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24話 対策を練らなきゃ

 彩芽に勝利してすぐ、俺はアルケミーまで走った。

戦機の力を使って走ったことで、ギリッギリ授業開始5分前に校門をくぐり抜けることができた。



 校庭で戦機を引っ込め、自力の全速力で校舎に入る。



 廊下を駆け抜け、すれ違う先生に注意されながらも「ごめんなさーい」と走りながら謝り、目的のクラスに到着できた。



「ま、間に合った〜」



 息を切らした俺は、ズサーッと教室の入り口前を滑り込みながら登場する。



 そんな俺をクラスのみんなは目を丸くして見てくる。転入1日目にしてギリギリ登校――どんな性格だと思われているのだろうか。



 好きで遅くなったわけじゃないから、多めに見てほしい。そう思っていると雪也お兄ちゃんがやって来た。



「鈴。お前、昨日夜更かししただろ。勉強熱心なのは良いとしても、あと少しでも遅れてたら遅刻確定だぞ。次は早く寝ることだな」


「ご、ごめんなさい」



 色々あって遅れかけたんだが、正直に話すと、お兄ちゃんに余計な負担をかけるかもしれない。

それに、お兄ちゃんの言う通り早く起きて一緒に登校していたら、あんな襲撃はなかったかもしれない。



 そんなことを考えながら謝ると、お兄ちゃんは「分かればよし」と頭を撫でてくれた。



 お兄ちゃんの大きな手の余韻に浸る間もなく、チャイムが鳴った。



 お兄ちゃんは手を頭から離し、「じゃあまた後でな」と席に帰っていく。



 俺も自分の席に向かい座ると、後ろの席の生徒から「間に合ってよかったね」と励まされた。



 俺は「本当、ギリギリなんとか助かったわ」と笑顔で答え、鞄を机の横に引っ掛ける。



 少しして斉藤先生が入室してきた。



 教壇に立った彼女は生徒達を見渡し、少し表情を強張らせたように見えた。




 俺だけが汗まみれなのを見て、遅刻しかけたことに思うところがあったのだろうか。

 そんな先生に申し訳なく思い、軽く会釈する。



 斉藤先生は、その会釈にため息を吐き、バインダーを開いてHRを始めた。



 朝っぱらから大変な目にあったけど、本番はこれからだ。ついていくのがやっとの授業を受けなければならない。



『ん……ん〜』



 魂の中でもう一つの人格がようやく目覚めた。



『やっと起きた! おはよう鈴芽ちゃん』


『おはよ……。って、なんか体がすっごく怠いんだけど。あんた何かした?』


『俺は何もしてないよ。まあ色々されたけど』


『どういうこと?』



 斉藤先生がHRで1日の予定を生徒に伝えている間、俺は鈴芽にさっきあったことを説明した。



 その話を聞いた鈴芽は『うそ……』と声を漏らした。



『今まで不感症だったのに、なんで今になって私に接触してくるのよ』


『鈴芽ちゃんの疑問ももっともだな。まあ、答えは一つしか心当たりないけど』


『それって、強化実習生に選ばれたことよね?』


『そうだと思う』



 昨日、叔母の茜に会って強化実習生に選ばれたと話したことが、実家に報告されたのだろう。



 本来はめでたいことのはずだが、自分たちが捨てた子供が強化実習生に選ばれる実力を持っていたとなれば、「見る目が無い連中」と周囲からレッテルを貼られることを嫌ったのだろう。



 古くから続く名門なだけに、プライドも高いのだ。



 もう一つあるとすれば、そんな俺と実家に不信感を抱くお兄ちゃんを一緒に過ごさせれば、妹想いなお兄ちゃんはより実家から距離を置くだろう。



 歴史上初の男性ウィザードを手放したくないと思って、鈴芽を始末する方向に舵を切った可能性もある。



『どっちにしろ、これからも九条家からの妨害はあるだろうな』


『そ、そんな……』



 動揺するのも無理はない。まだ14歳の鈴芽にとって、家族から命を狙われていると知らされれば気が気ではない。



『大丈夫。君にはお兄ちゃんとアリスがついてる。それに俺もな』


『そ、そうね。ありがと』



 少しでも励ましになっただろうか。そう考えているとHRは終わりを迎え、斉藤先生が数学の教科書を開き、1時間目の授業が始まりそうだった。



『じゃあここでバトンタッチさせてもらうね』


『えー』



 鈴芽が嫌そうに声を上げた。



『面倒くさがらない。授業はしっかり受けなさい!』



 大人として鈴芽に注意する。

 推しキャラ相手に苦難を強いるのは心苦しいが、許せ。



 あくまでこれは君の人生なのだから、君自身が身につけなきゃいけない知識なんだ。



『それっぽいこと言ってるけど、本当はあんた勉強するの嫌なだけなんでしょ?』



 ぐっ……。さすが運命共同体。俺の思考までしっかり見抜いてやがる。



 呆れた鈴芽は『まあ、あんたの言うことも確かよね』と言って教科書を開いた。



 そして授業は進む。特に問題も起きることなく、静かに――。


――――――――――――――――――――――


 今日の授業も全て終わり、下校時間になった。

 クラスメイト達は教科書をカバンに詰め、それぞれ友人を誘って遊びに出かけたり、部活動に向かったりしていく。



 そんな中、私にお兄ちゃんとアリスが一緒に帰ろうと誘いをかけてきた。


 私は喜んで受けようとしたが、



『ごめんよ、鈴芽ちゃん。今日は1人で帰るって断ってくれ』



 大樹が申し訳なさそうにそう呟いた。



『はあ? なんでよ。私とお兄ちゃんの仲を取り持つって言っておきながら、一緒に帰っちゃダメって? 言ってることが滅茶苦茶じゃない』


『わ、分かってる。でも朝のこともあるし、今のまま新手に襲われたら勝ち続ける自信は俺にもないんだ。今日は俺の言うとおりにしてくれないか? 頼むよ』



 こいつは、お兄ちゃんと私をくっつけるために力を尽くすと言ってくれた。

 その気持ちに嘘偽りがないことは、魂を共有しているから分かっている。



 そんなこいつが「やめておけ」と言うほどの事態。

 それは私が思っているより深刻なのかもしれない。



『分かったわ。その代わり、何をするのかあとで聞かせなさいよね』


『もちろんだよ。本当にごめんな、鈴芽ちゃん』



 私はお兄ちゃんとアリステラに「今日は別の用事があるから1人で帰る」と告げた。



 お兄ちゃんは「分かった」と言ってくれたが、アリステラはムッと頬を膨らませた。

 一緒に帰りたかったらしいけど、今日は許してほしい。



 お兄ちゃんが膨れるアリステラを「まあまあ」となだめてくれた。



「じゃあ、先に帰ってるからな鈴」


「うん。アリスもまた明日」


「ええ。また明日ね」



 2人は先に教室を出た。

 それを小さく手を振って見送り、大樹に目的を聞く。



『で? 何するのよ?』


『何するも何も、昨日話したろ?』


 

 昨日――つまりトレーニングだ。


『じゃあ、もしかして今から?』


『うん。次元の裂け目に行くぞ』



 そう言って私は大樹に体を譲り、次元の裂け目のあるゲートへと向かうことにした。

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