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1話 推しキャラ

 お兄ちゃん……私……お兄ちゃんのことが……好き!



「俺も大好きだぞ!! 鈴芽すずめ〜!」



 小さな部屋、大好きなラブコメライトノベルを読みながら、床に敷かれた布団の上でニヤけ顔を浮かべ、ゴロゴロと寝返りをうっているのは、日本に住む32歳の俺こと日向大樹ひゅうがたいき



 手に持っている家宝(俺がそう呼ぶ)ライトノベルは【魔装戦機イヴリース】だ。



 こことは違う、魔力に溢れた日本が舞台のSFかつラブコメ作品――



 女性しか魔力を持たない世界に、唯一男で魔力を持つ主人公・九条雪也くじょうゆきなりが、魔力戦機育成機関である学校【東京第三戦闘高等学校――アルケミー】でヒロインたちと協力し、迫り来る脅威に立ち向かう……といった内容だ。



 俺は数あるヒロインの中でも、お兄ちゃん大好き妹キャラクターの九条鈴芽くじょうすずめがお気に入りだ!



 今は「推し」っていうのか? おじさんには流行りの言葉はよくわからないけど……このキャラが超大好きだ!



 鈴芽ちゃんグッズはすべて3部ずつ揃え、鈴芽関係の二次創作は網羅し、何だったら夢小説まで書いちゃうぐらいだ!



 そんな推しキャラである鈴芽……悲しいかな、絶対に報われることのない、いわゆる負けヒロインなのだ。



 14巻までの内容的に、主人公からは完全に妹キャラとしか見られておらず、何だったら出番まで減ってしまっている……8巻までは出番が沢山あったのに……。



 天真爛漫でツンデレ属性を併せ持つツインテールキャラの鈴芽は、今の時代の読者には刺さらないらしい。



 俺が学生の頃は、ツンデレキャラ全盛期と言えるほど、多くの作品でメインヒロインの座を欲しいままにしていたというのに……悲しいことだ。



 ツンデレ妹キャラは元々好きだったが、特にこのキャラクターには思い入れがあった。



 それは俺が仕事で酷いミスをして、首を迫られたとき。偶然立ち寄った本屋の新刊コーナーに、このラノベが並んでいたのだ。



 そのときの表紙が鈴芽で、俺は「癒しが欲しい……」と思って最初のページを開いた。



 そこにはイラストと共に、絶望している主人公・雪也に手を差し伸べる鈴芽の姿があった。



「諦めるにはまだ早いわよ! 今が人生で1番暗いどん底だとするなら、これからの未来は明るいことしかないはず! だから立って? 私も手伝ってあげるから!」



 そのイラストと台詞を見て、俺の心に光が差し込んだ気がした。



 こんな偶然があるか? 仕事でクビを迫られて絶望していたところに、偶然立ち寄った本屋でそんなシーンに出会えるなんて。



 一目惚れだった。そこから全巻一気に買い揃え、見事俺は鈴芽推しになった。



 それから俺は鈴芽のセリフを心の支えにミスを挽回するほど仕事に取り組み、なんとかクビにならずに耐え切った。



 だが、1年前に最新刊が出て以来、続きが出ていない……作者が突然行方不明になってしまったからだ。



 この先、主人公がヒロインの誰かと結ばれ、鈴芽の恋が成就することはないだろうと諦めていた俺は、「完結しないままの方が良いんじゃないか?」とさえ思う。



 推しキャラには笑顔でいてほしいからな……。



 でも続きは気になる。あの世界で雪也は誰と結ばれ、世界を平和にできるのか……鈴芽は笑顔でいられたのだろうか……それが気になって仕方ない。



 そんな鈴芽に思いを馳せていると――



「おい! 大樹! 朝やぞ! 早よ起きんかい! ボケ!」



 ドアをバンッと開け放ち、義理の妹である日向棗ひゅうがなつめが俺を叩き起こしにきた。



 棗の姿はガタイがよく、髪も短めだ。まあ最近の子って感じの見た目なんだが……。



 一番許せないのは、ダサい白Tシャツに短パン姿で、その短パンに片手を突っ込みボリボリと股を掻きながら、片手に酒瓶を持った山賊スタイルなところだ。



 ふっざけんなよ! 妹っていうのはさ? ちょっと気が強めで、


 「お兄ちゃん! 早く起きてよね? 今日は私と一日付き合ってもらう約束なんだから!」って頬を赤らめながらツンッとしてるのが良いんだろうがッ!



 誰がこんな山賊並みの気の強さを求めたよ……俺ガッカリだよ……15年前に父さんの再婚で義妹ができると聞いたときは嬉しかったけどさ。



 当時から山賊スタイルの棗にはガッカリして、夢をぶち壊された気分だよ!



「何見とんねん変態……キッショいねん。早よ顔洗って支度せえよ? 今日はお盆休みでお爺の家に行くんやから」


「はいはい。お兄ちゃん、今から準備するから待っててくれな〜?」


「何が『お兄ちゃん』やねん。ボケかます暇があんならさっさと手を動かせや。手を動かす言うても、シコってええって訳やないからな〜? はっはっは!」



 酒瓶を仰ぎ飲み、溢した酒で服を濡らしながら、そう言った山賊はバタンと扉を閉めた。



 こういうところだよ……下ネタを恥ずかしげもなく酒を飲みながら言っちゃうところ……こんな山賊、俺は妹として認めませんッ!!



「はぁ……準備しますか……」



 お盆に母方の祖父母の家に行くことになった俺たち家族……母方の娘である棗は、久々に会える祖父母たちにワクワクしているようだが……正直俺は家でダラダラしていたい。



 そう思いながらリュックに荷物を詰めていると――



 ガタガタ!!



「なんだ!? 地震かッ!?」



 家が大きく揺れ始めた! スマホからはアラートが激しく鳴り響き、間違いなく地震がこの辺りを襲っていることが分かる!



「と、取り敢えず机の下に!?」



 避難しようとした瞬間――本棚が傾き、俺に倒れてきた!



 振り返り、倒れてくる本棚を眺める俺……



「あ……まずい……」



 その瞬間……全てがスローモーションになって見えた。倒れる本棚、机から落ちる鈴芽フィギュア、激しくたなびくポスター。



 体も動かない。これは走馬灯だろう。



 なるほどなぁ……本当の走馬灯って、ただゆっくりと死に向かう間に色々考えるってことなんだなぁ……。



 てか俺……思い返すことあんまねぇや……強いて言えば……



「鈴芽ちゃんに押し殺されるなら本望だな」



 そう呟いたのを最後に、俺は鈴芽グッズに彩られた本棚に押しつぶされて死んだ。



 みんな? 耐震対策しような! 俺との約束だ!

妹キャラ好きが妹キャラの為にお兄ちゃんに好かれに行くドタバタファンタジーが始まります。

これはまだ前日譚。

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