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29話 限界と助け

 火凛と水稀の攻撃は鮮烈さを増し、刀を一振りすれば風がなびき、辺りの廃墟を軽く切った豆腐のように両断していく。



 そんな2人の連携を俺は必死に躱し、レイピアで絡め取りながら軌道を逸らす。

 気を抜けばまたあの世行きコースの、ギリギリの綱渡りを強要される。



 冷や汗全開で逃げ続ける俺に、2人は苛立ちの表情を浮かべているのが見える。



「この! ちゃんと戦いなさいよ!」


「この臆病者! 負け犬! 恥知らず!」



 九条家トップレベルと呼ばれる彼女達が、子供のような罵声しか吐けていないことに俺は少し愉悦感に浸る。



 てか誰が真正面から戦うもんか!

 馬鹿か? 自力で負けてるんだぞ? お前らに優ってる部分がスピードしかないのに、どうやって撃ち合えってんだよ!



「くそお!」



 今まで華麗な剣技を見せていた水稀が、とうとう痺れを切らし強引に刀を振るった。

 それは小さな隙。



 この高速戦闘の最中、ほんの小さな綻びに気づける者が居るとすれば、高速の世界で生きる者だけだろう。



 そう。俺と鈴芽ならね!



「見えた!!!」



 待ちに待った一瞬の隙。

 この一瞬を俺はずっと待っていた。



 真正面から撃ち合えないなら、隙を窺う。何度攻撃をされても躱し続けることで相手を焦らし、ストレスを与え続ける。



 その甲斐あって、直情的な水稀の精神はストレスに侵されたのだ。



 俺は水稀の抜き放った横薙ぎを掻い潜り、全力を注ぎレイピアで喉を突く。



 普通なら即死するはずの一撃だが、魔力量に長けたウィザードなら最悪でも気絶程度で済むだろう。



 最弱の放つ最強。今まで速度を高めたことで放つことが可能になった光の一撃。



「喉に隕石衝突級の威力を受けなさい! 水稀!!」


「しまっ――!」



 その突きが水稀の喉に突き当たると、衝撃の余波と空気が破裂する爆音が鳴り響いた。



 彼女の首がガクンと上にブレ、意識を刈り取ることができた。彼女は口を半開きにし、舌を垂れ下がらせた状態で白目を剥いていた。

 


 折角の美人が台無しである。

 まあこれはこれで一部のファン受けは良さそうだが……。



 『馬鹿なこと考えてないで次! 火凛姉さんがまだ居るのよ!』



 鈴芽の一喝にもう1人の刺客に目をやる。

 彼女は水稀がやられたことに少し表情を曇らせたが、瞬時に切り替え冷静さを取り戻していた。



 こういうところは実戦経験の多いウィザードらしいよな! 場数で言えば水稀よりも経験値が高いってか!

 

「馬鹿な水稀。油断して手を抜くから負けるのよ! だけど私は一切油断しないわ。あなたを1人の強者として全力で相手させてもらうから!」


「この真面目ちゃんめ!」



 火凛は1人になったことで、より激しく刀を振るってきた。

 2人で戦うより、動きやすくなったのだろう。

 その連続攻撃は名前通り火の如しって奴だ。



 だが目に負えないほどじゃない!

 彼女の剣線を目で捉え、レーザートラップを回避するように躱し続ける。



 いくら躱しても彼女の油断を誘うことはできなさそうと見た俺は、一旦大きく後ろに飛び退き距離を開ける。



「シューッ」と火凛は息を整え、「シッ」と鬼気迫る表情で俺に再接近を仕掛ける。



 俺は彼女が近づくまでの間にその場を回るように走り、円形状に幾つもの残像を作り上げた。



「また分身! なら……」



 火凛は刀を横に倒し、左手で峰をそーっと撫でた。

 すると撫でられた部分から炎が宿り、刀は炎で包まれた。



炎刀・迦具土(えんとう・かぐつち)……。まさかこの技を鈴芽、あなたに見せることになるなんてね」



 薄暗い【アビス】にポッと灯るその炎はおどろおどろしく見えた。

 水が滴るようにポタポタと炎が滴る様は、地獄から来た鬼のようだ。



 『まずいわよ。迦具土を使った姉さんは、今までの比じゃないくらい強い! 気をつけなさい!』


 『言われなくても分かってるよ!』



 火凛は炎を纏った刀を大きく横に振り、残像全てを焼き払った。



 そして残った1人。俺の肉体に距離を詰め、上段斬りで刀を振り下ろす。その一閃は炎の軌跡を描き、熱が鼻を掠めた。



 そんな眩しいほどに輝く炎に目を奪われていると、続く攻撃が横薙ぎに払われる。 



 眩しくて見えない! 目がチカチカする。それに呼吸も辛くなってきた。



 そう目を細めていると、顔の横から火凛の足蹴りが見事にヒットし、俺は横に吹っ飛ばされた。



 なんとか受け身を取り着地しながら彼女に目を向ける。

 頭と耳から血が流れ、先ほどの蹴りが耳に当たったのか、耳鳴りも響いていた。

 そんなダメージに俺は息を切らし始める。


 

 この2人と戦闘する前から体を動かし続けた弊害が現れ始めたのだ。



 いくら鍛えていたとしても、14歳の身の持久力なぞ大したものじゃない。



 それがこの緊迫した戦況から受けるプレッシャー。空気が熱で焼け、肺に入る酸素が焼け付く感覚で更に疲れは加速していく。



 軌道が見えない! これじゃレイピアで弾くことも出来ない!



 これでは火凛の独壇場だ。

 まだ本領を発揮していないにも関わらずこの実力。



 負けるのか? こんな所で。まだ何も鈴芽ちゃんにしてあげられてないのに? 嫌だ。まだ負けたくない! 嫌だ!!



 俺の思考がマイナスに染まり、そのプレッシャーから足をもつれさせてしまった。



「やばっ!」



 その俺の隙を火凛は見逃さない。

 彼女はただ冷静にその隙に対して最適な攻撃の体勢を取る。上段に構えた刀を袈裟に斬り下ろそうと動かした。



 死を覚悟し、目を瞑った瞬間!

 辺りが熱以外に、冷気を帯びた肌を刺す感覚に見舞われた。



「凍てつかせろ。氷鬼(ひょうき)


 その声が聞こえた途端、火凛の振るう刀が炎ごと氷に包まれ動きを封殺した。

 手首から凍らされた火凛は忌々しそうに辺りを見渡す。



「この攻撃は……雪也!」


「私もいるわよ! ドラグナート!!!」



 続く声が頭上から響いた。上を見るとアリステラがドラグナートを掲げながら振り下ろしてくるではないか。



 ドラグナートが振り下ろされると、莫大な魔力の塊が火凛の頭上から降ってくる。



「ちっ!」



 火凛は咄嗟に俺の傍から後退し、アリステラの攻撃を回避した。

 そして腕ごと凍った刀に魔力を注ぎ炎の火力を強め、溶かしていく。



 そうしている間に、アリステラと、スタッと着地した雪也お兄ちゃんが俺の両隣に降り立った。

 アリステラとお兄ちゃんの二人は、目の前で刀を握る火凛を睨む。



「俺の妹に何の用だ! 事と次第によっちゃ今この場でお前を殺す!」


「雪也の意見と同感! 大事な友達に何してくれちゃってんのよ!」


「雪也に、ドラゴニアの留学生か」



 お兄ちゃんは俺の血を流す姿を見て、唇をギュッと噛み締めた。



「答えろ! 九条火凛! 俺の妹をどうするつもりだ!!」



 初めて見るお兄ちゃんの怒りに俺は恐怖を感じた。

 原作でもここまでキレる描写はなかった。

 今のお兄ちゃんは怒りのままに火凛を殺してしまいそうな勢いを感じる。



 そんなお兄ちゃんに火凛は不敵に笑いながら答える。



「どうするもなにも。これはあなたの為なのよ? 雪也。 そこの出涸らしがアルケミーに進級した事で、これからあなたの傍にこいつが付き纏うことになるでしょ? それじゃあなたの成長が疎かになる。そう判断して九条家は鈴芽をあなたから引き離そうとしたのよ」


「引き離すって。なにも傷つける必要はないじゃない!」



 アリステラの訴えをお兄ちゃんは手で制した。



「アリス。こいつらは、はなから鈴を消すつもりなんだ。だからお前の言葉はこいつに響かない」


「そ、そんな。そんなことが許されるの?」


「それが九条家なんだ!」



 お兄ちゃんが叫ぶように強く言い放った。



 そう、これが九条家なんだ。

 アリステラはまだ知らないだろうが、家の為ならどんな事でもする。

 例えそれが血で染まった道であろうとも。



「俺の為なら。俺が今からやることも許してくれるよな? 火凛」



 そうお兄ちゃんは刀の刀身を撫でる。

 すると冷気を帯び始めていく。



「俺が代わりに相手になってやるよ。もちろん全力でお前を倒しにいくからな」



 そう言ってお兄ちゃんは地を蹴って駆け出した。

 妹の為、優しいお兄ちゃんは火凛に勝負を挑む。

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