42話 観察
「アカリ! あんた目が覚めたのね!」
「おかげさまでな。にしてもあんたら容赦なさすぎやろ。ウチ操られてたとはいえ仲間やで?」
ケリーの人格から一転し、アカリの普段の仕草が表に出てきた。今の彼女は頭が痛むのか頭部を抑えながら苦悶の表情を浮かべている。
「にしても頭めっちゃ痛いわ……」
「相当ケリーの催眠術が酷かったみたいね。で? ケリーはどうなったの?」
「今は何も感じんな。アンタらがボコして、内側ならあのアホたれを引っぺがしたから当分は目覚めへんか、もしくは消えたかのどっちかやろ」
後者であってほしいけど、私たちは専門家じゃないし、あまり楽観的に考えるのは危険ね。
「にしてもごめん。ウチのせいでこんなえらいことになってもて……」
言ってアカリは今なお戦う茜さんと死塚に目を向ける。
二人の戦闘は互いに譲らずといったようだが、どちらが優勢ともいえない状況だ。
「一応言っとくけど、あそこに行くのはやめた方がいいわよ」
「そうだな。先生もそうだけど、あの囚人の実力。あれも本物だ。あれでブランクありって言ってんだから、このままここで逃すのも危険だ。なにがあってもここで捉え直すしかない」
二人の戦闘に目を向けながら私たちの会話に入るお兄ちゃん。その横のアリスにも目を向けるが、どうやら彼女もお兄ちゃんと同じ意見だったらしく、「雪也のいう通りね」と悔しげに呟いた。
「そうは言うけどウチらにあの囚人が倒せるか? 先生があそこまで戦ってもいまだに倒せへんような相手やぞ?」
「そうね。でもやりようはあると思うわ」
アリスが死塚の動きをじっと見つめてそう言った。
「今の今まであいつの戦い方を見てたけど、あの戦機……泥みたいなやつね。あれがいろんな形の武器に姿を変えるから上手く戦えないと思ってたんだけど、逆にそれが弱点になるのかもしれないわよ」
「というと?」
お兄ちゃんは首を傾げた。
それにアリスは「そうねぇ」と死塚を指差す。
「まず今の先生がなんであそこまで戦っていられると思う?」
「そりゃあ、今の時代の最強だからだろ……」
「雪也あんたねぇ……。少しは先生の戦い方を見て学びなさいよね」
まったく……と呆れたアリス。
「いい? あの人がどうしてあそこまで、あの形の変わる戦機を前にして無傷でいられてるのかっていうと。これは私の個人的な意見だけど――」
あまり自信がないのか、話そうとしたアリスの顔が少し困ったように見えた。
「いいから話してよ。今のままじゃ確実にあいつに逃げられる可能性が高いんだから」
「そうね。確かに鈴の言う通りかも。だったら言わせてもらうけど、先生があの戦機に上手く立ち回れているのはきっと、先生の戦い方自体があの囚人に予測できないからだと思うの」
そう言って二人の戦闘を詳しく見てみる。
そこには茜さんがパイルバンカーで殴ろうと見せかけておいてタックルを仕掛けたり、足を引っかけたりと細かい動作が見えた。
器用といえば器用。姑息といえば姑息。
だがその卓越された動きは死塚の動きを鈍らせ、思ったように攻撃を返せていないようにも確かに見えた。
「今の話からしてアリスはあれやな? さっきのお鈴ちゃん達の戦い方はまあ、あいつからしたら予測しやすいカモやったっちゅうわけや」
アカリが失礼なこと言ったけど、まさしくその通りだろう。今思えばさっきあいつに挑んだ時、私たちは必死すぎて動きが単調だったかもしれない。
「ということは、あいつに俺たちの動きを予測されないように立ち回ることができれば――」
「うん。勝てる可能性は十分にあるかもしれないわよ」
となればここで指を咥えて見てるだけじゃダメだ。
それは今のアリスの話を聞いたみんなも同じだと頷いた。
「だったら奴の予想の斜めをいく作戦を考えなくっちゃね」
「ああ。しかも速攻でな」
「奇抜な発想やったらウチも得意やで」
「ふふん。それだったら私にいい考えがあるわよ。聞きたい?」
「「「聞きたい!」」」
アリスが意味深に笑い告げたその言葉に私達は答えた。
そこからアリスに聞かされた作戦は頭がおかしいと思えるような物で、作戦と呼ぶにはあまりにも味方を巻き込みすぎる物だった。
――――――――――――――――――――――
「これが現最強の実力ですか。なるほどこれは興味深いですね」
「何が興味深いですね……やねん! 余裕かましおってからに!」
茜の攻撃を全て余裕といったように躱されては、カウンターを見舞う死塚に対して腹が立つ。
今の世の中から最強と持て囃されるとはいえ、このように余裕を装われると、コイツこそが真の最強なんじゃないか? と自信をなくしていく。
今こうして茜が戦えているのは、奴の戦機を有利な武器に止めていられるからだろう。
そんな今の死塚の戦機はダガーだ。
同じ重量系の戦機ではこちらに分があると見られ、スピードとテクニックで対応してくる。他の武器に見た目を変化させても、この調子で卓越した実力を見せようものならきっと勝てないだろう。
そう考え茜は表情が引き攣る。
「おや? 焦りが見えますね。どうしましたか?」
「嫌味か? ウチが必死に食らいついとることに気づいとるくせに」
「いやいや。それはないでしょう。私も気を抜けば一瞬で命を刈り取られるような錯覚に襲われてるのですからお互い様と言えるでしょう」
そうは言うが死塚はやはり余裕ありげだ。
そんな一進一退の攻防を繰り広げていると、離脱したはずの鈴芽達がこちらに向かって駆けてくるのが少し見えた。
その中には茜自身が育て上げたアカリの姿も混じっていて、思わず頬が緩んだ。
彼女達の表情はまだ諦めたものではない様子だった。
何か作戦を立ててきたのだろうか?
短い合宿での成果を見るにはこれ以上ないぐらいに舞台は整っている。
茜はそんな子供達の姿に少し期待を寄せつつも、死塚との交戦を継続する。
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