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19話 人気者、兄、誤解

 教室に戻ると、1時間目が終わっていたらしく、私達はクラスメイト達に囲まれた。



 様々な質問が飛び交う中、一番多かったのは私の実力についてだった。



 気になるのも仕方ないはず。

 中学生である年齢の私が、特別強化実習生としてここに転入したのだから。



「何ができるの?」「早く走るだけ」


「魔力量が多いの?」「普通ぐらい」


「凄い技が使えたりとか?」「うっ……どうかなぁ」



 このように、答えられる範囲で頑張って答えた。

 最後の質問に対しては、言っていいか迷った。



 だってあれは私じゃなく、大樹が使ったんだもん。

 どうやったかなんて言葉にできないわよ。

 私から言える範囲なら……「ただ早く走ってたら、とんでもない威力の一撃が出る」って言い方しかできないわ。



 ぎこちない笑みを浮かべ、そんな当たり障りのない答えをしていると、興味は次第にアリステラに移り、私の前からクラスメイトが居なくなった。



 アリステラに目を向けると、クラスメイトの質問に笑顔で答えている。誰とでも直ぐに打ち解ける彼女を見て私は少し羨ましく思う。



 あの性格は人に好かれやすいはず。

 それに対して私は、あんな真似できない。



「はぁ」とため息を吐くと、目の前に大好きな雪也お兄ちゃんがやって来た。



「鈴。お前何でここに? 特別強化実習生なんて……お前そんな力があったのか?」


「い、いやぁ。まあ? 努力してたら、なんか認められたみたい。何で選ばれたかは聞いてないから分かんないけど」


「そっか。でも良かったな鈴! やっぱりお前は俺の自慢の妹だ!」



 私の評価にお兄ちゃんは嬉しそうに頭を撫でてきた。



「や、やめてよ! 恥ずかしいじゃない! この馬鹿お兄ちゃん!」



 クラスメイトがいるにも関わらず、頭を激しく撫でられ恥ずかしくなり手を振り払う。



 離れた手に少し残念な気もしたが、自分で払い除けた以上、「もう一回撫でて?」なんて言えない。



 そう思っていると、魂が入れ替わる感覚。意識が体の奥に吸い込まれる感覚に襲われた。



『お兄ちゃんに甘えたいんだろ? なら甘えなきゃ損だぜ? 鈴芽ちゃん!』


『あ、あんた! 何勝手に……!』



 意識が大樹と入れ替わる。

 俺は払い除けたお兄ちゃんの手を急ぎ握り直し、頬に当てる。



「頭を撫でるのはダメだけど、顔なら良いよ。褒めてくれてありがとうねお兄ちゃん。大好きだよ」



 どうだ! これが俺の考える理想の妹の姿だ!

 ツンってした後に照れながらデレる。

 これこそ至高だろ!



『な、ななな! なに恥ずかしい事してくれちゃってんの! この馬鹿! 変態! スッポコピー!』



 魂の中で鈴芽が叫んで批判しているが、結果はというと……。



「お、おう。珍しいな鈴。お前が俺に甘えるなんて……」



 効果覿面だ! 少し面食らってはいるが、妹に握られた手を嫌がらず頬を撫でてくれた。

 男の俺からすると気持ち悪いったりゃありゃしない。



 転生初日は魂が融合しかけていて、お兄ちゃんに好かれる事は吝かでもなかったが、鈴芽の魂と分裂してからは完全に男としての俺を取り戻したみたいだ。



 今思えば、なんで分かれたんだ?



 そう考えていると、鈴芽が答えた。



『それは、多分あの日料理をしてた時に頭痛がして気を失ったからかな?』


『気を失った?』


『そうよ。卵焼きを焼いてたらいきなりズキズキして、意識を失ったのよ。次に目覚めた時は学校前だし、体は勝手に動いてるし、気持ち悪い声が頭の中に響くから驚いたわよ』


『なるほど。つまり、鈴芽ちゃんが気を失ってる間は魂が融合しかけてたんだな。ならこれから気を付けないと、また同じ事になるかもしれない』


『変態愚息虫と融合なんて嫌だからね!』


『ねえ? その“変態愚息虫”って何? 最初に聞いた時からすごく気になってんだけど……』


『あんたのことよ! 変態で小さい愚息で、虫みたいな姑息さを持ってる馬鹿のことよ!』


『愚息って言うな! 俺の息子は立派な宝剣だよ!』


『宝剣? ぷっ! 包茎の間違いじゃないの〜?』


『な……そんな事ない! 俺のは――』



「鈴? ボーっとしてどうした? 大丈夫か?」



 鈴芽に言い返そうとして、お兄ちゃんに声を掛けられ我に帰る。



 いかんいかん。深層に潜りすぎた。



「大丈夫」とお兄ちゃんに告げた瞬間、隣で「おおお!」と盛り上がっていた。


 

 どうやらアリステラが何かを話して場を盛り上げたようだ。



 そう考えていると、ズカズカとアリステラが俺の前にやって来て、ギュッと抱きつき顔を頬に擦り寄せてきた。



 一体なんだ!と思った瞬間。



「鈴芽は強いのよ! 私を一撃で倒しちゃうぐらいなんだから! あとさっきも言ったけど鈴芽は私と結婚するの! いわば許嫁よ! 許嫁! 分かる? フィアンセって意味よ!」



 な、何言っちゃってんのこの人!?



 俺はこの時初めて鈴芽と同じ気持ちになった。



 アリステラの我儘な愛は迷惑に思うが、話は勝手に進み、クラスメイト達は「きゃー!」と黄色い声をあげていた。



「鈴……お前……」



 お兄ちゃんが誤解したように俺を見てくる。



「ちが……! 私はそんな約束してない!」


「え〜。鈴芽ったら何言ってんのよ。子供何人産むか話もしたじゃない。もう!」


「この馬鹿! 話をややこしくしないでよ!」



 アリステラが頬擦りをしながらそんな事を言った。

 俺は必死にアリステラを引き離そうとするが、とんでもない力だ!



 離しても磁石のように吸い付いてくるアリステラの顔になす術がない。



 そんな俺とアリステラを見て、雪也お兄ちゃんは……。



「そ、そうか。鈴が決めた事なら俺は何も言わないよ。ただこれは言わせてくれ。おめでとう」



 そう言って席に帰っていく。


「ちがう! 誤解よ! お兄ちゃん! お兄ちゃぁぁぁぁん!!」



 手を伸ばし必死に叫ぶが、お兄ちゃんは少し振り返り、「分かってる」とサムズアップした。



 分かってない! 大丈夫じゃない! なんでこうなったぁぁぁ!!



『そりゃあんたがアリスを倒したからでしょ?……。せっかくお兄ちゃんのライバルを減らせたと思ったのに。これじゃ、おじゃま虫が増えただけじゃない』



 鈴芽の言葉に俺は反論できなかった。

 俺はただ、鈴芽の為にアリステラを倒しただけなのに……どうしてこう空回りしてんだよ。


 

 そう後悔しているうちに休み時間は終わりを告げ、授業が開始された。

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