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41話 叩き起こすのが最善

 はっきり言って死塚はとんでもなく強かった。

 最初は啖呵を切って挑んだが、彼女ときたら茜さんを相手取りながら私たちを片手間であしらう程度の力であっという間に制圧されてしまった。


 

 身体中が傷まみれになり、血が吹き出ている。

 幸い致命傷ではないのだが、これ以上の継戦は困難と見て少し離れた場所で死塚の隙を伺っているところだ。



「なんなのあいつ。ただの囚人の癖にどうしてこんなに強いのよ」


「そんなこと言われても俺も知らないって。でも実力は本物だ。俺たちが束になっても手も足も出ないなんて……」


 

 隣で肩で息をするアリスとお兄ちゃん。

 二人の体も傷まみれで痛々しい物だった。

 悔しいけどこの二人の言う通り手も足も出なかった。

 今は茜さんだけが奴の相手をしていた。

 ケリーはというと、二人の先頭の余波に晒され、迂闊に身動きができないと離れた場所でいつ離脱しようか様子を探っているようだ。



「あいつの相手は結由織先生に任せて俺たちはアカリの奪還に向かうべきじゃないか?」


「それもそうね。ケリーの様子からして一人では逃げられないんでしょ? 多分あの囚人を連れて帰るってのが目的らしいから」


「お兄ちゃんとアリスの話に私も同意見よ。でもただ戦うだけでケリーをアカリの中から叩き出せると思えないんだけど、そこの所何かいい案あったりしない?」



 二人はケリーから視線を恥ずかすに唸った。

 その反応からして恐らく良い案は出ることはないだろう。寧ろ、この手の話は私の方が詳しいまである。



 『俺が鈴芽ちゃんの中にいるからね〜』



 そう言うことだ。

 きっと今のアカリも私と同じように、魂の中にケリーが居着いてるんだろう。

 どうやって体から叩き出すかって事だけど……。



 『あんた何かいい案ないの?』


 『ちょっと待って? 今の状況的に知りませんって言いづらいのに聞く? そうだなぁ』



 大樹は必死に考え始めた。

 その思考が私の脳内にも流れてきては何を考えているのか伝わってくる。

 そこで一つ気になる内容が流れた。

 それは大樹がこの世界で初めて目覚めた時のことだった。



 『そういや俺がこの世界で目覚めた時、鈴芽ちゃんは意識なかったよね?』


 『それは、あの時は熱で寝込んでたから……。頭が痛くなくなったと思って気が付いたらまさかおっさんが私の体を動かしてた事には心臓が跳ね上がるほど驚かされたけどね』


 『だったら。追い出すことは出来なくても、アカリの意識を目覚めさせることは出来るんじゃないか?』


 『なるほど。ならあいつの中にいるはずのアカリの精神を叩き起こせば――』


 『ケリーの意識を黙らせることができるはず!』



 そうと分かれば話は早い。

 私は今の話を二人にしてみた。

 すると、最初は不思議そうに私を見たが、試してみる価値はあると、理解してくれた。



「それにそれならあの囚人の相手せずに済むしね」


「そう言うこと。ほら二人とも戦機を持って」



 私達はそれぞれ戦機を握り立ち上がる。

 向かう先はアカリの体を乗っとるケリー。

 彼女の精神を叩き起こす方法は分からないが、取り敢えず殴ってみればワンチャン目覚めるかもしれない。



「準備は良いわね……」



 チラリと二人の顔を見る。

 二人は首を縦に振っていつでも良いと返した。

 そして私を先頭に、ケリーの元へ駆け出す。



「やはりこちらに来ますよね!」



 私達の動きに気付いたケリーが戦機を召喚しグローブで私のライトニングスパローと撃ち合おうとする、

 だが光速で動く私の動きに対応出来ず、容易に死角に入り込む事が出来た。

 何発か攻撃を入れたが、奴は今アカリの体と言う事もあり本気をぶつけるわけにもいかない。

 やり辛いと正直思った。



 『なにも戦機で撃ち合う必要はないよ! 中にいるアカリが目を覚ますように殴るか語り掛ければ良いんだからね!』


 『なるほど! そう言う事なら!』



 やり易い! 私は背後に回り込んで足払いを見舞い、ケリーの体勢を崩した。

 奴の表情から余裕が消え失せている。余りにも軽い体、そして慣れない戦機での攻撃はおぼつかず、奴にとってアカリの体は動かす事に未だ慣れていないようだ。



「目を覚ましなさいよ! この馬鹿!」


「なにを!?」



 床に倒れ込んだケリーに拳を叩きつける。

 まさか本気で殴られるとは思わなかったのだろう。

 奴の顔に私の拳が突き刺さり、何故私が味方に対してこんな攻撃を出来るのか理解できないと言った様子だ。



「あんたも馬鹿ね! 取り憑いたアカリは確かに味方ではあるけど……殴り合うぐらいには恨みが篭ってるのよ!」



 スパゲッティの恨みとかお兄ちゃんとの距離が近いとかね!! 食べ物の恨みと嫉妬心が私に力を与えてくれる。

 割と本気で殴れてしまった私に中の大樹が『うわぁ……』とドン引きだ。



「ほらさっさと起きなさいよ! いつまでこんな男に体を乗っ取られてんのよ!」



 続く拳を振り上げたが、奴は魔力を目に集中させたのか、私の動きに対応し、すんでのところで回避してみせた。



「どうかしてますよ!? この子はあなた方の味方でしょうに!」


「そうよ! 味方だからこそ本気で叩き起こすつもりなのよ! お兄ちゃん!」


「おっけー!」



 私に気を取られてばかりのケリーはお兄ちゃんとアリスの接近に反応が遅れた。

 グローブを振るうが、その扱いづらく殴るしか振るい方が分からないケリーはお兄ちゃんの戦機による峰打ちを腹に受ける。



「く、くそぉ! 本物のウィザードの体だと言うのにどうしてこう扱い辛いんですか!」


「それは、お前が男だからだよッ!」



 お兄ちゃんが峰で九条家直伝の剣術をケリーに打ち付けていく。ケリーはなんとか食らいつこうと必死だが、捌ききれていない。

 それもそうよね! 慣れない女の体で扱い辛い戦機なんだもの! それはアカリだからこそ扱える代物。

 決してポッと出のあんたが扱えるような物じゃないって事よ!



「アリス!」


「本当にやるわよ! 良いのよね!」



 奥に控えたアリスはドラグナートを掲げ魔力をチャージしていた。 私達の動きを見て殴りつけるのが最善だと察してくれていたのだろうが、それにしてもドラゴンブレスの準備に入ってくれていたとは……流石に適応力が高い!



「「やって!(やれ!)」」


「どうなっても知らないからね! ドラゴンブレスッ!」


「このイカれたガキ供がァァ!」



 振り下された魔力の奔流がケリーにぶつけられた。

 グローブで防御を試みたようだが、アリスの魔力量を前になす術なくケリーはアカリの身を焼いていく。

 確かにイカれているだろう。

 味方に対して過剰なまでの攻撃。

 だけどこれで――



「いつまでそこで寝てるつもりなのよ! アカリッ!!」


「うっさいなぁ!」



 いつもの口調が光の中から響いてきた。

 それはケリーの話す言葉とは雰囲気が違い、アカリ本来の物だった。

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