18話 メインヒロイン攻略??
「はっ」
模擬戦の決着から5分後、天井の空いた穴から光が差し込む廃墟と化した演習場のフィールドでアリステラは目を覚ました。
「柳先生! アリステラさんが起きましたよ!」
「ん?」
今の今まで柳先生から質問攻めにあっていた私はホッと息を吐く。
何を聞かれても「なんか出来ました」「走ってたらなんか出ました」と抽象的な答えしかできず、そろそろ限界だと思っていたから助かった。
「アリステラ・バーンズウッド。どこか怪我は無いですか?」
「怪我……?」
立ち上がるアリステラは自身の身に何が起きたのか理解していないようで目をパチクリさせていた。
「気づいてないのか? 君は九条鈴芽の一撃で気絶していたんだ」
「私が!? 一撃で!?」
信じられないと言った様子でアリステラが私を見てくる。
まあそう思うのも無理は無いわよね。私だって何が何だか分かってないんだし……。てかあんた説明しなさいよ!
そう魂の中の大樹の人格に語りかけるが『やだやだ。そんなことすれば話がややこしくなるから絶対嫌だ』と駄々を捏ねられた。
ふざけんじゃないわよ! と思ったが出てこない以上、私がこの場をなんとかするしかない。
「あはは。私が勝ったのは運が良かったのよ。きっと。アリステラお姉ちゃんの調子が悪かったんじゃない?」
「そんなはずないわ。私の体調は万全だった。それに私の放った攻撃は本調子の全力だった。なのにその私が一撃で負けたなんて……」
落ち込むわよね。自分より年下の私に説明できない攻撃でやられたなんて。
そう思って気が重くなったが……。
「凄いわ! 鈴芽! あんためちゃくちゃ強いのね!」
「へ?」
思った反応と違い私は面食らった。
さっきの様子から絶対落ち込むと思ったのになんでこんな元気なの?
『あーあ。やっぱり興味を持たれた……』
大樹が知っていたかのようにそう言った。
いや知っていたのだろう。彼は私の世界や人物について知り尽くしているのだから、この展開は分かり切っていたに違いない。
『知ってたなら、あんたが出てた方が良かったんじゃないの?』
『説明できるからか? そんな事したら鈴芽ちゃん……君は一生アリステラの模擬戦相手に駆り出されることになるよ?』
『え!?』
『アリステラは自分より強い相手に出会ったことがないから、自分を倒した相手に強い好感を抱くんだよ。
本来ならお兄ちゃん――雪也が決闘で勝って興味を抱くはずだったんだが……』
『ま、まさか……』
『お兄ちゃんの代わりに鈴芽ちゃんが倒しちゃったから、今のアリステラの興味は君に向いているね! やったね? メインヒロイン攻略だよ!』
『ふ、ふざけんじゃないわよおおお!!!』
14歳にして17歳の女性から好感を抱かれる事になろうとは……。私はお兄ちゃん一筋なのに!!!
まさかの展開に呆然としていると、アリステラがむふふーと笑顔を向けてきた。
いやまだよ! まだアリステラお姉ちゃんが私に恋愛感情を抱いてるわけじゃないはず。
そうよ! 友達として切磋琢磨する良いライバルとして見てくれるはず――。
「鈴芽! 私と付き合って! いや……結婚しましょ!」
「んがっ!?」
アリステラが私の手を握り真っ直ぐ見つめて告白してきた。
しかも「付き合って」という言葉を取り違えないように「結婚」という言葉まで使ってきた。
頬を染めながら返事を待つアリステラ。
そんな彼女の手を振り払い――。
「嫌よ! 私は女の人と結婚する気はないわ! それに私には、す、好きな人が――」
そう言って断ろうとした。
そんな様子を見て柳先生が「んんっ!」と咳払いをする。
先生の存在を忘れて勝手に盛り上がってしまった事に恥ずかしさと申し訳なさが募る。
「その話はまたにして下さい。模擬戦を通してあなた達2人の能力は把握できました。ちょうど1時間目の授業も終わる頃です。教室に戻りなさい」
「「はい」」
若干不機嫌そうな柳先生は先に演習場を出て行った。
私も言われた通り教室へ戻るため、更衣室へ着替えに行こうとして、左腕にアリステラがしがみついてきた。
「鈴芽♩ 返事がまだよ? 結婚したら子供は何人欲しい? 8人? それとも戦争が起こせるぐらい?」
「な、何言ってんのよ! 女の子同士で子供ができるわけないでしょうが!! てかさっき断ったわよね! アリステラお姉ちゃん!」
「え〜。男好きだから断るなら私、男になるわよ? 手術で男になれば鈴芽は私のこと好きになってくれるでしょ? あと私の事はアリスって呼んで?」
アリス、もといこの馬鹿は何言っちゃってんの? 男になる? とんでもない行動力だわ。
これは確かに大樹の言う通りめんどくさい。
てか、あんたのせいでこうなったんですけど!?
『ごめんて。でもこれでお兄ちゃんのメインヒロインルートは完全に潰せたはず! 正妻ポジが空いたってことを考えれば最高の結果じゃないか?』
『そう言われれば……そうだけど……』
満更でもなくそう思う。
ならこの状況はありなのかな?
「早く着替えに行きましょ♩ なんだったら私が着替えさせてあげても……」
指をウネウネさせながらアリステラがそう言った。
なんていやらしい顔だろうか。私の体を触ってやろうという魂胆が見え見えだ。
「1人で着替えれるわよ! 取り敢えず早く着替えにいくわよ……。アリス」
恥ずかしいがそう呼ぶとアリステラは、パァッと明るくなり。
「アリスって呼んでくれるの!? 嬉しいわ!」
ギュッと腕に強くしがみついてきた。
豊満な胸が腕に当たるが私はちっとも嬉しくない。
だが――。
『おほほ〜♩ すげえ弾力』
私の中の男が鼻の下を伸ばしている。
実態があればぶん殴ってやるのに殴れないのがもどかしいったらありゃしない。
そんなもどかしさと、胸の弾力に挟まれながら私とアリステラは更衣室へ向かい制服に着替えた。
私の体に触れようとするアリステラを睨みながら着替えるのは大変だった。
あまりにもしつこく触ろうとしてくるから。
「触ったら2度と近づけないようにするわよ」と言うと、それ以上は手を出さず大人しくなった。
でも不思議と嫌悪感はない。純粋に私に対して好意を持ってくれる人が出来たのだ。
忌み子や落ちこぼれとして見られずに接してくれるだけで、私は救われるような気がしたのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!