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23話 九条彩芽

 鈴芽に勝てると言うだけあって、この彩芽という女。実力も当たり前のように高く、光速で動く俺の速度に対して攻撃を着実に届かせてくる。

 


 俺はそれでも走り、彩芽の隙をつこうと接近を試みるも、彼女の抜き放つ居合の一閃を回避するので精一杯だった。



 こんなキャラが居たのかよ!! 信じられねえ! 光の速さだぞ! なんでこうも簡単に捉えられるんだ!



 こうして考えてる瞬間も、彼女の攻撃は続く。全て首元を狙った正確無比な攻撃に冷や汗をかく。



 スンっと冷めた目で俺を見る彩芽から、確実に殺しにきていることだけは理解できた。

 


 そんな近づいては迎撃され、紙一重で回避といった流れを繰り返していると、不意に疑問が湧いてくる。



 なんでこいつは自分から攻めてこないんだ?



 正確に俺を攻撃できる手段があるにも関わらず、一定の場所から動かず、俺が近づいた時だけの反撃に徹している。



 そこに何か攻略の糸口があるはずだ。考えろ。



 そうして俺は蓄えた原作知識をフルで思い出す。



 そんな俺は考えるあまり攻め手を緩めてしまっていたようで、彩芽が挑発してくる。



「手が止まったわね? 私の力に対抗する手段がないと諦めたようね!」



 彼女はまた鞘に刀を納める。



 俺の動向を探っているのか? いや、もしかすると待っているのか? 俺が近づくのを。



 そんな彼女の周りを走りながら考える。



 確か原作の戦機には大まかに2つのジャンルで構成された能力がある。



 1つは自己強化系。これは九条家に伝わる刀の能力が多く保有している。

 筋力、速度、反射神経、耐久性、魔力の強化が主だ。



 刀に関しては全ての能力が底上げされる。だから柔軟な対応力、攻撃力に優れ、場面によって腐ることはない。



 2つ目に、技系。アリステラのドラグナートのような一撃必殺級の技を備えているもの。



 スペックは使用者の元々の身体能力に左右されるが、保有する技に合わせて鍛えれば絶大な威力を放つことができる。



 だが、これは場面によっては腐る。アリステラのドラゴンブレスがいい例だろう。

 多数相手にはめっぽう強いが、タイマンだとあの範囲攻撃は過剰すぎるほどの破壊力だ。



 それならコンパクトに攻めることができる技の方が戦いやすい。まあその逆も然りなんだが。



 この2つのジャンルで分けると俺こと鈴芽の戦機は自己強化系。そして問題の彩芽の戦機だが……。刀に惑わされたが、もしかすると技系なのかもしれない。



 そうと見せかけて自己強化系というブラフの可能性もあるが……。



 だが自信はある。最初に俺が奴に攻撃を仕掛けた時、奴は反応しきれていなかった。にも関わらず反撃ができていた。



 普通だと目で追うか、首を動かすぐらいはするはずだ。それなのに奴は手だけ動かして対応してみせた。



 なら技系の可能性に俺は賭ける!



 それに今までの攻撃で条件は見えてきたしな!



 考えがまとまった俺は彩芽に向かって速度を上げる。



「何回やっても結果は同じよ!」


「それはどうかしらね!」



 接近してレイピアを彩芽の喉元に向けて放つが、居合斬りで弾かれた。

 続いて左足で上段蹴りを放つが、これも柄をぶつけられ塞がれた。



 一見達人の技術にも見えるが、俺は見逃さなかった。



 彼女の視線は最初の一撃目、レイピアを向いたまま2撃目には一切反応していないことに。



 刹那の攻防。ライトニングスパローの能力がなければ気付かなかっただろう違和感。



 俺はニヤリと笑い、彩芽から距離をとる。



「分かっちゃった。あなたの戦機の能力が」



 そう言うと彩芽は眉をぴくりと動かした。



「何が分かったですって? 私の戦機・烏丸は刀の自己強化型よ。九条家の戦機なんだから、当然でしょ?」


「そう思いたいのよね? 彩芽」



 そう言い返すと、彩芽はあからさまに嫌そうな顔を浮かべた。



 その反応からもう答えを言ってるようなもんだぞ? 九条家のエリートならポーカーフェイスの一つや二つ身につけとけよな。



「私の戦機が刀型じゃないって言いたい訳?」


「いいえ。そんな事ないわ。間違いなく見た目は刀型よね? でも中身が違う。でしょ?」


「誰が! お前なんかに話すものか!」



 触れてはいけない領域に触れたようで彩芽は激怒したように刀を鞘に納めて構える。



 次の俺の接近でトドメを刺すつもりなのか、そんな気迫を今の彼女から感じた。



「そんなに疑うなら実力で証明して見せなさい! と言っても? 出涸らしのお前に私を倒すことなんて不可能でしょうけどね!」



 彼女は笑う。俺を、鈴芽を馬鹿にするかのように。



「だってそうでしょ! 九条家に望まれない子で惨めな戦機! 特別頭がいいわけでも、能力が高いわけでもない! アバズレの子供のお前に正当な血を引いた私が負けるはずがないんだもの!」


「うるせえな……」



 推しキャラを貶された俺の怒りは頂点に達した。



 気付けば鈴芽らしい口調で話すことを忘れて素の俺の話し方になってしまっている。



 そんな俺の、鈴芽の急激な変化に彩芽は一瞬たじろいだ。



「な、なによ……。そんな怖い話し方になっても何も変わらないわよ! 出涸らし!」


「うるせえっつってんだろうがッ!」


「なっ……」



 もう我慢の限界だ。出涸らし出涸らし。口を開けば飽きもせずその言葉ばかり。



「もういい。今から証明してやるよ。お前が言ったように実力でな」



 レイピアを振って、彩芽に歩みを進める。

 走る必要はもうない。タネは大体割れた。



 ゆっくり歩み寄る俺に彩芽は、ははっと笑い、



「実力で証明してやるですって? やってみなさいよ! どうせ死ぬのはお前の方でしょうけどね! 烏丸!」



 風が彼女から発せられ髪が靡く。



 魔力を強めたんだろう。彼女の纏う魔力がさっきよりも濃く感じる。



 本気だ。本気で終わらせるつもりだ。

 だがそれは俺だって同じだ!



 俺は鈴芽の体内に眠る魔力に意識を注ぎ力を強める。



 瞬間、先ほど彩芽の放った衝撃波と同じように辺りに拡散した。



「行くぞ。彩芽。いい歳して泣く準備はできてるだろうな?」


「言ってなさい。出涸らし!」



 この掛け合いを口火に俺は駆け出し彩芽の眼前まで迫った。



 彼女は俺に居合斬りを放つ。正確に首を狙った一閃。



 これを屈んで躱しレイピアで攻撃を仕掛ける。



 当たり前のように刀で弾かれるが、俺は止まらない。弾かれ、攻撃、また弾かれては攻撃を繰り返す。



「あははは! やっぱりダメじゃない! ほらね? お前の攻撃は一生私に届くことはないのよ! 諦めて死んだらどうなの?」



 俺の攻撃を弾き続ける事で実力差は自分が上と確信したようだ。

 だがこいつは決定的に勘違いしている。



「気づいてないのか?」


「は? 何に?」


「さっきからお前は俺の攻撃を弾くだけで攻撃に転じられてないことにだよ!」



 そう言うと彩芽はハッと目を見開いた。

 ようやく自分が後手に回っていることに気づいたのだろう。



 最初からそうだ。

 彩芽はカウンターによる一撃必殺の技。恐らく自身の定めた範囲内の敵に自動で攻撃を仕掛ける技を放っている。



 だけどそれは一撃で仕留められてこその技だ。



「初手で仕留められなかった時点でお前は負けてんだよ。現にお前は俺の攻撃に対応するので手一杯だ。残念だったな? 九条家自慢の刀の能力を持ってしても俺のスピードには遠く及ばないみたいだ」



 俺の攻撃を弾き続ける彩芽の額に汗が滲む。

 先程までの余裕は消え失せ、俺の言葉と実力に動揺し始めているようだ。



「いいえ。いいえ!! 私は九条家の正当な血を引く刀使いよ! お前なんかに、お前なんかに負けるはずがないんだから!!!」



 彩芽の感情が露わになった瞬間。彼女は自身の戦機の技を放棄して自分の力で刀を振るった。



 それはきっと本来刀型に備わっている自己強化が自身にも備わっていると俺に知らしめようとしたのだろう。



 だが悲しいことに彼女の戦機には、その能力は備わっていなかった。



 やけくそになった彩芽の攻撃は自動迎撃よりも遅く、未熟なレベルでとてもエリートのものとは思えないほどお粗末なものだった。



 そんな彼女の攻撃を俺はレイピアで刀を絡め取った。

「いや……」と彩芽が声をあげる。


 そんな彼女に俺は拳を握りしめる。



 ライトニングスパローで反撃すれば確実に殺してしまう。ならここは戦機に頼らずただ殴る!



「終わりだよ!」



 かなり力を抑えて、速度を落とした拳が彩芽の鳩尾に突き刺さり嗚咽を漏らさせた。



 彩芽は全ての酸素を口から吐き出し、白目をむいて崩れ落ちた。



 そんな彩芽を見下して俺は呟く。



「これがお前ら九条家が捨てた鈴芽ちゃんの真の力だ。バーカ」

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