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14話 その話受けます!

 手紙にはこう書かれていた。



「昨日の模擬戦を拝見しました。

 その際の貴方の戦闘を拝見し高校職員で会議を行った結果、九条鈴芽の実力は中学生レベルを逸脱していると判断されました。

 その為、此度貴方を特別強化実習生として東京第三戦闘高等学校アルケミーへの進級を推薦しようと思います。

 ご了承頂けるなら、職員室までお越し下さい。」



 この内容を見て俺は動揺すると共に、「チャンス!」だと思った。



 お兄ちゃんとアリステラの過ごす高校でのイベントは中学からでは把握しきれない。 



 『なら、この提案受けるに越したことはない』


 『そうね。私の実力に見合ってるとは思えないけど……お兄ちゃんの傍に居られるなら。異論は無いわ』



 そう判断した俺と鈴芽は手紙を片手に席を立つ。



「鈴芽ちゃん? 授業が始まるよ?」と声をかけてきたクラスメイトに「ちょっと用事」と言い残し教室を出る。 



 ここから職員室まではそう離れてなく、廊下を歩くとものの数分で辿り着くことができた。



 職員室の扉の前で鈴芽は立ち止まり息を整える。



 ここを潜れば大好きなお兄ちゃんと同じ高校に通える。



 だけど同時に14歳の身であり、落ちこぼれの私が高校生達と腕を磨き合わなければならない。



 そう思うと小さな体の両肩に重いプレッシャーがのしかかる。



 『大丈夫だ。鈴芽ならやれる! 俺は君が本当に強いことを知ってるからな!』


 『う、うるさいわね。そんな事あんたに言われるまでもないわ! でも……ありがとね』

 


 そう照れた鈴芽は、意を固め。



「失礼します!」



 職員室の扉を開く。

 中は芳しいコーヒーの香りで包まれ、授業の無い教師が鈴芽の入室に視線を移してきた。



 鈴芽の入室に気付いたのは、中学にいるはずのない人物、アルケミー校長の千羽山太蔵だ。



「来たか。忌み子よ」



 彼は両手を広げ鈴芽の入室を歓迎する。

 だが忌み子と呼んだことに対して俺と鈴芽は内心ムッと腹を立てた。



 この人物については鈴芽も知っているほど有名人だが、読者だった俺の方が詳しい。



 千羽山太蔵は、アルケミー校長でありながら国防大臣を兼任している要人だ。

 故に九条家の内情にも詳しい。

 そして彼は実力でしか人を判断しない。



 それが鈴芽を推薦しておきながら忌み子と呼ぶ理由だろう。



 鈴芽は一礼し、千羽山の前まで歩みを進める。

 彼の前まで移動し、もう一度一礼する。

 


「初めまして千羽山校長。九条鈴芽、手紙の内容を受ける為、来ました」


「君の性格を考えると断られると思ったが、意外にも決断が早かったな?」



 千羽山は、「ほお」と少し驚いたように、鈴芽を見る。



 『こいつ。鈴芽の性格まで知り尽くしてやがんのか。

 何から何まで知り尽くしたような顔しやがって……気味の悪い爺さんだな。』


 『黙って! 今大事な話をするとこなのよ? あんたは私の邪魔をしたいの?』


 『い、いえ! 俺は鈴芽ちゃんのやりたいことを応援する献身的なファンです!』



 そう言って俺は魂の中から鈴芽の行動を見守ることにした。



「判断が早いも何も、私も忌み子とは言え九条家の端くれ。国の為に力となれるのであれば、今回の提案を受けないはずがないでしょう? 千羽山校長」


「然り。君の言う通りだな。これは失言だった、許してくれ」


「いえ。気にしないでください」



 そう答えると千羽山は少し笑った。

 鈴芽の余裕そうな態度を見て、面白いとでも思ったのだろう。

 そんな彼は手を叩いて話を切り出した。



「軽い挨拶も済んだことだ。早速君をアルケミーに連れて行こうと思うが……準備は良いかね?」



 カバンは教室に置いてきたが、中は中学生用の教科書一式と弁当だけだ。



「はい。すぐにでも行けます」



 弁当は惜しいが、この勢いを保った状態で高校に行きたい。



 少しでも間を置くと足がすくむような気がした俺と鈴芽は流れを勢いに任せることにした。



 千羽山は「はっはっは!」と大きく笑い鈴芽の方に手を置いた。



「君は話で聞いた内容とは違い、判断力に長けているようだ。ならば行くぞ。君の新たな学舎にな!」


「はい!」



 千羽山に続き俺達は職員室を出た。

 中学教員達は驚いた顔をしながら鈴芽の退出を見送っていた。



 彼らは彼女がこのような推薦を受けるとは夢にも思わなかったのだろう。



 それもそのはず、彼女はつい最近までは周りの生徒と同じレベルの実力しか持っていなかったのだ。



 それが知らないところで実力を示し高校に進学することになったのだから驚くのは当然だろう。



 そんな俺達は校庭を出て、千羽山の所有するリムジンに乗り込む。執事のような男が運転し、俺達と千羽山は向き合うように座った。



 道中彼が何かを話すことはなかった。

 今は特に鈴芽について知りたいことはないのだろう。



 知りたいことがあるとすれば、実力だろうな。



 そう俺が考えていると……。



 『実力が見たいの? それは困るわ。あの時の模擬戦は私じゃなくて、あんたが体を動かしてたんだし、私の実力は中学にいた頃と全く変わってないわ』



 鈴芽が心配そうに俺に話しかけてきた。



 『安心しなって。運動不足の俺でもあそこまで戦えたんだ。それは君が今まで鍛え抜いた力が高校生にも通用するレベルだってことだよ』


 『でも私の戦機は速度だけで、何の役にも立たないわけだし』


 『そんな事ないって。俺の思考が読めるなら君の実力と戦機は使い道がたくさんある。

 その知恵を使えばいい。新たな発想が欲しいなら俺が教えてやる。

 それでも自信がないならまた君の体を借りて実践して感覚を焼き付ければいい。』


 『わ、分かったわ。とりあえずあんたの言うことを信じてみる』



 鈴芽は少し安心したように思考から消えた。



 千羽山が腕を組みながら目を閉じている気まずい空気感のリムジンはアルケミーを目指す。

 それは到着まで20分という短い時間であった。

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