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39話 脱獄とアカリとケリーと。

 ブー!ブー!ブー!


 『緊急事態発生! 収容ブロックに何者かが侵入! 囚人番号1089番の高速が解除されました! 至急現場に急行されたし! 繰り返します――』



 尋問室でイズナの聞き取りを行なっていると突如激しく鳴り響くアラートと放送が流れた。

 明らかに以上事態だと思わされるこの状況に、私たちの前に居た刑務官も「すみません!」と一礼し急いで部屋から出て行った。



 この部屋に残されたのは私達とイズナと刑務官一人だけになった。



「今の聞いたな?」



 そんな中

 茜さんが私たちの前に立って偉く真面目な面持ちで聞いてきた。



「この場合学生のあんたらは逃した方がええんやろうけど。状況が状況や。ウチらも刑務官と一緒に囚人の鎮圧に向かうで」


「「「了解!」」」



 茜さんの後に続いて私たちは部屋を出る。

 白い通路が今は赤いランプで眩く輝き、目が眩しかった。私の中にいる大樹は『映画かよ……』と呟いていたが、それ程までに今の状況が機器的だと思い知らしてくれていた。



 アルカトラズには何回か来たことがあるのだろうか、茜さんは迷うことなくひたすら真っ直ぐ通路を進んだ。

 私たちは後を追いながら戦機を召喚し警戒しながら先を進む。

 途中何度か厳重なゲートのようなものが見られたが、どれも開放されていた。

 恐らく外部からの侵入者がここから通って収容ブロックに向かったのだろう。

 だけど、なんで収容ブロックに?



「先生! アカリがまだトイレから戻ってないんですけど!」



 お兄ちゃんが先に走る茜さんにそう声を上げた。

 だが茜さんは怪訝な顔で舌打ちを打って返す。



「アカリは後や。ええから黙ってウチについてこんかい!」



 内心心配してはいるのだろう。

 だけど茜さんはプロのウィザードだ。

 物事の優先順位は弁えていて、アカリは今の状況よりも後回しにせざるを得ない。

 それは私にも分かる、だけどお兄ちゃんの気持ちも痛いほどあかる。

 少しの間とはいえ苦楽を共にした仲だ。

 もしトイレに囚人が向かっていたと思うと今すぐ駆けつけない気持ちが溢れる。



「二人とも心配しないで。アカリは来栖さん達の攻撃を受けてもピンピンしてるぐらいタフな子じゃない」



 私とお兄ちゃんの考えを詠んだのかアリスがそう言ってくれた。



「確かにそうね。お兄ちゃん。今は結由織先生の言う通り先を急ご? このままじゃ外に囚人が溢れかえってより危険な状況になる!」


「わ、分かってるって!」



 そうとは言えアカリの無事が気になるのだろう。

 お兄ちゃんは優しい。

 この状況でも自分のことより人の心配ができるのだから。

 そう考えながら通路を走り続けると、空気が変わったように暗い空間に足を踏み入れた。



「ここから収容ブロックや。恐らく開放された囚人がここに向かってくるやろう。各自警戒と臨戦体制を取っときや!」


「「「了解!」」」



 緊張感が走る。

 今まで九条家にケリー、イズナとそれなりに悪人と対峙してきた。

 とはいえ、ここに収容されるような危険人物達も彼女達と同じかそれ以上に危険な奴らだ。

 警戒するに越したことはない。

 私たちは口をつぐんで通路の影に意識を集中させる。



「出口よ! こっちだ!」



 奥から女性の声が聞こえる。

 ドタドタと聞こえる足音からかなりの人数がこっちに向かってきているようだ。



「来るで!」



 つまり敵だ。

 私たちは通路の奥から走ってくる集団に目を向ける。

 彼女達は思い思いの戦機を携えて突撃してくる。

 囚人達だ!



 彼女達と接敵するや否や茜さんはパイルバンカーで一網打尽に吹き飛ばした。

 撃ち漏らした数人は茜さんの横をすり抜け後ろの通路へ向かおうとする。

 それを私達が処理し、難なくこの場を無事乗り越えられた。



「目的の場所はまだ奥や! 急ぎ」



 そう言って茜さんはあっという間に奥に向かって行ってしまう。

 私達も急ぎ後を追った。

 数分走り続けていると一際大きな空間に出ることができた。外ではない。目の前には鉄の大きな扉。それが少し開いて中から冷たい冷気が漏れ出ていた。

 その中に足を踏み入れると、見知らぬ女性と、見覚えしかない女性がそこにいた。


 

「ア、アカリ?」



 そこに居たのはアカリだった。

 トイレに向かったはずの彼女が何故ここに?

 もしかするとこの放送を聞いてすぐにここに向かったのかも。

 そう思い彼女の元へ向かおうとすると茜さんが手で制した。



「せ、先生?」


「動くな」



 何かに警戒したような茜さんがそう言った。



「でもアカリがあそこに――」


「あれはアカリやない……」


「え? でもあれは確かにアカリの姿じゃ――」



 私はお兄ちゃんとアリスに振り返る。

 二人もあれはアカリだと言ったが――



「いや。ウチにはわかる。姿形は同じやけど……雰囲気が違う。なんて言うか……別人のような」


「おやおや流石に鋭いですね。正解ですよ? 結由織沙織さん」



 アカリが関西弁でなく標準語の丁寧語で言った。

 その違和感丸出しの話し方に私達も少し疑問に感じ始める。



「あんた誰や。アカリに何をした」


「私ですか? 嫌ですね〜。先生。私ですよ? 品川アカリ。貴方の生徒にして弟子である私の姿を忘れてしまったのですか?」


「ほざけ! アカリはそないな話し方せえへん! あんた昨日の学校の時からアカリの中に入っとったな?」



 どう言うこと? 昨日の襲撃からアカリはアカリじゃなかったって事? 一体いつから――



 『なるほどね』



 どうやら大樹は何かに気付いていたようだ。



 『あんた何か知ってるの?』


 『知ってるって言っても今、合点がいったんだけどね。昨日のケリーとイズナを倒してからケリーのやつが最後に何か唱えて逃げたの覚えてるでしょ?』


 『うん。でもそれは何の効果もないからただの時間稼ぎだったんじゃないの?』


 『いや。今思い返せばあれからあかりの様子が少しおかしかったように思える』



 言われて思い返す。でもそこまで変な様子はなかったと私は思うのだが、どうやら茜さんと大樹の反応からして、それは勘違いではないと言う事らしい。



「流石、結由織沙織。私の正体にもとっくに気づいておられるとは……。ええその通りです。私はケリー。この子の体を少し乗っ取っているのですよ」


「な、なんで!? あんたは確かあの時逃げたんじゃ――」



 私の言葉にアカリは笑う。



「ええ。そうですよ? 確かに本体は逃げましたが、私が最後にかけた催眠術。思考の一部に私の自我を植え付けることには成功したんですよ」


「な、なんでそんな事を――」


「なるほどな……そう言うことかいな」



 茜さんは何かに気付いたようだ。

 それが何か分からなかったが――



「どうやら察しがついたようですね」


「ああ。あんたらは最初からこの状況が目的やったっちゅことがな!」


「ど、どう言うことですか先生!?」



 お兄ちゃんとアリスも首を傾げていて分からないと言った様子だった。

 そんな私たちに一切顔を向けず茜さんは戦機を構えたまま暗い空間にいるアカリを見つめる。


 

「全国の学生をたぶらかして教師陣に毛一回芯を強めさせ、学生の一人に自我を植え付けて片方を捕まえさせる。それもこれもここに来て囚人を解放するのが目的でな!」


「ご名答!」



 パチパチパチと拍手するアカリ。

 そんな彼女が横に居る灰色の髪をした囚人服を着こんだ女性を促す。



「初めまして。私は奏凍死塚と言います」


「はあこれはこれはまたえらい面倒なやつを解放したもんやで……」



 名乗った女性を見つめたまま汗を垂らす茜さん。

 彼女がここまで警戒することは珍しい。

 警戒――そうさせる程に危険な囚人であると言うことはその様子から伝わってくる。

 そんな死塚はニヤリと微笑み、腕を前に伸ばした。



「戦機解放」



 彼女の詠唱に応えるように魔法陣から戦機と呼ぶには生物的で、未気質な塊がその手に握られた。



「油断すんなよ。 あれは相当厄介な囚人や」



 茜は告げる。彼女が一体何をしてきたのかを――。



「奴は奏凍死塚。今から10年前に幾つもの【エリミネーター】から街を守り抜いた英雄であり狂人や。人の為と言っときながら味方ウィザードを何百人も殺した極悪人や」



 告げられた言葉を聞いて私たちは警戒をさらに強める。

 そんな奴が開放されていると思うと、今すぐ逃げ出したくなるのだが、それは許されないようだった。

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