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10話 コロッケ×ラッキースケベ

 時刻は16時過ぎ、お兄ちゃんが帰宅するまで残り1時間あたりを控え、俺とアリステラは近所のスーパーで買い物を済ませて自宅のマンションに帰宅した。



 段々頭の中で鈴芽の魂と融合し、雪也と呼ぶ事に抵抗を感じ始めている。



 いつか俺と言う存在はなくなり完全な鈴芽になろうというのか……嫌ではないが2度目の死という感じで、少し怖くなってきている。



「どうしたの?顔色悪いわよ?」


「ふぇッ!?だ、大丈夫よ!ちょっと考え事してただけだから!」



 顔に出てたのかアリステラが心配そうに俺を見ている。


 

 いかんいかん。冷静になれ……俺はすでに死んだ身だ。今更2度目の死を恐れてどうする。それに決めたじゃないか!今生は鈴芽を勝ちヒロインにするって!



 アリステラに空元気を見せ、玄関の鍵を開けて中に入る。



 お兄ちゃんと2人暮らしの2LDKの間取り。


 

 お兄ちゃんが、一人暮らしすると言う建前で、実家から住む場所と生活費を出して貰い、一緒に暮らしている。



 そんな2人だけの家庭感溢れる空間に足を踏み入れ、冷蔵庫に購入した野菜、肉類を詰めていく。



「私も何か手伝おっか?」


「いらないわ!お姉ちゃんはゆっくりしてて!」


「でも……鈴芽にお世話になりっぱなしになるのも何か悪いし……」



 アリステラはどうしても料理を手伝いたいようだが……それだけは許容できん!

 それは鈴芽が料理番としてのポジションを奪われる事を危険視しているわけではない!



 答えは単純で良くあるものだ……メインヒロインには必ずと言って良いほど欠点が備わっている。



 それは目の前でソワソワしているアリステラも例外ではない。



 そう……彼女は絶望的に料理オンチなんだ!



 作った料理が不味いならまだ可愛げがある。だが違うんだ……こいつが料理に手を加えるとキッチンが爆発し、調理器具がスライムのように溶ける。



 そんなバイオレンスな調理の先に出てくる料理は冒涜的な見た目の何かだ!原作だと爆弾として扱われた事もある……信じられないだろうが、文字通り爆弾になるんだ!



 そんな奴に料理を手伝わせたいか?答えは否だ!絶対にこの聖なる場所を、この悪魔大元帥に踏み入らせるわけにはいかない!



「そうだ! お姉ちゃん体動かしたんだし、お風呂に入って待ってなさいよ!」



 我ながら良いアイデアだ! 模擬戦で汗を流したんだ。風呂に入る提案は自然かつ不快感を与えない!

 何より時間も稼げるしな!



「で、でも……」


「でももだっても無い! さっさと入るの! 汚い手でご飯を食べるとお腹壊しちゃうんだから!」


「そんなに私は汚れてるかな?」


「汚れてるわよ! 泥んこのスワンプマンよ! 早く行ってよね!」



 半ば強引に脱衣場にアリステラを押し込みドアを閉めた。



 これで良し! 後はゆっくりお風呂を楽しんでもらう内にコロッケを作ってしまおう!



 時間は……16時半か。今から作るとなると晩御飯の時間だな。お兄ちゃんと同じ食卓をアリステラが囲む事になるが……致し方ない。



 鈴芽の魂が彼女にコロッケを食べさせたがっているんだ。推しキャラの願いを聞き入れず何が推し活だ!



「よし! やるわよ!」



 冷蔵庫からコロッケに必要な材料を取り出して調理を開始した。



 生前の俺は料理をしたことがあまりない。小学生か中学生の頃の調理実習で少し齧ったぐらいだ。



 自身はなかったが、今の肉体は鈴芽だ。

 用意した材料を手慣れた手付きで調理していく。



 不思議な感覚だ。

 体が覚えていると言う表現がしっくりくるだろうか。

 頭の中ではどうすればコロッケが出来るか全く分かってないのに体が自然と最適な動きをしていくのだ。



 蒸した芋をマッシュし炒めた具材を混ぜ合わせる。

 今の自分の様子を見る事は出来ないが、ボールを抱えて手でこねる鈴芽の姿はさぞ可愛いだろうな。



 そんな鈴芽の姿を想像しながらタネを成形する。



 サイズはどうしようか……アリステラは魔力を相当消費してるだろうし、大きめにしておくか。



 アリステラのを大サイズ、お兄ちゃんのを中サイズ、俺のを小サイズに各2個ずつ整える。



「ふんふ、ふ〜ん♩ふ〜ん♩ふ〜ん♩ふ〜ん♩ふっふ〜ん♩」



 なんだ! 料理って意外と楽しいじゃないか。これなら生前にもっとチャレンジしておくんだった!


 

 夢中になりながらも人数分のコロッケを完成させる事が出来た。



 鼻歌で某アニメのオープニングテーマを歌いながら皿に盛り付ける。



 この歌の最後の歌詞のおかげでキャベツは忘れる事は無かった。



「出来た!」



 3つの皿に大中小のコロッケとキャベツの千切り、カットトマトが並び見た目も完璧だ!

 出来立てほやほやで湯気が立っている。


 

「嘘!?もうこんな時間!?」



 時計を見ると時刻は17時半を過ぎていた。

 集中し過ぎてしまったな……そろそれアリステラも風呂から上がってくるはずだが……



「きゃあぁぁぁぁぁ!!」



 何事!?



 突如響いた女性の悲鳴!俺はその声の主人がアリステラだとすぐに理解した!



「覗き!? まさか変態が現れたっての!?」



 キッチンに立てかけていたお玉を手に風呂場に急行する!



 恋敵のメインヒロインだとしても覗かれるのは許せん! 良いか? サービスシーンってのはモブキャラが起こして良いもんじゃないんだ!



 主人公が偶然目撃する事に意味があるんだよ!!



「お姉ちゃん! 大丈――無?」



 そう考えながら脱衣場に入ると、タオルで裸を隠すアリステラと、この物語の主役であるお兄ちゃんこと雪也が遭遇していた。



 そう……これがサービスシーン。お兄ちゃんの、数多の主役がデフォルトで備え持っているラッキースケベというやつだ。



「な、ななな! 何なのよ! あなたは!」


「ち、ちが! 俺はただ服を洗濯しようとしてだな――」



 顔を赤くしたアリステラ。タオルで体を隠してはいるが、その溢れんばかりの見事なエロボディを隠しきれていない。



 見えそうで見えない。奇跡のチラリズム!



 エロい……そうは思うが今の体は鈴芽だ。テンションは上がるが欲情は出来なかった。

 こんな場面で実感してしまったよ……俺……男じゃ無くなったんだな。



「いつまで見てんのよ! このッ変態ッ!!」


「ぶべッ!」

 


 バシンッ! と大好きなお兄ちゃんがアリステラの見事な張り手を頬に受け吹っ飛ばされた。



 嗚呼……お兄ちゃん……そんなに裸が見たいなら俺が見せてあげるというのに。



 お玉を構えた俺は、床で魂が抜けた様子のお兄ちゃんを憐れむ様に見つめながらそんな事を考えていた。


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