3話 猫カフェにて
俺はどちらかといえば犬派だ。それも顔がぺちゃんこの、ぶちゃいくなブルドックとかパグとかフレンチブルドッグとかそんな系統が好きだ。
でも両親が再婚した時に茜の母方が飼っていた猫を連れてきてから俺は猫派の気持ちもわかるようになったのだ。
最初は分からなかったよ?
気まぐれで懐いてきたり、どっか外に出て帰ってくるか不安に駆られたけどちゃんとご飯の時間には帰ってくるやら。どうやら猫は自由気ままでそこが良いってことにね。
そんな俺の家で飼っていた猫は二匹。名前を秘匿大吟醸とザビ丸。
ひっどいネーミングセンスだと思うけど、この名前をつけたのは他でもない、茜の母だ。
義母も茜と同様に無類の酒好きで、センスもそれはそれは酷かった。
まあ悪い人ではないんだけどね。
っとまあそんな二人が連れてきた二匹は可愛かったのだ。三毛猫の秘匿大吟醸――俺は吟ちゃんって呼んで、もう一匹の黒猫のザビ丸。二匹とも性格は真逆で、吟ちゃんは甘えん坊で俺の作業中に腕に顔を擦り付けてくる可愛さは本当に何とも言えないものだった。
対してザビ丸はツンツンしてて、俺から触れようものならシャーッと威嚇する癖に気が変わった時にはゴロゴロ甘えてくるというツンデレ属性を兼ね備えた俺好みの猫だった。
『あの二匹に会えなくなったのは悲しいけど。ここでも猫と触れ合える場所があるなんてなぁ……』
『それは良かったわね。でももう少し感情を抑えてくれない? あんたの悲しみが私にも流れ込んでくるから』
鈴芽ちゃんは涙を拭き取りながらそう言ってきた。
すこし感傷に浸りすぎたな。申し訳ない。
っと今は鈴芽ちゃんの意思でアカリとアリスの三人で例の猫カフェに向かう道中だった。
「どないしたんや? 涙なんか流して……。そんなに猫と会えるんが嬉しいんか?」
「そうなの!? 鈴あなたも猫が好きだったの!?」
「え!? あ、あー。うん。そうね。そうなのよ〜。あまりにも楽しみすぎてつい涙が出ちゃったワー」
「えらい棒読みやな〜。まあええわ! アリス? 店まであとどれぐらいや?」
「え〜。だいたいこの辺りのはずなんだけど……」
アリスはスマホと辺りの街並みを見比べながら先を進む。ここは桜庭ではあるものの住宅街の中だ。
こんな所に店があるのか甚だ疑問だけど、地図にはこのあたりにあるのは事実らしい。
まあ猫カフェがあるイメージにはぴったりな雰囲気ではあるんだけど。
「あったあった! ほらあれよ!」
っとアリスが見つけたらしく指差す先には木造で温かみのある中性チックな建物。
所々植物と花で彩られていてカフェという名に恥じない佇まいだ。
「ほえ〜。ええ雰囲気やん」
「そうね〜。周りも静かだし落ち着くにはもってこいの場所って感じ?」
「あ〜。それめっちゃ分かるわ〜。世間から隔絶されたっていうか浮世離れっちゅうか」
「浮世離れはちょっと違うんじゃない?」
思いつきで言ったわよねこいつ――と私はアカリを睨む。アカリはたはは〜。と笑って誤魔化している分、私の考えは間違っていなさそうだ。
「ほーら! 早く行くわよ!」
アリスがワクワクした様子でカフェに向かって行く。
よっぽど猫に早く会いたいらしいけど、私の中のおっさんもアリスとおんなじ気持ちみたいだし、早く行かなきゃね。
そうしてカフェの扉を開ける。
中には客がまばらだが入っていてそれなりに人気の店らしい。
店にはキャットタワーと呼ばれる棒状の置物に猫が丸まって寝ていたり、ピョンっと軽い足取りで登ったり、客の居る机の上で大きな欠伸をしている子までいる。
|「きゃー! 猫よ〜!《『ふぁー! 猫だ〜!』》」
アリスと私の中のおっさんがシンクロしたように喜びを露わにした。アリスはウッキウキで猫たちを見ているが私とアカリはアリスにシーッと指を立てた。
「そ、そうだったわ。静かにしなくちゃだよね」
「せやせや。あまりデカい声出したらあかんから気をつけや〜」
「いらっしゃいませ〜? 三名様ですか〜?」
店員が私たちの元にやってきてニッコリ微笑んだ。
どこか猫っぽい雰囲気のある女性店員だと思った。
「あ、はい! 三人です! いけます?」
「もちろんですよ。空いてる席にどうぞ〜。あと大きな声と言っても叫んだり他のお客さんに迷惑いならない程度でしたら構いませんよ。うちの子達は人に慣れてますので〜」
「そうなんですか! うちの子達って事はあなたの飼ってる猫ちゃんなんですか?」
「ええ。そうよ〜。だからあまり気構える事なく楽しんでいってくださいね」
そう言って店員は他の客に呼び出されこの場を去った。
アリスは今の話を聞いてよりウキウキしたようにキャットタワー近くの席に向かう。
アタシ達も続いたのだが――
「あ〜。めっちゃええな〜。ここ最高やんけ〜」
なにか妙に聞き覚えのある声が……。
その声の方に顔を向けると、顔がこれでもかってほどに蕩けた結由織先生の姿が。
いやあの喋り方的には茜さんか。
「せ、先生!? なしてこないなとこに!?」
「んあ? おー。アカリ達やないか〜。おっは〜」
茜さんは私たちに手を振ってきた。
アカリはまさか過ぎる茜さんの登場に顔が青ざめていく。前々から思ってたけど、アカリは茜さんの弟子みたいなものなのよね? なのにこのビビりようはよっぽど恐ろしい鍛え方させられたのかな?
茜さんが手招きする為、私達は相席することにした。
流石に無視して別の席に座るのも気が引けるし、何よりあれから話がどうなったのか気になっていたから聞きたいってのもあった。
アリスは少し残念そうにしていたけど、ここにも猫が数匹丸まっている分、文句はないようだ。
そこに腰を下ろし私達はさっきの店員にコーヒーを注文した。
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