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38話 真の目的

 品川アカリは少し席を外すと告げて尋問室を出ていた。

 鈴芽達にはトイレだと思われて自分の行動に不信感を持たれなかったことに、アカリは胸をなでおろした。


 

 トイレに向かう通路を見ると至る所に監視カメラが備え付けられている。

 トイレに向かうフリをして、アカリはポケットに忍ばせた端末を作動させ、カメラで守られた通路をひたすら真っ直ぐ進む。

 


「思ったより上手くいきそうで良かった。全くイズナっちにも困ったものですよ」


 

 おっと、自分の口から声を漏らしてしまったことに気づき、慌てて手を当てて口を塞いだ。

 そう呟いてしまったのは、アカリの体を思ったように動かせない証拠だ。

 今のアカリの体の中には、彼女の人格を上書きした新たな人格――ケリーが居座っていた。

 


 アルケミーでケリーが最後に放った催眠術をアカリに向けたところ、自分の意識をアカリの脳に焼き付けることに成功したらしい。

 ケリーの本体はと言うと、今頃ファンタジア本部でのんびり自分の仕事の成果を待っていることだろう。

 


 そう、元々ケリー達ファンタジアの目的は学生の勧誘などではなかった。

 それはあくまでウィザードや教師の目を欺くための口実。

 あんな素人に毛が生えた程度の学生を仲間にしても、国家をひっくり返すほどの力は手に入らない。

 本当に欲しい力は、圧倒的に高められ、一つの力で脅威と知らしめられるほどの物だ。


 

 その為に、講義と称してあからさまに怪しく全国各地の戦闘学校に赴き、学生を教師に警戒される程度に勧誘してみせた。

 全てはアルカトラズに捕らえられたウィザードを解き放つ為に。


 

 予想外だったのは、イズナが学生に敗北して捕まってしまったことだ。

 まさか桜場アビスの解放者があのような力を持っているとは思わなかった。

 「本部の情報部に後で文句を言ってやろう」と思いつつ、事前に調べ上げておいた通路の暗唱キーを手袋をはめた手で入力し扉を開いていく。


 

 刑務官の警備が薄いのはきっと、人の手による裏切りに対しての対策だろう。

 このご時世、ウィザードという馬鹿げた力を持った人間に対して、人での警備は信用ならない。

 裏切り、魔力を使った精神干渉があるからだ。

 その為、カメラや厳重な防壁を使ったアルカトラズのような刑務所が出来上がったのだろう。

 


 その警戒は概ね正しかった。

 ただし、あまりにもシステムに頼りすぎたが故に、情報が漏洩することを見越していなかったのが今回の刑務官達の過ちだろう。

 アカリの体を使ったケリーを止められる存在など、この場に誰一人としていないと勝ち誇った笑みを浮かべた。


 

 最後の扉に、記憶していたパスワードを打ち込んで開く。

 ここから先は収容ブロックだ。

 一面白い廊下から打って変わり、真っ暗で赤いランプの弱々しい光だけが灯された血色の空間へと足を踏み入れる。

 ここに来るまでにかかった時間は8分。

 そろそろ尋問室にいる奴らが違和感を持ち始める頃だろう。

 そうなると、カメラの異常にも気付かれるはず。


 

 そう思い、ケリーは走ってこの先を目指した。

 解放する収容者は10年前に日本で活躍した原初にして最強のウィザード。

 彼女は戦闘に明け暮れ、終わりのない苦痛の連鎖に嫌気がさし、人類が滅びることこそ救いと称して人類に牙を剥いた狂人。

 


 その意思はファンタジアに通ずる物があり、きっとケリーの話にも耳を傾けてくれるはず。

 その女性の名は奏凍死塚(かなしみ しずか)

 人類で唯一の戦機マルチウェポンの使い手。


 

 マルチウェポン……。

 それは槍であったり、大剣であったり、弓であったりと、数多の武器へと姿を変える不定型の戦機だ。

 魔力の塊でしかないその戦機は、死塚の意思に従い理想の形に変化する。故に臨機応変、千差万別だ。


 

 ゲート技術が確立される以前の黎明期、【エリミネーター】からの侵攻をその戦機のみで迎撃し人類を救い、最後には絶望しウィザードを何百人と葬った最悪の化身。


 

 そんな彼女が収容されているブロックはもう近い。

 持って来た端末のおかげで難なくここまで侵入することが出来た。

 そして目的の大扉の前で足を止める。

 ここは最早ゲートと同じような分厚く大きな鉄の扉。

 左右の赤いランプのみが光を照らし、いかにもな雰囲気を醸し出している。

 


「これが人一人を収容する所とは……余程警戒されているようですね」

 


 そんな鉄の扉の端にある端末に向かい、パスワードを打ち込んでいく。

 ファンタジア本部の情報部の力は本当に偉大だ。

 ここまで全てのパスワードを調べ上げたことには脱帽する。

 毎日一時間毎に切り替わるパスワードの法則性を見抜き、事前に伝えた上でのこの結果は、最早神技と言っていいだろう。

 


 そんなことを考えて打ち込み終えると、扉がブザーを鳴らしながら開き始める。

 中から冷たい風が流れて来て肌を吹き荒ぶ。


 

「だれ?」


 

 透き通った幼さを感じさせる声が中から響いてきた。

 奥は薄暗くよく見えなかったが、一人の女性が手足を機械で拘束され、目を隠されているのが見えた。

 その機械にはいくつものチューブが接続されていた。恐らくそのチューブは彼女から魔力を吸い出して、自力での脱走を阻んでいるのだろう。

 普通のウィザードがこのようなチューブに繋がれたら、ものの数秒で意識を失うか死に至るだろう。


 

 だが奏凍死塚は生きて正気を保っている。

 それだけで彼女が如何に規格外か分かる。

 ケリーはそんな彼女に伝える。


 

「初めまして。私はケリー。人類の未来を憂う正しき社会を守るファンタジアの一人。貴方と同類のイヴリースですよ」


 

 イヴリース――それは全てのウィザードの原点。

 彼女こそが全ウィザードの祖であり、プロトタイプ。

 この物語の根幹に関わる、いわば――ラスボスだった。

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