15話 鈴芽14歳!高校2年になりました。
「ここが君のクラスだ!」
千羽山校長に率いられ、アルケミー校内を案内されて辿り着いたのは2年2組だった。
ここはお兄ちゃんが通うクラスだったと、俺と鈴芽は記憶している。
時刻は8時50分。
HRを終えたあたりの頃合いだろうか。
教室の中から生徒が盛り上がる声と、それを制する女性教師の声が聞こえてくる。
『あんたの記憶だと、アリステラお姉ちゃんがこのクラスに転入するんだったわよね?』
『そうだ。今、教室の中の雰囲気からしてアリステラの挨拶が終わったあたりだろうな』
『あんたの記憶だと……ね。でもこの後、私が挨拶するシナリオなんて……無い』
俺の記憶も共有している鈴芽も、大まかな道筋は理解しているようだ。
『ここからはぶっつけ本番だ……やれるか? 鈴芽ちゃん?』
『前から思ってたけど、鈴芽ちゃんってのはやめて! おっさんからちゃん付けで呼ばれる度、背筋が凍りつくから!』
『なら何て呼べば――』
『鈴芽で良いわよ。不本意だけど、あんたはもう私の一部なんだし……よろしくね……大樹』
『す、鈴芽!!』
俺の歓喜の声は魂の中で出される前に掻き消された。
彼女なりの照れ隠しだろう。
全く可愛らしいったらありゃしないぜ!
鈴芽は耳を赤くしていた。
今の俺の声も聞こえていたのだろうか。
「さあ。入りたまえ。担任教諭には話を通してある」
千羽山が紳士的な振る舞いをしながら言った。
中から教師の「もう一人、紹介があります」という生徒を期待させる一言が出た。
それを合図に鈴芽と俺は教室の重い扉に手を掛け、横にスライドさせ中に入る。
そこには20人ほどの女子生徒と、たった一人の男子生徒――雪也お兄ちゃんの姿があった。
お兄ちゃんの隣にはアリステラが座り、二人とも驚いた顔でこちらを見ている。
鈴芽は皆からの注目を浴び、緊張していた。
震える足を前に押し進め、教師と思われる優しそうな女性の隣に立った。
その女性は生徒達に笑顔を向け――。
「なんと! このクラスに史上二人目の特別強化実習生である、九条鈴芽さんが転入することになりました〜!」
「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
生徒達から好奇の目を向けられ、思わず顔が引き攣る。
『俺が変わろうか?』
『い、いや……私が挨拶する! これからこの人達は私と命を預け合う仲になるんだもん……挨拶ぐらい……やり切ってみせるわよ!』
心配したが、余計なお世話だったようだ。
「ふう」と小さく息を吐いた鈴芽は、しっかりと前を見据え名乗る。
「初めまして! 九条鈴芽です! まだ14歳という子供ではありますが、皆さんに負けないように頑張ります! よろしくお願いします!」
名乗り、頭を深々と下げると、パチパチと拍手が鳴り「「「おー!」」」と生徒達が盛り上がった。
それを聞いて頭を上げ、ホッと胸を撫で下ろす。
『頑張ったな! 偉いぞ! 鈴芽ぇ〜』
俺は魂の中から涙を流した。
そんな俺の言葉に『ふん!』と返した彼女は、教師の指定した座席――真ん中の席に着く。
生徒達が立ち上がる前に教師は「1時間目の授業を始めます!」と教科書を開き始めた。
『あの先生、優しいだけで頼りないかと思ったけど、メリハリが効いてんな。クラスが盛り上がって滅茶苦茶になる前に授業に入ったぞ?』
『お兄ちゃんから聞いてはいたけど、あの先生……今年赴任した新任の斉藤由貴って先生よ。
現役ウィザードでもあるから、戦闘教官って立場らしいわ』
『また俺の知らない設定……覚えておくか』
鈴芽からの情報を新たにインプットしていく。
やはりこの世界は、ただの本の世界ではないようだ。
なんて言うべきか……生きている。
周りのモブだった生徒達に、この斉藤先生。
皆が生きて、世界が成り立っているんだ。
大まかな設定はあるが、リアルな世界観。
俺の認識を改める必要がありそうだ。
原作知識から未来が分かるという認識ではなく、細かな情報に詳しいだけという認識に。
そしてやはり、アリステラとお兄ちゃんの模擬戦イベントは起こらなかった。
昨日でそのフラグが折れたのだろう。
そんなことを考えていると――。
「アリステラさんと、九条鈴芽さんは身体能力測定を行いますので、教室の外にいる先生のもとに移動して下さいね」
斉藤先生から優しくそう言われた。
その指示に「はい」と返事し、鈴芽とアリステラは立ち上がった。
アリステラの方に顔を向けるとヒラヒラと手を振ってくれた。
鈴芽も小さく振り返し、二人は教室を出る。
教室を出てすぐ待ち構えていたのは、厳しそうな女性だ。斉藤先生とは違い、冷たい印象を受ける。
「君達が転入生の二人ですね」
「「はい!」」
「今しがた斉藤先生が仰ったように、これから二人には身体能力測定を行ってもらいます。私は柳と言います。では、ついて来て下さい」
必要なことだけ伝えて、ツカツカと歩き出した柳。
鈴芽とアリステラは互いにキョトンと顔を合わせ、柳についていく。
綺麗に整った校内を進むこと数分……。
柳が立ち止まった。
その場所は、昨日アリステラと訪れた演習場の部屋の前だった。
「早速ですが、二人には模擬戦をして頂きます」
「「はい!?」」
柳の言葉に鈴芽とアリステラが疑問を浮かべた。
身体能力測定と聞いたからてっきり機械を使った軽いものとばかり想像していたのに、それが模擬戦?――急すぎる!
「あの……私じゃアリステラさんの相手にならないと思うんですが……」
鈴芽が自信なさげに柳へ言った。
だが……。
「貴方達の基本的な能力は把握しています。私は実戦での判断力を見たいのです。準備を」
聞く耳を持たない……。
「これは仕方ないぞ」と俺は鈴芽を諭した。
鈴芽も諦め、不安そうなアリステラと共に更衣室へ向かうのだった。
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