想の妹像を養うことが出来たんだから!」



 初めてお前に感謝するぜ……山賊妹よ。てかお前は生きてんの? 流石に俺と同じように死んでたら悲しいんだけど……生き残ってくれてるといいな。



 生きてたとしたら今頃、俺の葬式で泣いたりしてくれてんのかな?



 そう思うと少し寂しさが込み上げてくるな……いかんいかん! もう過ぎた話だ! 棗ならきっと俺の棺桶の前で酒を浴びるように飲んでるはずだ!



「さて……街の様子も見れたし、最後に気になってたあそこに行くとしますか」



 そう思い俺は街の坂を上がり、大好きな雪也お兄ちゃんの通う【東京第三戦闘高等学校――アルケミー】に到着した。



 国立の戦機専門学校。女子しか入学できない女子校に、唯一の男・雪也は通っている。



 今思うとメインヒロインばかり気に掛けていたが、普通に考えると一般女子生徒に囲まれたハーレム状態なのか……



「ま、お兄ちゃんに限ってそんな節操無しな事しないわよね」

 


 さっきから気になっていたが、脳内で考えている事を口に出すと勝手に鈴芽口調に変換されてるな。



 おかげでボロが出なくていいんだけどな。



 目の前の学校をよく見ると、綺麗な校舎に広いグラウンド。普通の学校の5倍は広い。

 


 設定だと、あのグラウンドで戦機実習と呼ばれる模擬戦授業が行われるはずだ。



「戦機ね……」



 戦機――己が魔力に合わせて製造された武器。雪也が刀で、鈴芽がレイピアだ。



 攻撃力に欠けるが、スピードが高く、状況に応じたサポートが得意な武器だ。



 なんとかしてここも強化しないとな。



 原作で出番が減ってしまったのは人気がないからではなく、単純に鈴芽の力では戦闘についていけなくなったからだ。



 つまり強くなれば出番が増えていたはずなんだ。強化イベントが無かっただけでな!



 なんでメインヒロイン達には過去と向き合う強化イベントがあったのに、この子だけは無かったんだ! 推しキャラにフォーカスを当てた話を俺はずっと待ってたのに!!



 無いなら自分で作るしかない!! 強化イベントを!!

 


 イベントがないってことは、逆に考えればいつでも強くなれるということだ!



 メインヒロイン達が恋愛シミュレーションゲーム感覚で強くなるのに対して、俺はRPGみたいに着実に強くなれば良い!



「ふふん! なら明日学校に行ったら早速自己鍛錬ね! 待ってなさいよ! 最初のメインヒロイン、アリステラ・バーンズウッド!! 貴方に恨みは無いけど、私の為にお兄ちゃんの正妻ポジションからリタイアしてもらうわよ!」


「私が何?」


「え……」



 振り返るとそこには、宿敵――アリステラ・バーンズウッドが立っていた。



 そう、俺は失念していたのだ。



 原作に描写がないからといって、全てが同じなわけがなかった……



 転校前の手続き……あるよね〜。



 そうして思いもよらない宿敵との出会いを、主人公より早く成し遂げた鈴芽だった。

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