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11話 コロッケ好きなキャラって誰が居るなり?

「さっきはごめんなさい!」



 午後18時ちょっと過ぎ。



 ラッキースケベイベントから10分後、俺とお兄ちゃん、アリステラはテーブルを囲い夕食を前にしてアリステラの謝罪を受けていた。



 正確に言えば、お兄ちゃんへの謝罪だ。



「あなたの家だというのに覗きだの言って悪かったわ。引っ叩いちゃってごめんなさい」



 そう謝られたお兄ちゃんの頬には、赤々とビンタの跡がくっきり残っていた。

 そんなお兄ちゃんはアリステラの謝罪に「まあまあ」と笑顔で答えている。



「俺も中に人がいるとは知らなかったとはいえ、ノックをしなかったのも悪かったよ。どうせ入ってたとしても妹だし良いかと思ってたから」


「ちょっとお兄ちゃん?それどういうこと?私の裸だったら見ても何の問題もないって言ってるように聞こえるんだけど?」


「え?そうだけど?」



 こりゃダメだ……完全に意識されてない。

 実の妹だから当たり前なんだが、恋する鈴芽ちゃんにその反応はキツすぎる。



 今の一言で心へのダメージが2割ぐらいグッサリ響いたぞ。



「少しぐらい意識しなさいよ……ばか……」



 しまった!心の声が口に漏れた!

 ハッとした俺は恐る恐るお兄ちゃんを見るが――



「ん?何か言ったか?鈴」



 古き良き鈍感系主人公の能力。肝心な場面での耳の遠さが炸裂した。



 今の場面では助かったが、これが後々炸裂するとなると面倒だ。



 流石ハーレム主人公。この能力があってこそ、あの女子校で生きていけるというわけか。



「何も!言ってませんけど!」


「何をそんなに怒ってんだよ……意味分かんねぇよ」



 意識されてないことに怒っているから、この反応は当然だ!



 少しは妹以前に、女性らしい扱いをしろってもんだ。



「仲良いわね〜。そういえば2人は兄妹って言ってたけど、ここには2人だけ?他の家族はどうしたの」



 アリステラのそんな疑問は、空気を一瞬で凍りつかせた。  



 俺は話しても良いんだが、お兄ちゃんがダメだ。今の一言で笑顔から一転し、翳りが見える。



 お兄ちゃんは九条家の存在を家族と思っていない。



「なに?どうしたの?九条くん?」



 アリステラの純粋な疑問はお兄ちゃんを更に追い詰める。



 このままだと2人の仲が完全に途切れてしまう!そうなると未来で【エリミネーター】との戦いで敗れバッドエンドだ。

 


 アリステラの力は、大群で迫る【エリミネーター】の数を減らすヒロインの中でも唯一の存在。



 ここで仲間になるフラグをへし折るにはリスクがデカすぎる!



「お兄ちゃん」



 俺は隣で俯き怒りに震えるお兄ちゃんの手を握る。

 するとお兄ちゃんは俺に「鈴?」と心配したように顔を向けた。



「私は大丈夫だよ」


「鈴がそう言うなら……」



 お兄ちゃんは俺の意図を理解して怒りを抑えた。コップにペットボトルの茶を注ぎ飲み込んだ。



 それは怒りも一緒に飲み込んだように……一息つくとお兄ちゃんは「ごめん。空気を悪くした」とアリステラに頭を下げた。



 アリステラはなぜ謝られたか理解していないようで、首を傾けた。



「アリステラお姉ちゃん。とりあえずご飯にしよ?この話は長くなるし、それにコロッケ食べたかったんでしょ?早く食べなきゃ冷めちゃうわ」


「う、うん」


「じゃ!手を合わせて!」



 俺の合図でお兄ちゃんは手を合わせた。アリステラは2人が手を合わせたのを不思議そうに見ている。



 ドラゴニアには食前に挨拶をする習慣がないのだろう。これは原作や設定にも描かれていなかった。



 もしかすると他にも描かれていない情報があるかもしれない。細かい気付きだが大きな収穫だ。



 お兄ちゃんが席を立ちアリステラのそばに歩み寄り、手を握る。



「な、なに!?なにするの?」


「アリステラさん。日本だと食べる前にこうして手を合わせるんだ」



 お兄ちゃんはアリステラの両手の平を合わせて耳元で話す。



「手を合わせて、食材を提供してくれた農家、動物や植物への感謝を込めるんだ。そして有り難く頂戴することを俺達は“いただきます”。その言葉で告げるんだよ」


「いただきます……ね。分かったわ。ありがとう九条くん」


「雪也でいいって」



 お兄ちゃんはアリステラの傍を離れ、何事もなかったかのように自分の席に着いた。



 あれを自然とやってのけるんだから流石主人公だよな。前世の俺が同じことやったら事案だぞ。



「てか!お兄ちゃん!アリステラお姉ちゃんの体に触りすぎ!エッチ!」


「なッ!?俺はただ日本式の挨拶をだな――」


「ふん!どうだか!気を取り直して――手を合わせて!」



 3人がパンッと手を合わせる。俺は2人を見渡し――。



「いただきます!」



 先に挨拶をし、2人が後に続いた。



「「いただきます」」



 食事が始まりアリステラはフォークでコロッケを刺し、まるで宝石を眺めるように恍惚な表情で見つめている。



「これが……下町料理――コロッケ」



 ひとしきり眺め、大きな口を開け齧り付いた。



「ん〜!!」



 コロッケを口一杯頬張ったアリステラは、ギュッと目を閉じて足をジタバタさせた。



 マナー的にはアウトだが、ここは家の中で初めて食べる念願のコロッケだ。余計な一言で幸せな気分を台無しにするのは人としてやってはいけないだろう。



「ど?美味しい?」



 この一言で良い。今はこれさえ聞けば俺の……鈴芽の心は満たされる。



「美味しいも何も最高よ!サクサクの衣に噛んだ瞬間、中の小さなお肉と芋からジュワッと肉汁と甘味が口一杯に広がって……絶品よ!!――それは?」



 アリステラはお兄ちゃんがコロッケにソースを掛けているのを見て聞いた。 



「これか?ソースだよ。これをドバッとかけるのが美味いんだ」




 そう言ってソースをヒタヒタになるまで掛けるお兄ちゃん。

 はっきり言って、そんな食べ方をするのはお兄ちゃんだけだ。



「へ〜……なら私も――」



 そうソースに手を伸ばしたアリステラの手を俺は握り阻止する!



 させるか!初めてのコロッケをあんな冒涜的な食べ方で闇に染めてたまるか!あれは食べ慣れてからやるものだ!



「お姉ちゃん!私が掛けてあげる!」


「え。そう?ならよろしく頼むわ!」 



 大人しく引き下がったアリステラ。



 俺はソースを手に取り“適量”コロッケに掛けた。

 アリステラは「むう……少なくない?」と不満げだが、初めてはこれぐらいが良い。 



「少ないと思えば継ぎ足して良いから。食べてみなさいよ」


「鈴芽がそう言うなら――」



 パクっと口に入れると「んー!」と目を輝かせた。

 こうして美味しさを体全体で表現してくれると、作った甲斐があるってもんだ。 



「何これ!香辛料に野菜の甘み?絡みが複雑だけどコロッケの甘みに合わさるとすごく美味しい!」


「それは良かったわ。じゃあ私も――」


「ちょっと鈴?あなた何を掛けてるの?」


「何って?塩だけど」


「塩〜?」



 俺は塩を手に取ってコロッケに振りかけたのを、興味深そうにアリステラが見て驚いたように声を上げた。



 油物には塩と俺は昔から決めてんだよ。ソースも美味いが、最初からパンチの強い味にすると飽きるんだよ。



 まずそのまま食べて、塩……最後にソース。おっさんの味覚は飽きが早いからこうして味変してやらんとダメなんだ。



 カプっと齧り付くと、油の旨みに塩のしょっぱさが合わさり軽く胃に流れていく。

 そしてこの塩味が白米をより進ませる。



 やっぱ塩なんだよな〜



「美味しい〜!」


「美味しそう……鈴!鈴!私も私も塩!」


「はいはい。慌てないでよね?コロッケは逃げたりしないんだから」



 塩をパッパと掛ける様子を、瞳を輝かせながらアリステラが眺め、齧り付き悶絶した。 


 

 余程コロッケが気に入ったのだろう。

 それから彼女は一口一口噛み締めるように味わい、舌鼓を打っていた。



 敵であるはずの彼女なのに、こうして自分が作ったものを美味しそうに食べる様子から憎みきれなかった。



 友達までなら許せるわ。だけどお兄ちゃんの隣は絶対に譲らないんだからね!

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