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2話 束の間の平和

 今日は休日だ。

 来栖さん達に与えられた特訓メニューを終えて帰宅すると、そこにはお兄ちゃんとアリスとアカリの三人がテーブルに突っ伏したり、お菓子を食べながら談笑しているところだった。


「おかえり鈴〜。お前ももう終わったのか?」


「うん。バッチリとね。お菓子私にもちょ〜だい」


「ん」


 

 アカリが突っ伏したまま、テーブルの真ん中に置かれたお菓子の詰め合わせのお盆を差し出してくれた。

 何を食べようか、品揃えは煎餅にクッキー、チョコレート……あ。雷おこしあるじゃない。もーらい。


 

「鈴。あんたそれ食べるの?」


「なによアリス。私が雷おこし食べるのが悪いって?」


「い、いいやそう言うわけじゃないけど……」


 

 ハッキリしないアリスね。一体なにが引っかかってんだろ。


 

「お鈴ちゃん? アリスな〜? さっきそれ食べてあまりにもかったいもんやから、噛むの諦めて舐めて柔らかくしてようやく今食べ終わったとこやねん。歯。痛かったんやろ?」


「ちょっとアカリ! なに言い出すのよ恥ずかしい!」


「え〜。ホンマのことやんか〜。なに今更恥ずかしがっとんねん。ウチらの仲やろ? 包み隠さず晒し合おうやないか〜」


「ちょっと! ウザい! その手を止めなさいよ!」


 

 アカリがむくりと体を起こして正面に座るアリスにうねうねと手を伸ばした。

 アリスはめんどくさいアカリをあしらっているのだが、どうやら特訓メニューを経た2人にはまだまだ体力がありそうだ。

 


「包み隠さず晒しあうね。そういや鈴。お前俺たちに隠してる事あるんじゃないか?」


「え? 隠してること? ないけど」


 

 突然なにを言い出すのやら、お兄ちゃんは私に疑いの目を向けてきた。

 雷おこしを小さくひと齧りして、自分がそう疑われている可能性について考えてみたけど、やっぱりお兄ちゃん達に隠してることなんか何一つないと思う。


 

「そうか。分かったよ」


「変なお兄ちゃん」


 

 どうやら納得したようだけど、どうしてそんなことを聞いたのやら。

 なにか悩み事があったのかな?

 そんなお兄ちゃんの様子がおかしい事はアリスもアカリも今の一幕で察したようで、アカリはアリスにちょっかいをかける手を止めてお茶を飲んでいた。


 

「そういやさ。先生達から誰か連絡あったか?」


「私は受けてないわ。雪也と鈴の方は?」


「俺もまだ何にも」


「私も同じく〜」

 


 アルカトラズから帰投して死塚拘束に向けての話し合いを済ませてからと言うもの、時が来たら連絡すると言って特訓メニューを渡し、いつ来るかも分からない連絡を待ち続けていた。

 あれから1週間はたったけど、国も自衛隊も、ファンタジアにもこれといった動きはないように思う。

 まあ束の間の平和を謳歌してる分は楽しいんだけどね。


 

『本当に束の間だと思うよ。きっと連絡が入ればかなりきつい死闘が待っていると思う。今のうちに十分英気を養っておくべきだと思うよ』


 

 そんな事、大樹に言われるまでもなく分かってる。

 けど、そうね。漠然と毎日を過ごすより今ある幸せを噛み締めるように過ごした方がいいわよね。


 

「ねえみんな。明日さ。どっかに遊びに行かない?」


「お! ええやん! ウチは賛成〜」


「明日? 体を休めたいところだけど、鈴が行くなら一緒に行きたいわ!」


 

 うんうん。2人とも元気でいいわね。


 

「お兄ちゃんは?」


「俺は……」


 

 少し考え込み、

 


「俺はいいや。家で体を休めることにするよ」


「えぇぇぇ! なんでよお兄ちゃん!? 一緒に行こうよ〜」


 

 断られてしまった。想像にもしていなかった返事にガッカリだ。

 


「悪いな。ちょっと今は気分じゃないんだ。ごめん」


「そう言うこっちゃ仕方ないな〜。ほなお鈴ちゃんとアリスの三人で女子会と洒落込むとしよか」


「いいわね〜。だったらどこに行くか今から考えましょ! ほら鈴も!」


「ちょ、ちょっと!」


「そう言うことなら俺は必要ないよな。ちょっと散歩に出掛けてくる」


 

 気が早すぎる。この2人はもうスマホを出して明日の予定を立てるつもりみたいだ。

 お兄ちゃんは浮かない顔のままこの部屋から外に出て行ってしまった。


 

「ゆっきーどないしたんや?」


「さあ? 鈴に隠し事されてる事気にしてたみたいだけど。何かあったの鈴?」


 

 そんなお兄ちゃんが出て行ってから、アリスとアカリもお兄ちゃんの様子が気になったのか互いに顔を近づけ合いつつ私に顔を向けた。


 

「なにがあったもなにもないわよ。私何にも隠してないんだから!」


ホンマか〜(ほんと〜?)


「本当よ! 失礼しちゃうわね!」


 

 とは言ってみたけど、お兄ちゃんは私のなにを見て隠してるって思ったんだろう。

 


『大樹は分かる?』


『さあ? 男には女性の心を完全に理解する事はできないのです。故にきっとお兄ちゃんも成長した鈴芽ちゃんの違和感を見てそう錯覚したのかもしれないね』


 

 なに聖人みたいに言ってんだか。

 っと今はお兄ちゃんのことを考えても分からないものは仕方ない。


 

「仕方ない。今回はお兄ちゃんは諦めるとして――明日の予定を立てよ! どこ行く?」


「お! 乗ってきたなお鈴ちゃん。せやなぁ。ウチこの辺りは初めてやし2人の行きたいとこでええで?」


「私はこの街にずっと住んでるから特段行きたい所はないけど――」


「ならさ! 私行ってみたいところがあるんだけどいい?」


「いいわよ。どこ行きたいの?」

 


 アリスはスマホを弄り、画面を私たちに見せてきた。


 

「ここよ! 私ここに行ってみたい!」


「「猫カフェ〜!?」」


 

 それはまごう事なき猫カフェだった。

 ここからさほど離れていない場所に最近オープンしたらしく。外観は綺麗なものだった。


 

「アリス。猫好きだったんだ」


「ええ。猫と言わず動物全般大好きよ! でも家じゃ規則があって飼えなくて……」


「やから猫カフェで触れ合おうって事かいな」


「うん……」


 

 なんとも可愛らしいことを言うじゃないのアリスは。


 

「そう言うことなら明日はそこに行こ! それからの予定はその時にでも考えればいいでしょ」


「せやな! なら明日は猫猫デーと洒落込みますかぁ!」


「「「おー!」」」


 

 猫か〜。そういえば九条家の屋敷で何匹かの猫がいたけど私も猫と触れ合うのはそれ以来久しぶりね〜。


 

『俺も俺も! 実家で猫飼ってたけど、それ以来久々なんだよ! 鈴芽ちゃん。明日ちょっとでもいいからさ。体貸してくんない?』


『あんたも猫触りたいのね。いいわよ』


『やった〜!! 鈴芽ちゃん大好き愛してる! むちゅ〜』


『きったないオヤジボイスでキス音だすな〜!! キモすぎて吐き気がする〜!』


『ひ、ひどい!?』


 

 そんなこんなで私たち全員猫と触れ合えることを楽しみにしつつ、夕方まで雑談し解散することになった。

 帰ってきたお兄ちゃんはスッキリした様子だったけど。

 家を出る前の一言がどうしても気になってしまう私なのだった。

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