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17話 設定だけで活かされなかった本来の力

「空気が変わった?」



 アリステラは目の前に立つ鈴芽の雰囲気が少し変わったように感じた。

 強気な姿勢は相変わらずだが、瞳の奥に勝利を確信したような何かを感じる。



「ドラグナート!」



 少し警戒を強めたアリステラは戦機に叫ぶ。

 ドラグナートはその声に応えるように、形状が変形する。



 大剣の刃が開くように裂け、柄から灼熱の魔力が光を放つ。



「ドラゴンブレス」



 静かに呟き、その光はより一層輝く!



 それを見た俺は確信した。

 アリステラは前の模擬戦で見せたあの技を使うつもりだ。



 こんな狭い場所じゃパリィポイントを弾くスペースが無い。

 狭い場所に、超弩級の密度の一撃……か。原作通りパワーでゴリ押しの貴族様だな!



『どうすんのよ! あんなの……私の力じゃ、受けきれないわよ!』



 鈴芽が魂の内側から言った。

 勘違いしているようだから俺は軽く説明する事にした。



『受けきるのは確かに無理だ』


『ならどうすんのよ!』


『相手が防御しなきゃならんほどの力を与える! それだけだ!』


「ライトニングスパローッ!」



 俺も戦機ライトニングスパローに呼びかける。

 設定資料で読んだ通りならこの戦機は刀型の比じゃないレベルの破壊力を放つ。



 鈴芽は「瞬間的に光の速さを超えるだけ」と思い込み、それに気づく事は無かった。

 


 現実の鈴芽推し界隈では「この子……最強じゃね?」と言われる程だった。



 その力は「走り続けるほど速度を増す能力」

 瞬間的に光の速さに到達出来る力が最低ラインで、走り続けたら更に上がる……。



 体重45kgの鈴芽が光速を超える一撃を放つ。

 それだけだとピンと来ない表現だな。

 分かりやすく言えば、鈴芽の体重で光速を超えた一撃を大地に放てば……。



 軽く日本1国を壊滅させる規模の一撃になる。

 本気を出せば地球規模で絶滅級の一撃になる。



 まさに頭がおかしいレベルのチートだ。

 こんな設定を持たせたキャラを負けヒロインにした作者……馬鹿じゃね?



 ライトニングスパローから魔力の巡りを感じる。

 資料で読んだ通り、ライトニングスパローに回してある魔力を体に流し込む事が出来た。



 後は走るだけだ……。走ってぶつかるだけ!!



「これで終わりよぉ!!」



 アリステラが魔力を解放し、天井を砕いた。

 その炎の柱とも言える魔力を大剣ごと振り下ろす!



 振り下ろされる瞬間……俺は走り始めた。

 フィールドを回るように……アリステラの周りを走り、速度を高めていく!



「今更走った所で逃げ場なんかないわよ!」



 彼女の目には俺がゆっくり走っているように見えるらしい。

 


 彼女の脳が、あまりの速度で同じ場所を走る俺を錯覚させているんだ! 



 初速で光速。この時点で日本壊滅レベル。

 だがウィザード相手にこれだけでは勝ち目はない。

 魔力障壁があるからな。

 


 アリステラの魔力は世界トップレベルだったはずだ。



 ならこの程度だけじゃぶち抜けない。

 もっと速く……もっと! もっと!!!



 目の前をバチバチとプラズマが弾け、辺りの大気が震える。



 アリステラが大剣を振り下ろすまでの間が、俺にとっては1分、いや30分かかるように遅く見える。

 これが光速に生きる世界……。まさしく光速の雀だ!



 靴が焼け溶け裸足になる。

 服は特殊素材で溶ける事は無かったが、これからは注意した方が良いな。



 そんな余裕な事を考えていると、速度は初速の3倍ぐらいに上がっていた。

 


 俺はレイピアを地に突き刺し、アリステラへ方向転換し、自身の体を撃ち出した!



 威力にして隕石衝突クラス!

 ただぶつかるだけで良い!



 レイピアを前に構える。

 アリステラのドラゴンブレスが眼前に迫るが、威力は俺の方が圧倒的に上だ!!



「戦機諸共、その傲慢さと一緒に吹き飛べ! メインヒロインッ!」



 ドラゴンブレスと突き出したレイピアが衝突した瞬間!!



 パァンッ!!と大気が弾ける音が鼓膜に響き、衝撃波が辺りに拡散し砕いた!



 アリステラ自身も、その煽りを受け吹き飛ばされる!



 手放された戦機ドラグナートだけがライトニングスパローとぶつかる。

 彼女の戦機は魔力の炎と共に木っ端微塵に砕けた。



 俺の一撃は空をも穿ち、雲を切り裂いた。

 周りを見るとフィールドは砕け、演習場は大きく破壊されていた。



 先程の衝撃波……鈴芽の体が高速を超えた事で生じる空気爆発。エアバーストによる被害だろう。

 この学校じゃなかったら街一つが吹き飛んでたな。



 吹き飛ばされたアリステラは気絶していた。

 無理もない。意識外から突然核爆発を受けたようなものだ。



 体が無事なだけ儲けもんだろ。

 それも彼女の莫大な魔力があってこそだが。



『な、ななな……』



 全てが終わり、俺の中の、本来の体の主人が声を震わせていた。



『なんなのよ! この力はぁぁぁ!!』


『何って。鈴芽ちゃん自身の力だよ。 いや〜、設定で見ただけだから上手くいくとは思ってたけど、これ程なんてな〜』


『これ程って……演習場が青空空間になっちゃってるじゃない!! あり得ないわよ! ここは防御結界が張られた最強のウィザードでも破壊不可能な施設なのに!』


『知ってるよ。流石鈴芽ちゃんだな! 小さな体に莫大なエネルギー! やっぱ鈴芽ちゃんは最高だぜ!』



 そう言い残して俺は体の主導権を鈴芽に返した。



「ちょ! いきなり渡されても困るんだけど!」



 そう言った鈴芽に教員の柳がズカズカと歩いてきた。



 怒っているのだろうか、彼女は鈴芽の小さな肩を叩くように手を置いた。



「九条鈴芽! 今のはなんですか!」



 クールな彼女が血相をかいてそう聞いてきた。

 柳の姿は爆風の影響で、髪や服が乱れている。



 私にも、よく分かんないわよ〜!



 鈴芽は魂の中にいる大樹を呼び出そうとしたが、『ピュー♩』と口笛を吹いて無視された。



 こいつ! 柳先生の姿を見て逃げたのね!! むっかつく〜!!



「早く説明しなさい! 九条鈴芽!」


「そ、そんな事言われても何が何だか分かんないわよ〜!」



 肩を揺さぶられながら鈴芽は叫んだ。

 そんな魂の叫びに俺は静かに謝る。



 ごめんな! 普通に話せるようになったから下手な発言は危険なんだ! ここは鈴芽ちゃんに任せた!

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