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12話 九条家の忌み子

 コロッケを堪能した俺たちは全員で片付けてから、再びテーブルを囲み一息ついた。

 皆は俺が淹れた紅茶を飲んでいる。



 食後のティータイムというやつだ。まあ高い茶葉ではなくティーバッグの物なんだが。



「さっきの話なんだけど……」



 この癒しの静寂は、アリステラの一言で幕を閉じた。

 さっきの話――つまり家族についてだろう。



 先ほどお兄ちゃんの様子を見て、流石にアリステラも話を聞いていいかどうか迷ったようだが、気になって仕方なく口にしたのだろう。



 お兄ちゃんはあまり気乗りしない様子で、「はぁ」とため息を吐きながら下を向いた。



 怒りも反発もない様子から、話しても問題なさそうだ。



 お兄ちゃんが話すより、ここは当事者である俺こと鈴芽の口から語ったほうがいいだろう。



「いいわ。気になってしょうがないんでしょ?話してあげる」



 鈴芽自身、アリステラへの信頼度が上がったのか、口頭で変換される言葉が本来のツンツンした鈴芽のものに変わっている。



「まずなんだけど、ここに住んでるのはお兄ちゃんと私の2人だけよ」


「そうよね。もうこんな時間なのに誰も帰ってくる気配がないんだもの」



 時刻は20時手前。普通の労働者なら帰宅していても良い時間帯だ。ブラック企業戦士?知らん知らん。



「仲悪いの?」



 流石に気づくよな。アリステラが申し訳なさそうにそう聞いてきた。



 そんな心配そうな彼女に俺は、あまり深く考えないようにニコッと笑いかける。



「まあ良くはないわね。お兄ちゃんに対しては優しいけど、私はあまり良く思われてないから」


「どういうこと?」


「簡単に言えば、私は家で見捨てられた子だからよ」


「え……」



 アリステラの表情が曇り、お兄ちゃんはギリッと唇を噛み締めた。


 この話は読者であった俺にとっても辛い話だ。


 作中の鈴芽は済んだことと割り切っているが、今の鈴芽には俺の魂が混ざっている。話してはみたが心が痛む。



「見捨てられたってどういうことよ?あなた、まだ中学生でしょ?そんなことって――」


「あるのよ。私たちの家、九条家にはね」



 九条家。由緒正しい女性武士の家系であり、無影一刀流の家元。



 生まれてくる全ての女性が刀型戦機を手にし、莫大な力と家に伝わる秘伝の技でウィザード中最高峰の実力者を輩出している。



「まあ、かなり格式高い家なのよ。生まれてくる女の子は皆刀型戦機でウィザードになって大成してるわ。でも私が目覚めたのは……」


「レイピア型」



 模擬戦で鈴芽の戦機を見たアリステラが小さく呟いた。その言葉に俺は頷く。



「そう。代々刀型しか生まれてこなかったはずの家に、なぜかレイピア型の私が生まれたの。まあ答えは簡単なんだけどね」



 戦機は遺伝する。家が選んだ配偶者であれば間違いなく刀持ちが生まれるはずなのだ。だが、違ったということは――。



「まあ、お母さんが浮気して生まれたのが私ってわけよ!」



 明るく誤魔化したが、流石に無理だった。

 アリステラはどう反応して良いか分からず、「あ……」と言葉に詰まっている。



 ここまで話したんだ、もう遠慮なく全て話してしまえ!



「だから私は刀型戦機に目覚めなかった。そのせいで母は裏切り者の女として屋敷に幽閉され、私は見事嫌われ者の忌み子として見捨てられて家を追い出されたってわけ」


「そんな事!許されていいはずがない!なぜ誰も反論しないの!この国には優秀な警察とか弁護士がいるでしょ?なんで」


「無理なのよ」



 そう。この世界ではウィザードの力が何よりも優先される。

 


 しかも九条家は今まで国を支えてきた実績がある。そんな家に警察や弁護士が介入できるはずがない。



 故に、日本でありながら別の国のような場所――それが九条家だ。



 それはアリステラ、バーンズウッド家も同じ。



 今の一言で無理な理由が彼女にも伝わったようで、「ここも同じってわけ」と悔しげに呟いている。



「そんな顔しない!別に私は不幸ってわけじゃないもん!こんな私を気にしてくれてる大好きなお兄ちゃんがついて来てくれたしね!」


「だ、大好きって……お前何言ってんだよ」



 お兄ちゃんが照れた!

 素直に好意を告げたのは良かったな。



 事実、お兄ちゃんがあの家から出て鈴芽と一緒に暮らしてくれたのは、本当に救われたことだと原作にも書かれていた。



「本当に感謝してるんだからね!……こんな私と一緒にいてくれてありがと。お兄ちゃん」


「当たり前だろ!たった1人の妹なんだ。お前を1人にさせるわけないだろ」


 

 お兄ちゃんのこういうところが好きだ。

 読者である俺も嫌いではない。むしろ憧れてしまうほど行動力がある。


 

 それは目の前に座るアリステラも同じだったようで。



「偉い!私あなたのことちょっと疑ってたけど見直したわ!九条くん、あなた妹想いの優しいお兄さんなのね」


「お、俺は、兄として当然なことをしただけで、そんな褒められるような事は無いぞ」


「あるわよ!家族と離れてまで妹さんの傍にいてあげることを選んだ九条くんは立派よ」


「あ、ありがとう。バーンズウッドさん」


「アリスでいいわ!鈴芽も私のことはそう呼んでちょうだい」



 アリス呼び……これは確か相手を認めたことへの返事だったはず。



 原作だと転校初日、お兄ちゃんと決闘した後にその名で呼んでいいと言われるイベントだ。



 つまりアリステラがお兄ちゃんに対しての好感度が上がったということ。



 好感度が上がる部分に関しては覚悟していたが、このイベントが今回収されたって事は物語の設定から大きくズレているってことか?



 そうなると今後の展開にも変化があるかもしれないが……中学生の俺にはその変化を見届ける事ができない!

 まずいぞ。どうにかして対策を練らないと!



「鈴芽?どうしたの?」


「な、なんでもないわよ!あ、アリスお姉ちゃん!お兄ちゃんのこと見直したからって好きになっちゃ駄目よ?お兄ちゃんはアリスお姉ちゃんの手に余るほどスケベなんだから!」


「ちょ!鈴お前何を!」



お兄ちゃんの好感度を調整しようとしたらツンに変換された!今の言葉を聞いたアリスは顔が真っ赤に染まり――。



「スケベって……やっぱりあの時見た私の裸を想像して何かするつもりなの!?この変態!」



 ティーカップを投げつけ始めた。

 お兄ちゃんは「や、やめ!」と防御するが、中に入った熱々の紅茶を頭から被り。



「あっつ!!!!」



 情けない声を上げた。



 好感度的には変化はなさそうだが、これで冷え切った空気は温まっただろう。



 まあこの場で一番温まったのはお兄ちゃんの頭なんだけどな。



 そんな興奮冷めやらぬアリスを、俺たちは15分ほど時間をかけて宥め、この場を解散することにした。


 

 夜道を女の子であるアリスを1人で帰らせるのはどうかと思い、致し方なくお兄ちゃんを差し出した。



 女の子同士の夜道なんて危険度倍増だしね。



 この送りでラブラブになるほど進展することもないだろう。



 そう思い俺はティーカップを洗いながら、ルートがずれた原作について考えることにしたのだった。

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